東京高等裁判所 昭和42年(ラ)757号 決定 1968年5月23日
抗告人 加藤清一(仮名) 外二名
相手方 堺浜(仮名)
主文
原審判を取り消す。
相手方の本件戸籍訂正許可の申立を却下する。
理由
抗告代理人は、本件抗告の趣旨として主文同旨の裁判を求め、その理由は、別紙引用の抗告理由書記載のとおりである。
よつて按ずるに、本件記録によれば次の事実が明らかである。すなわち、相手方は、戸籍上、亡町田次郎と亡町田フキ間の二女として大正七年二月一〇日出生した旨記載されているが、真実は町田次郎夫婦の子ではなく、町田フキの実妹である亡加藤ヨシと他男との婚外子として前記日時出生したものであるところ、上記の如き戸籍の記載がなされたのは、加藤ヨシの父母である亡加藤松吉および亡加藤ブンが痛く世間態を恥じ、かつ相手方を加藤ヨシの非嫡出子となすに忍びなかつたため、町田次郎夫婦に相手方を同人らの子として入籍することを懇請した結果、町田次郎において相手方を同人ら夫婦の二女として出生した旨虚偽の出生届出をなしたことに因るものであつて、相手方の上記戸籍の記載は法律上許されないものであるとして、戸籍法第一一三条により、相手方の現在の戸籍およびこれに関連する一切の戸籍につき相手方の父母欄、父母との続柄欄の記載の訂正許可を申し立てた。原裁判所は、右相手方の申立を容れ、相手方の現在の戸籍およびこれに関連する戸籍のうち、相手方の父母欄、父母との続柄欄の記載は、いずれも錯誤に因るものとして、本籍青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地筆頭者町田次郎の除籍中、孫「浜」の父母欄中、父の氏名を消除し、母「フキ」とあるのを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「二女」とあるのを「女」と、身分事項欄出生事項中届出人の資格「父」とあるのを「同居者」とそれぞれ訂正した上、本籍北海道後志国余市郡○○町○○番地筆頭者加藤松吉除籍末尾に筆頭者との続柄孫として移記し、同人の戸籍全部を消除し、以下現在の戸籍に至るまでの関連戸籍にこれに対応して必要な戸籍の訂正を許可する旨の審判をした。
ところで、戸籍法第一一三条による家庭裁判所の許可に基づく戸籍の訂正は、戸籍の記載自体から訂正すべき事項が法律上許すべからざることの明白な場合もしくは戸籍の記載に顕著な錯誤ある場合、または戸籍の記載自体から明白ではないにしても訂正すべき事項が軽微にして親族法、相続法上の身分関係に重大な影響を及ぼす虞のない場合に限り許されるものであつて、訂正すべき事項にして戸籍上明白ではなく、親族法上もしくは相続法上重大な影響を及ぼすべき場合にあつては、同法第一一六条により確定判決または家事審判法第二三条の確定審判に基づくのでなければ許されないものと解するを相当とする。本件において、相手方が戸籍訂正の許可を求めている事項は、冒頭判示の事実によれば、親族法もしくは相続法上の身分関係に重大な影響を及ぼすべき虞ある事項に該るものであることが明らかであるから、相手方の本件戸籍訂正許可の申立は、上記説示により、その訂正の許可を求めている戸籍の記載が法律上許されないものであると錯誤に基づくものであるとを問わず、許されないものとして、却下すべきものといわなければならない。
右と見解を異にし、相手方の本件戸籍訂正許可の申立を容れた原審判は失当であつて、抗告人らの本件抗告は理由があるから、家事審判規則第一九条第二項に従い、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 中西彦二郎 判事 兼築義春 判事 高橋正憲)
参考 原審(東京家裁 昭四二・一〇・三〇審判)
申立人 堺浜(仮名)
参加人 加藤清一(仮名) 外二名
主文
記載錯誤につき
一 本籍青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地筆頭者町田伝次郎の除籍(除籍の日大正一三年四月二三日)中、孫「浜」の父母欄中、父の氏名を消除し、母「フキ」とあるのを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「貳女」とあるを「女」と身分事項欄、出生事項中届出人の資格「父」とあるを「同居者」とそれぞれ訂正したうえ、本籍北海道後志国余市郡○○町○○番地筆頭者加藤松吉除籍(除籍の日昭和二年一月二七日)末尾に、筆頭者との続柄孫として移記し、同人の戸籍全部を消除する。
二 本籍北海道後志国余市郡○○町○○番地筆頭者加藤松吉除籍(除籍の日昭和二年一月二七日)末尾に孫「浜」として、第一項除籍より移記した上、同人身分事項欄に「余市郡○○町大字○○町○○番地竹内政一同人妻ヨネト養子縁組養父母及ビ縁組承諾者町田次郎届出大正七年一〇月二八日○○町長御厨三郎受附除籍」の記載をなしたうえ、同人戸籍を消除する。
三 本籍北海道後志国余市郡○○町○○番地筆頭者竹内昇の除籍(除籍の日大正九年四月一九日)中、同籍(孫)「浜」の父母欄中父の氏名を消除し、母「フキ」とあるを「加藤ヨシ」と父母との続柄「貳女」とあるを「女」と、身分事項欄養子縁組事項中「青森県上北郡○○村大字○○△△△番地戸主町田伝次郎孫」とあるを「余市郡○○町大字○○町○○番地戸主加藤松吉孫」とそれぞれ訂正する。
四 本籍北海道余市郡○○町大字○○町○○番地筆頭者竹内政一の除籍(除籍の日昭和六年八月一六日)中、同籍(養子)「浜」の父母欄中父の氏名を消除し、母「フキ」とあるを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「貳女」とあるを「女」と、身分事項欄「養子縁組事項中「青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地戸主町田伝次郎孫」とあるを「余市郡○○町大字○○町○○番地戸主加藤松吉孫」とそれぞれ訂正する。
五 本籍北海道余市郡○○町大字○○町○○番地筆頭者竹内順二の除籍(除籍の日昭和二九年九月二二日)中、同籍(養妹)「浜」の父母欄中、父の氏名を消除し、母「フキ」とあるを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「貳女」とあるを「女」と、身分事項欄養子縁組事項中「青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地戸主町田伝次郎孫」とあるを「余市郡○○町大字○○町○○番地戸主加藤松吉孫」とそれぞれ訂正する。
六 本籍東京都台東区○○○○町○丁目○○番地筆頭者竹内ヨネの改製原戸籍(消除の日昭和三七年九月二一日)中、同籍(養女)「浜」の父母欄中、父の氏名を消除し、母「フキ」とあるを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「貳女」とあるを「女」と、身分事項欄養子縁組事項中「青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地戸主町田伝次郎孫」とあるを「北海道余市郡○○町大字○○町○○番地戸主加藤松吉孫」とそれぞれ訂正する。
七 本籍栃木県足利郡○○町大字○○△△△番地ノ○筆頭者堺五郎の改製原戸籍(消除の日昭和三四年六月一九日)中、同籍(婦)「浜」の父母欄中、父の氏名を消除し、母「亡フキ」とあるを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「貳女」とあるを「女」と身分事項欄婚姻事項中「(実家戸主青森県上北郡○○村字○○番外地町田芳夫)」とあるを「(実家戸主北海道余市都○○町大字○○町○○番地加藤実)」とそれぞれ訂正する。
八 本籍栃木県足利市○○町○○○番地の○筆頭者堺誠の戸籍中、(妻)「浜」の父母欄中父の氏名を消除し、母「亡フキ」とあるを「亡加藤ヨシ」と、父母との続柄「貳女」とあるを「女」とそれぞれ訂正する。
以上の各戸籍訂正を許可する。
理由
一 申立人は、
「(1) 大正七年一〇月二八日転籍届により除かれた青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地筆頭者町田伝次郎戸籍中、同籍浜の父母欄、父母との続柄欄の記載を抹消のうえ、同人戸籍を消除すること、
(2) 昭和六年八月一六日家督相続届出により除かれた北海道余市郡○○町大字○○町○○番地筆頭者竹内政一戸籍中、同籍浜の父母欄、父母との続柄欄を抹消すること、
(3) 昭和七年五月一一日転籍届により除かれた北海道余市郡○○町大字○○町○○番地筆頭者竹内順二戸籍中、同籍浜の父母欄、父母との続柄欄を抹消すること、
(4) 昭和一三年三月一七日転籍届により除かれた東京都台東区○○○○町○丁目○○番地筆頭者竹内ヨネ戸籍中、同籍浜の父母欄、父母との続柄欄を抹消すること、
(5) 昭和二四年一月一八日新戸籍編製のため除かれた栃木県足利郡○○町大字○○△△△番地の○筆頭者堺五郎戸籍中、同籍浜の父母欄、父母との続柄欄を抹消すること、
(6) 栃木県足利市○○町○○○番地の○筆頭者堺誠戸籍中、同籍浜の父母欄、父母との続柄欄を抹消すること、
をそれぞれ許可する」
旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、
(1) 申立人は、戸籍上亡町田次郎と亡町田フキ間の二女として大正七年二月一〇日青森県三戸郡○○町大字○○○町○○番地において出生したものとして登載されているが、これは事実に反し、真実は申立人は上記亡町田フキの実妹である亡加藤ヨシと他男との間の婚姻外の子として前記日時場所に出生したものである。
(2) すなわち、上記加藤ヨシの父母である亡加藤松吉と亡加藤カネとは、亡加藤ヨシが他男と通じて婚姻外の子として申立人を懐胎したことを痛く恥じ入り、亡加藤ヨシをその姉亡町田フキ夫婦の許に預けたのであるが、亡加藤ヨシが亡町田次郎、亡町田フキ夫婦の世話で、前記日時場所において申立人を分娩したので、更に亡加藤松吉と亡加藤カネとは、申立人を非嫡の子とするに忍びず、上記亡町田次郎、亡町田フキ夫婦に申立人を同人等の子として入籍することを懇請したところ、同夫婦はこれを了承し、亡町田次郎において申立人につき亡町田次郎および亡町田フキ間の二女として出生した旨の虚偽の出生届出をしたものである。
(3) かような訳で、申立人の上記戸籍の記載は、法律上許されないものであることは、明らかであるから、申立人の現在の戸籍およびこれ関連する一切の戸籍のうち、申立人の父母欄、父母との続柄欄をすべて抹消することを求めるため、本件申立に及んだ。
というにある。
二 審案するに、本件記録添付の各戸籍謄本、東京地方裁判所昭和四一年(タ)第三三三号認知請求事件記録中の証人竹内ヨネ、同山川好子に対する証人調査並びに参考人竹内ヨネおよび申立人に対する各審問の結果によれば、
(1) 申立人は、戸籍上本籍青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地亡町田次郎と同人妻亡町田フキ間の二女として大正七年二月一〇日に青森県三戸郡○○町大字○○○町○○番地において出生し、その後同年一〇月二八日本籍北海道余市郡○○○大字○○町○○番地亡竹内政一、同人妻竹内ヨネと養子縁組を結び、その養子となり、更に昭和一三年三月一七日本籍栃木県足利郡○○町大字○○△△△番地の○堺誠と婚姻した旨記載されていること、
(2) 上記養子縁組および婚姻の記載は真実に符合するのであるが、上記出生の記載は事実に反し、申立人は、真実は、本籍北海道後志国余市郡○○町○○番地亡加藤ヨシ(戸籍上は亡加藤松吉と亡加藤カネ間の三女となつているが、以下に述べる如く、実際は四女である)と松島某との間の婚姻外の子として上記日時場所において出生したものであり、当時亡加藤ヨシが申立人を懐胎したことから、世間態を気にしたその父母である亡加藤松吉と亡加藤カネの依頼を受けて、亡加藤ヨシの身柄を預つた亡加藤ヨシの姉亡町田フキ(戸籍上は亡山田一郎と亡山田テルの長女となつているが、実際は亡加藤松吉と加藤カネ間の三女である)とその夫亡町田次郎とが、亡加藤ヨシが申立人を分娩した後、更に上記加藤松吉と亡加藤カネから申立人を非嫡の子とするに忍びないから、同人等の子として入籍方を懇請され、これを了承した亡町田次郎において、申立人につき亡町田次郎および亡町田フキ間の二女として出生した旨の虚偽の出生届をしたため、上記の如き事実に反して戸籍の記載がなされたこと、
(3) 申立人につき出生届出をした町田次郎は、当時、その妻である亡町田フキとともに上記の如く申立人の母亡加藤ヨシの身柄を預かり、同居していたもので、同居者として届出義務を負つていたものであること、
を認めることができる。
三 上記認定事実によれば、申立人の虚偽出生届に基づいて記載がなされた本籍青森県上北郡○○村大字○○字○○△△△番地筆頭者町田伝次郎の除籍中、孫「浜」の父母欄中、父の氏名を消除し、母「フキ」とあるのを「加藤ヨシ」と、父母との続柄「二女」とあるのを「女」と、身分事項欄出生事項中届出人の資格「父」とあるのを「同居者」とそれぞれ訂正したうえ、本籍北海道後志国余市郡○○町○○番地筆頭者加藤松吉除籍(除籍の日昭和二年一月二七日)末尾に、筆頭者との続柄孫として移記し、同人の戸籍全部を消除し、以下現在の戸籍に至るまでの関連戸籍にこれに対応して必要な戸籍の訂正を許可するのが相当である。
よつて申立人の本件申立は理由があるので、主文のとおり審判する次第である。
(家事審判官 沼辺愛一)