東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2416号 判決
ところで、「仮の地位を定むる為にする仮処分の場合には、本案訴訟の被告又は被告たるべき者に非ざる第三者に対しても仮処分命令を為し得べきものとす」(大判大正十三年九月二十六日、民集第三巻四百七十頁)るとの見解に副つて、本案訴訟の判決により影響をうける第三者をも仮処分の被申請人に加えうると解されるのは勿論であるが、如何なる第三者が被申請人として適格であるかは個々に具体的に定められなければなるまい。本件の被申請人としては、仮処分による不利益を排除する為、自ら本案の当事者になつて、自己に有利に、且つ迅速に、本案の審理を受くるよう努力することについて正当な利益をもつものであることは否定し得ず、このため民事訴訟法第七百四十六条も仮処分の被申請人に一般的に起訴命令申請権を与えている趣旨に鑑みるとき、商法第二百七十条のごとく法律に特別の規定のある場合は格別、単に本案訴訟の判決によつて影響を受ける者或は本案訴訟の訴訟物と密接不可離の関係にある者であるからといつて、本案訴訟に当事者として参加し得ない立場にある第三者を直ちに仮処分の被申請人となし得るものとするのは、仮処分債務者(被申請人)の利益を無視し、仮処分債権者(申請人)を過当に保護するものとして妥当でないばかりか、第三者の範囲が不明確となり、延いては本案訴訟に附随すべき仮処分本来の性格を抹殺することにもなりかねない。
これを本件についてみるに、前記判示のとおり、本件本案訴訟において求められている判決中、本件に関するものは昭和三十五年三月十五日の新株募集の取締役会の決議不存在確認の裁判であるが、上記判示のとおり、三光デイーゼル工業株式会社は、右決議に基づいて新株を募集し、控訴人ら六名および訴外遠藤正、原権蔵、株式会社原鉄工所において額面株式四千株の引受があり、同年三月十六日各株についての払込みを了し、同十八日その旨の登記を経由しているのであるから、その発行に関する上記決議が本案訴訟において不存在と確定されても、別に新株発行無効の訴を提起しないかぎり、右四千株の新株の発行は、これを無効とするに由ないものといわなければならない(商法第二百八十条ノ十五、十七及び最判昭和四十年六月二十九日、民集第十九巻第四号千四十五頁参照)。すなわち、上記本案訴訟の判決の既判力は、それが、それ自体対世的効力(商法第百九条参照)をもつとしても、控訴人らの上記株式の引受による株主たるの地位にまで直接判定しているものではないというべきである。
そうだとすると、本案訴訟の被告でない控訴人らに対して、その株主としての権利の行使を禁止する旨の仮処分を求める被控訴人らの本件仮処分の申請は、右の点において認容すべからざるものといわざるを得ない。
加之、株主相互の間における株式ないし株主としての権利の帰属についての争いでなく、本件のごとく、発行手続に瑕疵あることを主張して、その手続にもとづく株式について株主としての権利の行使を禁止する旨の仮処分を求める場合に特定の株主を被申請人とすることを得るものとすると、株式発行の会社が株式を公開しているとき、株式を引受けた株主全部を被申請人とすることが実際上不可能となる結果、本来、発行された株式全部について格一的に規整すべき関係であるにも拘わらず、仮処分債権者(申請人)の恣意による一部株主についての議決権行使を止める手段を是認することにもなりかねない。かかる見地よりするも、本件のごとき場合は本案訴訟の被告たる会社のみを被申請人として、発行の新株すべてにつき、本案訴訟の判決確定に至るまで株主総会においてその議決権を行使させてはならない旨の仮処分を求むれば足るものというべく、それ以上に株式を引受けた個々の株主に対しては、仮令これを会社とともに被申請人とするとしても、上記趣旨の仮処分は求められない(積極的意味における必要性を欠く)ものと解するを相当とする。
叙上説示のとおり、本件仮処分申請中控訴人らに関する部分は被申請人としての適格を欠くものであるから、その余の点につき判断するまでもなく、これを却下すべきものである。
(毛利野 加藤 矢ケ崎)