大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(ネ)667号 判決 1968年12月10日

控訴人(原告反訴被告) 山本孫二

右訴訟代理人弁護士 大橋光雄

右同 辻畑泰輔

被控訴人(被告反訴原告) 株式会社統正社

被控訴人 佐々木恭一

右両名訴訟代理人弁護士 鈴木義広

主文

1  原判決をつぎのとおり変更する。

2  被控訴人株式会社統正社は、控訴人に対し、別紙目録第二記載の株式につき控訴人名義に名義書換手続をせよ。

3  控訴人は、被控訴人株式会社統正社に対し、同目録第一記載の株券用紙を引渡せ。

4  控訴人の被控訴人佐々木恭一に対する請求を棄却する。

5  被控訴人佐々木恭一の控訴人に対する請求を棄却する。

6  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの平等負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、被控訴人らは、「別紙目録第一記載の株券は、未発行株券で被控訴会社の所有にかかるものであり、同第二記載の株券は被控訴人佐々木の所有にかかるものである。」と主張するのに対し、控訴人は、「同第一、第二記載の株券は被控訴人の所有にかかるものであったところ控訴人は、昭和三六年九月二七日これを被控訴人から譲受けた。」と主張するので、この点についてみると、別紙目録第二記載の株券が被控訴人の所有であったこと、控訴人が同第一、第二記載の株券を現に所持していることおよび控訴人が被控訴会社に対し株式名義書換の請求をしたところ被控訴会社がこれを拒絶したことは、いずれも当事者間に争いがなく右争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、つぎの事実を認めることができる。

(一)  被控訴会社は、出版等を目的とする会社であり、被控訴人が事実上主宰していたものであるが、昭和三二年ごろ手形の不渡りを出して事実上倒産し、その活動を中止したので、当時新たに被控訴人が代表者となって訴外統正出版株式会社(以下「統正出版」という。)を設立し、同会社において被控訴会社の事業を受け継ぎ、その債務を整理していくことになった。控訴人は、被控訴会社の債権者であったところから、その債権の確保を図るため、被控訴会社の取締役に就任し、新たに設立された右統正出版の監査役にも就任した。

(二)  統正出版は、昭和三六年七月七日控訴人の紹介で訴外東洋信託銀行株式会社から融資を受けることになった。しかし、控訴人には信用があったが、統正出版には信用がなかったので、統正出版の銀行に対する債務については、控訴人が紹介者としてその保証をしていた。しかるところ、同年九月ごろ統正出版が訴外銀行で割引いていた手形が不渡りとなるに及んで、同銀行の要求により、統正出版が同銀行で割引いていたが期日の到来していない割引手形の合計から統正出版の有する定期預金の額を控除した残額金二四〇万円相当の割引手形を控訴人が買戻すことになった。そこで、控訴人は同月二八日同銀行に対し金二四〇万円の手形を振出し、被控訴人から提供を受けた被控訴会社の後記四六〇〇株の株券をも含め、相当額の有価証券を担保に入れて同銀行から資金の融通を受け、前記手形を買戻した。被控訴人は右買戻手形の主たる債務者である統正出版の責任者として、控訴人が振出した右金二四〇万円の手形の保証人となった。

(三)  これに先立ち、控訴人と同銀行の要求により、被控訴人は、統正出版の責任者として、控訴人に対し、控訴人が前記手形を買戻すことにより統正出版に対して取得すべき求償権を確保するための担保を提供し、控訴人において被控訴人から提供を受けた担保を銀行に差入れることになっていたので、同月二七日控訴人、同銀行の訴外岩下源太郎、同じく訴外藤田栄一が統正出版の事務所に赴き、被控訴人、統正出版の常務取締役たる訴外山辺幹雄と会合した。

(四)  しかし、別紙目録第一記載の株券は、被控訴会社が倒産前の昭和二八年に増資したときに準備されていたが、まだ同目録第一記載の各株主に交付されないまま会社に保管されていた未発行の株券であり、株券上には株主名の記載がされていなかったが、これを、被控訴人は、すでに被控訴人に対して発行済の株券で被控訴人が所持していた同目録第二記載の株券とともに、右の席で右の担保に入れる趣旨で控訴人に交付した。その際、同目録第二記載の株券(合計五株)については、その裏面に株主である被控訴人の記名捺印をなし、同目録第一記載の株券については、そのうちの番号CA第七五八号(一〇〇株券)につき空欄の株主名欄に被控訴人の名を書き込み、裏面に被控訴人の押印のみをし、その余(合計四六〇〇株)については右空欄の株主名欄に直接控訴人の名義を記入するよう約して、これを控訴人に交付した。なお、右株券は、被控訴会社の前記のような実状からいってほとんど価値のないものであったが、被控訴人としては、他にこれといって提供するものもないところから責任者としての誠意を示す意味を含めてこれを提供したのであり、控訴人もこれを諒としたものである。

(五)  控訴人は、右空欄の株主名欄に控訴人名を記入し、翌二八日この合計四六〇〇株を訴外銀行に担保として提供したが、株主名が被控訴人となっている前記一〇五株については、被控訴会社の名義書換手続を必要としたので、同月二九日被控訴会社に対しその手続を要求し、手続が遅延しているうちに、控訴人と被控訴人との間で別の争いが生じたため、被控訴会社は、右株券は控訴人において盗取したものであるとしてこれを拒絶するに至った。控訴人は、その後昭和三七年一月八日被控訴会社に対し右全株券についての名義書換手続を請求したが、被控訴会社はこれを拒絶した。

以上の事実を認めることができる。

<証拠>によれば、株式台帳には株券発行年月日欄に昭和二八年二月二〇日または同年四月一〇日との記載があり、これに対応する株券にも右同様の記載があり、それぞれには発行者の記名捺印もなされていることが明らかで、右株券がそれから八年後に当る昭和三六年九月当時いまだ未発行の株券であるというのはいかにも奇異に感じられるが、右各甲号証によれば、株式台帳上の株主氏名欄には株主名の記載がなされているのに株券上にはその記載がないことが認められるほか、前認定のとおり、右株券が当時まだ会社にあったこと、被控訴会社が昭和三二年倒産以来いわゆる休眠会社同様の存在であった点からみれば、前記発行年月日の記載および発行者の記名捺印もいまだ前認定を左右するに足りるものではなく、他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

二、右認定の事実によれば、別紙目録第一記載の株券は、未発行株券であって、法律上有効な株券というをえないものであるのみならず、その株主が被控訴人である訳でもないから、控訴人が被控訴人からこれによって表記される株式を有効に取得するに由ないものである。したがって、それは株券用紙として被控訴会社の所有に属するというべきである。控訴人は、「かりにそうでないとしても、控訴人は、別紙目録第一記載の各名義人から譲渡を受けた。」と主張するが、当法廷に顕われたすべての証拠によってもこれを認めるに足りる証拠はないから、右の主張も理由がない。

しかしながら、同目録第二記載の株券については、株主たる被控訴人から控訴人に対し、有効に譲渡がなされているといえるのであって、その譲渡は、格別の反証のない本件にあっては、控訴人が統正出版に対し取得すべき求償権を担保するためのいわゆる譲渡担保と認めるのが相当であるから、これにより控訴人は同株式を取得したというべきである。

三、そうだとすると、被控訴人は、別紙目録記載の株式を取得したものであるから、被控訴会社に対しその名義書換手続を求める控訴人の本訴請求は理由がありこれについてその株券の返還を求める被控訴人の反訴請求は理由がない。また、控訴人は、同目録第一記載の株式の株主ではないから、被控訴人との間でこれが確認を求める本訴請求は理由がなく、右株券(用紙)について所有権にもとづいて返還を求める被控訴会社の反訴請求は理由がある。したがって、原判決中これと一致する部分は結局相当であるが、単なる部分は失当であるから、本件控訴は一部その理由がある。よって、原判決を変更する<以下省略>。

(裁判長裁判官 小川善吉 裁判官 松永信和 川口富男)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例