東京高等裁判所 昭和42年(ラ)656号 決定 1968年7月22日
抗告人 株式会社金亀楼
抗告人 森茂夫
抗告人 森満枝
右抗告人らは横浜地方裁判所が同庁昭和四一年(ケ)第二五九号不動産競売事件について昭和四二年一〇月六日言渡した競落許可決定に対し即時抗告の申立をなしたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
原決定を取り消す。
本件競落はこれを許さない。
理由
本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、更に相当の裁判を求めるというのでありその抗告の理由は別紙記載のとおりである。
按ずるに本件記録によれば原裁判所は別紙物件目録(一)記載の建物(以下本件建物という。)につき鑑定人株式会社東神不動産に命じた鑑定評価の結果に基づき最低競売価額を金一、七七七万八〇〇〇円と定め、これを競売期日の公告に掲げて昭和四二年九月二九日競売期日を開き同上金額による最高価競買申出人である清水龍三、中山充の両名に対し昭和四二年一〇月六日の本件競落期日に競落を許可する旨の決定を言渡したこと及び本件建物の持分二分の一宛の共有者である抗告人森茂夫、同森満枝の両名は右建物に本件競売の申立人たる株式会社静岡銀行が抵当権を設定した当時から現在にいたるまで右建物の敷地である別紙物件目録(三)及び(四)記載の各土地をも同上割合の持分によって共有していることが認められる。
右後段認定の事実によれば本件競売手続において本件建物が競落せられるときは、その敷地について法定地上権の発生をみること明らかであって、記録中の横浜地方裁判所執行官杉山広作成にかかる賃貸借取調報告書の記載によって認め得るところの本件建物の敷地の一部である同上目録(三)記載の土地につき株式会社金亀楼の有する賃借権は本件建物競落の場合に右土地につき法定地上権の発生を妨げるものではなく、しかも記録によれば右賃借権はその登記がなく右地上に賃借人名義の登記ある建物の存在することも認められないから本件建物の競落人に対抗し得るものではない。
思うに、強化された現行法制の下における借地権は、経済的な取引価格を有し、その価格は、土地の所有権価格のうちの高度の割合を占めるものであることは顕著な事実であるから、本件建物を競売するにあたっては右建物が敷地の地上権を伴なうものとして建物の価格に地上権の価格を加え、適正に評価し、もって最低競売価格を決定するを要するものというべきところ、前掲鑑定人作成の鑑定評価書によれば、本件建物の評価にあたり敷地との関係を勘案して評価した旨の記載があるだけで、これによっては、いまだ本件建物の評価にあたって競落により発生すべき法定地上権の価格を考慮に入れたことを認めるに足りないから、右評価に基づき本件建物の最低競売価額を金一、七七七万八〇〇〇円と定めたことは実質において適法な最低競売価額を定めなかったことに帰し、右評価額をもって最低競売価額として掲載してなした競売期日の公告は競売法第二九条、民事訴訟法第六五八条第六号の要件を具備しない違法があるものといわざるを得ない。
そうすると本件抗告は、既にこの点において理由がありこれを許すべきではないからその他の抗告論旨に対する判断を省略して原決定を取り消すべきものとし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 石田実 右田堯雄)