大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(ネ)208号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(争いのない事実)

一 控訴人が本件実用新案の権利者であること、その実用新案公報における登録請求の範囲の項の記載が控訴人主張のとおりであること、被控訴人が昭和三十八年三月六日から業として別紙物件目録記載のとおりのピンを製造販売していることは、当事者に争いがない。

(本件考案の技術的範囲)

二 <証拠>(本件実用新案公報)によると、本件登録実用新案の技術的範囲は、その登録請求の範囲記載のとおり、(1)周辺に鋸歯を有する竜頭があり、(2)右竜頭の下側に螺線状の針を有するピンの構造にあるものと認めることができる。

被控訴人は、右(2)の点は、本件実用新案登録出願当時すでに公知の技術であつたから、本件考案の技術的範囲は、新規性を有する右(1)の点に限定されるべきである旨主張するが、本件登録実用新案のうち、右(2)の部分が、仮に被控訴人主張のとおり、登録出願当時すでに公知の技術であつたとしても、そのことから直ちに、本件登録実用新案の技術的範囲が右(1)の点に限定されるものとみることはできない。けだし、前掲甲第一号証によれば、本件登録実用新案は、右(1)および(2)の部分の結合によつて構成され、そのように構成されたことによつて、ピンの螺挿、螺脱に便ならしめるとともに、従来のカーペットピン等の留針と異り、カーペット、椅子掛等が爪先等に引つかかり、または擦触しても移動、転脱することがないなどの作用効果をあげるものであることが明らかであるからである。したがつて、被控訴人の右主張は採用することができない。

(本件考案と被控訴人の製品との対比)

三 まず、本件考案と被控訴人の製品との構造を対比すると、被控訴人の製品の扁平体1が本件考案の竜頭に相当し、本件考案の竜頭が周辺に鋸歯を有するのに対し、被控訴人の製品の扁平体1は周辺に丸味2を有する点で相違することが、本件弁論の全趣旨によつて明らかである。すなわち、右相違点は、ともにピンである本件考案と被控訴人の製品とにおいて、ピン頭の扁平体の周辺に鋸歯を備えるか否かにあるわけである。

ところで、控訴人は、右鋸歯を設けるか否かは、当該技術分野において普通に用いられると認められる程度の慣用手段であつて、被控訴人の製品が鋸歯を具備せず、扁平体の周辺が丸味をもつたままであることをもつて、本件考案から単に慣用手段たる鋸歯を削除したにすぎないものである旨主張するが、前掲甲第一号証によると、その実用新案の説明の項に、本件考案は「竜頭の鋸歯をもつてピンの螺挿、螺脱に便するものである。」との記載があり、これと、前に認定した「周辺に鋸歯を有する竜頭」が本件登録実用新案の技術的範囲を構成する要件の一であることを合わせ考えると、本件考案は、右鋸歯をもつて、ピンの螺挿、螺脱に便ならしめるという、前に示した作用効果の一をあげているものであることが明らかであつて、これから右鋸歯を削除してしまうことは、右作用効果を失わせることになり、したがつて、ピン頭の扁平体の周辺に右鋸歯を設けることが当業者にとつて単なる慣用手段にすぎないとしても、本件考案と被控訴人の製品との間には、作用効果上右の点に明らかな相違があるのであるから、右鋸歯の有無をもつて単なる慣用手段の附加または削除にすぎないとして、本件考案と被控訴人の製品とが技術的範囲を同じくすることの根拠とすることはできないといわなければならない。

右の説示よりすれば、鋸歯の有無という、本件考案と被控訴人の製品との間に存する構造上の相違は、単なる設計上の微差にすぎぬといえないことも明らかであり、また、本件考案の「竜頭の鋸歯をもつてピンの螺挿、螺脱に便する」効果も、単なる附属的効果にすぎぬといえないことも明らかである。

してみると、その余の構造について対比検討するまでもなく、被控訴人の製品は、その扁平体の周辺に鋸歯を有しない点で、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

(むすび)

四 右のとおり、被控訴人の製品が本件考案の技術的範囲に属しないものである以上、控訴人の本訴請求は、その前提を欠き、さらに他の点について判断するまでもなく、理由がない。(小沢文雄 影山勇 石沢健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!