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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)321号 判決 1968年1月30日

控訴人(被告)

玉木英治

外一名

代理人

徳満春彦

被控訴人(原告)

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代理人

平林良章

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人らは、被控訴人に対し、被控訴人と訴外後藤観光株式会社との間において、被控訴人のため、原判決添付第一物件目録記載の建物につき東京法務局新宿出張所昭和三七年一二月二八日受付第三九、九六二号をもつてなされた所有権移転仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすこと、及び被控訴人と訴外後藤文二との間において、被控訴人のため、原判決添付第二物件目録(一)記載の建物につき同出張所同日受付第三九、九六三号をもつてなされた所有権移転仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすことをそれぞれ承諾せよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求(控訴状に「控訴人の請求」とあるのは「被控訴人の請求」の誤記と認められる。)を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に掲げるほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴代理人は、≪中略≫

(2) 本件各建物は、被控訴人主張の各所有権移転仮登記の後昭和三八年一〇月二〇日売買により控訴人玉木英治に譲渡され、同年一二月二四日同人のため所有権移転登記を経由しているのであるから、同人において右各建物につき代物弁済予約義務者の地位を承継したものというべく、したがつて、その後の代物弁済予約完結の意思表示は同控訴人に対してなされるべきである。ところが、被控訴人の本件各建物についての代物弁済予約完結の意思表示は後藤文二もしくは後藤観光株式会社に対してなされたのであるから、いずれも無効である。

と述べ、

二  被控訴代理人は、

控訴人主張の一≪中略≫ (2)の事実は争う。

と述べた。

三  証拠≪省略≫

理由

≪前略≫

2 次いで控訴人らの当審における抗弁(2)について審究する。

一般に甲がその所有の不動産をもつてする代物弁済の予約を債権者乙との間に締結し、右予約に基づき乙のため所有権移転仮登記がなされた後、甲がその不動産を第三者丙に譲渡し丙のため所有権移転登記を経た場合に、乙は右予約の完結の意思表示を甲・丙いずれにに対してなすべきか。控訴人らは、丙に対してなすべきであると主張するのである。

控訴人らの右の見解は、仮登記により乙の予約上の権利に対抗力が付与され、丙は乙の権利の対抗を受ける結果、右予約上の義務が甲から丙に承継されるとの考え方に立つものであると思われる。しかしながら、この考え方は以下に述べる理由により採ることができない。第一に、仮登記は、後にそれに基づく本登記がなされた場合にその本登記の順位が仮登記の順位による(不動産登記法七条二項)という順位保全の効力を有するにすぎず、本来仮登記自体によつて対抗力が生ずるわけではない。第二に、仮登記はいうまでもなく右のような順位保全の効力を発揮させるためになされるものである。前記の場合についていえば、甲乙間の仮登記は、予約完結による甲乙間の所有権移転について後に本登記がなされるべきことに備えて、その本登記に仮登記と同一の順位を得させる―それによつて乙が仮登記後に登記された第三者の権利取得(丙の所有権取得はこれに当る)を否認しうるようにする―ためになされるのである。従つて、仮登記に基づく本登記は、仮登記の際に予定された予約完結による甲乙間の所有権移転についてなされるのでなければならない。

控訴人らの見解によれば、予約完結により丙から乙へ所有権が移転することとならざるをえないが、そのような丙乙間の所有権移転の登記を前記仮登記に基づく本登記としてなすことはできないのである(できると解するときは、その本登記の順位が仮登記の順位によるとされることの意味を説明することは困難である)。第三に、不動産登記法一〇五条は、前記の場合に仮登記に基づく本登記が、仮登記の当時の所有権の登記名義人である甲を登記義務者としてなされるべきことを前提とした規定である。控訴人らの見解によれば右本登記は―丙乙間の所有権移転についてなされるのだから―丙を登記義務者としてなされるのが至当であるのに、不動産登記法の規定はそのようにはなつていないのである。以上の各理由からみて、前記予約上の甲の義務は丙に承継されず、乙の予約完結の意思表示は甲に対してなすべきものと解するのが相当である。

なお、前記の仮登記の場合と、買戻権の登記がなされた後買戻義務者から第三者が当該不動産を譲り受けた場合との比較について、付言する。後者の場合には買戻権を有する者がこれを行使するには右の第三者(転得者)に対し―買戻代金を提供して―買戻の意思表示をなすべきものと解されている(最高裁昭和三六年五月三〇日判決、民集一五巻五号一四五九頁参照)。しかしながらこれは、買戻の特約につき登記をすることが認められており、登記をしたときは買戻権が対抗力を有するものとされている(民法五八一条一項)ことによるものであつて(従つてこの場合には買戻により転得者から買戻権者に所有権が移転し、その両者の申請により右所有権移転の登記がなされることとなる、不動産登記法五九条ノ二参照)、前記の仮登記の場合を右と同様に解することはできないのである。もつとも、現在仮登記制度が利用されている場合のうち、本件のように代物弁済の予約の場合でなく、再売買の予約の場合には、その経済的機能も買戻の特約と類似しており、買戻の場合と同様に―転得者があるときは―予約完結の意思表示を転得者に対してなすべきものとし、転得者との間に売買契約を成立させた方が経済的要請に適すると考えられないでもないが、再売買の予約の場合についても、立法論としてならともかく、現行法の解釈としては―すなわち仮登記制度を利用するものである限り―買戻の場合と同様に解することはできないと考える。

以上に説示したとおりであるから、被控訴人が後藤文二及び後藤観光株式会社に対してなした本件予約完結の意思表示は、控訴人ら主張のように相手方を誤まつたものということはできない。≪後略≫(三淵乾太郎 園部秀信 村岡二郎)

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