東京高等裁判所 昭和42年(ネ)196号 判決 1969年10月14日
控訴人(被告)
東京合同自動車株式会社
ほか一名
被控訴人(原告)
東城梅吉
ほか一名
主文
原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。
被控訴人らの請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、〔略〕
理由
一、被控訴人ら主張の日時場所において、控訴人渡辺米吉運転のタクシー(以下、本件タクシーという)と訴外亀井由久運転のオートバイ(以下、本件オートバイという)とが接触し、本件オートバイの後部席に同乗していた東城和則が死亡した事実は当事者間に争いがない。
しかして、〔証拠略〕によれば事故現場の位置及び模様は次のとおりである。本件道路は第一京浜国道の通称品川駅前交叉点で、本件道路は歩車道の区別があり、車道の幅員二七・〇五メートル、中央部には幅員六メートルの軌道敷内に四条の都電軌道が併設され、歩道の幅員は東側が三・〇五メートル、西側が同二・八〇メートルである。道路はおおむね直線で路面はアスファルトで舗装され、平坦である。東方には品川駅に通ずる幅員一五・二〇メートルの駅前広場出入口があり、同所から入つた車両は同広場の南西隅にある出入口から本件道路の車両通行帯に出るような一方交通になつている。また、西は歩車道の区別ある全幅員一一・七メートル道路と交叉している。本件交叉点は交通信号機によつて交通整理が行われており、交叉点の南北両端には、それぞれ都電軌道の外側に幅員一・五〇メートルの都電停留所安全地帯がある。道路の両側には三〇ないし四〇メートルの間隔で電柱に併設された七〇〇ワットの街路灯(水銀灯)が千鳥式に設置されており、当夜は交叉点西側(高輪警察署品川駅前派出所前)の街路灯が一個消灯していたほかは正常に点火にされていたので、道路は暗くはなかつた筈である。なお、交通規制として、車両通行帯は第一区分が自動二輪車及び軽車両、第二区分がその他の自動車と定められている。
二、よつて、右事故が控訴人渡辺の過失に起因するとの被控訴人らの主張、これを否認して同控訴人にはなんらの過失もなかつたとする控訴人側の主張について検討する。
まず、事実を確定するに、〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められる。
控訴人渡辺は当夜本件タクシーを運転し、八山橋方面から三田方面に向つて進行してきて本件交叉点に差蒐つた。同控訴人は品川駅前広場に進入するつもりであつたところ、偶々対面信号が青色であつたので減速して交叉点に入り、道路中央の電車の軌道敷上で一旦停車して道路の前方を注視したところ、交叉点の北側にある横断歩道付近に数台の自動車がおり、さらにその遙か後方にも数台の車両群(本件オートバイもその中に含まれていた。)の灯火がみえたが、目測によつて、前方の自動車の通過直後発進右折すれば、後方の車両群の到達前に通過し得るものと判断し、前方自動車の通過を待つて発進操作を開始し、後方車両群との距離がなお約一〇〇メートルあるのを認めその動静に注意しながら右折して駅前広場入口の南北に走る歩道(車道と同一平面)に近づいた際、右車両群の先頭にあつた訴外中島一雄運転のタクシーはブレーキをかけその速度をおとしたところ、亀井操縦の本件オートバイが急に右タクシーの影からこれを追い抜き東側歩道寄りにかえて疾走して来たので、接触の危険を感じて急停車の操作をし、後輪が車道との境界線付近まで進んだ地点で停車した。他方亀井(当時一七才)は本件事故の夜前一二時頃本件オートバイの後部席に和則(当時一七才)を同乗させ、それぞれオートバイの後部席に友人一人宛同乗させた訴外桜井敏夫、細野恭紀ら(いずれも当時一六、七才)とともに埼玉県粕壁を出発して横浜方面に向つて走行し、三田方面を通過し、道路の左側歩道より約一・二メートルのところを疾走しながら本件交叉点に差蒐つたものであるが、亀井は交叉点の対面信号が青に変つたので前方に十分の注意を払うことなく、先行する桜井、細野らの後に続いてこれより更に早い速度で疾走し、前記中島一夫運転のタクシーが本件交叉点の手前一〇〇米以上二〇〇米以下の地点で控訴人渡辺運転の車が右折を開始したのを認めて減速したのを時速八〇粁を遙かに超える速力で追越した後始めて本件タクシーが駅前広場へ向つて進行しているのに気づいたが、その際その儘直進するかハンドルを右に切れば本件タクシーとの接触を避け得た筈なのに狼狽の極操作を誤り漫然ハンドルを左に切つたため、本件オートバイを停車瞬間の本件タクシーの左側前部に衝突するに至らしめたものである。
〔証拠略〕中、以上の認定に牴触する部分は弁論の全趣旨に照してにわかに採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。被控訴人らは控訴人渡辺が交叉点の都電軌道敷上で一時停車したことがなく、また、本件タクシーとオートバイとの接触の状態は、タクシーの前部がオートバイの右横に衝突したものであると主張するけれども前掲採用し難い証拠のほか同主張事実の裏づけとなる資料はない。
そこで進んで、控訴人渡辺が本件交叉点の都電軌道敷上で一時停車をした際、本件道路の北方から進行する対向車中の後方の車両群と接触することなく右折して駅前広場に進入することが可能であるとの判断と、該判断に基づく運転に過失があつたかどうかについて按ずるに、前記認定のように控訴人渡辺は対面信号が青色であるのを確認して本件交叉点に入り一旦停車して対向車の通過を待ち、その後方を進行する車両群との間になお約一〇〇メートルの距離があるのを認めたのでこれと接触することなく右折して駅前広場に入り得るものと判断して右折を開始し、すでに車道の横断を終りその後輪が車道と歩道の境界線に達したとき本件事故を惹起するに至つたので、同控訴人の前記判断は正確であり、これに基づく運転にもなんら過失がなかつたものと認めるのが相当であり、本件事故は専ら亀井の前記速度違反、前方注視義務違反および操作上の過失に起因するものといわざるを得ない。
三、以上説示の次第であるから、被控訴人らの控訴人渡辺に対する請求は爾餘の争点に関する判断を俟つまでもなく失当として排斥を免れない。
また、〔証拠略〕によれば、本件タクシーには構造上の欠陥も機能の障害もなかつた事実が認められるので、被控訴人らの控訴会社に対する請求も排斥を免れない。
四、よつて原判決中被控訴人らの請求を認容した部分は不当であるからこれを取消して被控訴人らの請求を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木信次郎 石田実 麻上正信)