東京高等裁判所 昭和42年(ラ)814号 決定 1968年7月01日
抗告人 金子稔
右代理人弁護士 坂本建之助
同 木村暁
債権者大東京信用組合、債務者東京産業株式会社、所有者抗告人間の東京地方裁判所昭和四一年(ケ)第五二六号不動産競売事件について、同裁判所が昭和四二年一一月二八日にした競落許可決定に対し、抗告人から適法な即時抗告の申立てがあったので、次のとおり決定する。
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一、抗告理由の一は、競売法の手続に民事訴訟法七九条の準用があることを前提として、本件競売につき、弁護士でない債権者の職員山田英雄が債権者代理人として競売の申立をし、その手続を遂行したのは違法、無効である、というにある。
しかし、競売法においては、不動産の競売は代理人によって申立をすることができることを前提としながら、その代理人たる資格について何らの制限を定めていないから(同法二四条)、右代理人は必ずしも弁護士であることを要しないものと解する。もちろん、民事訴訟については、民訴法七九条により、原則として、弁護士でなければ訴訟代理人となることができないものとされているが、任意競売は、いわゆる非訟事件として、法的紛争を前提とする訴訟事件たる民事訴訟とその性質を異にする。任意競売は、単に、特定物件に対する実体法上の権利(売却権)の実行方法にすぎないのであって、法的紛争を前提とする訴訟事件の適正な解決のために要求される弁護士の専門的な学識経験を必ずしも必要とするものではない。したがって、訴訟代理人の資格に関する民訴法七九条の規定は、任意競売には準用がないものと解するのが相当である。
二、抗告理由の二は、債権者が、本件不動産の第三取得者である抗告人に民法三八一条による抵当権実行の通知をせず、したがって滌除権行使の機会を与えずに、本件競売の申立をしたのは違法である、というにある。
記録を調べてみると、本件不動産はもと債務者東京産業株式会社の所有で、債権者は債務者から本件根抵当権の設定(登記)を受けたものであるが、その後、昭和四一年一月二八日右債務者から件外広野睦子に売買による所有権移転登記がなされた、それで、抵当権を実行しようとした債権者は、民法三八一条に基づき、同年三月一六日付、同月一八日到達の内容証明郵便で、右広野に対し抵当権実行の通知をしたが、広野から滌除権行使の通知はなかった、したがって、債権者としては、民法三八七条により、一カ月を経過した同年四月一九日以降競売の申立てができることになったわけであるが、その申立をしないうちに、同月二八日広野から抗告人に売買による所有権移転登記がなされたと以上のように認められる。
かような場合に、債権者はさらに改めて、抗告人(第三取得者)に抵当権実行の通知をし、滌除の機会を与えたうえでなければ競売を請求できないものかどうか、疑問の存するところである。しかし、もしこれを消極に解すると、競売の着手は実際上限りなく困難となり、ただでさえ抵当権者に対し過当な重圧となっている滌除の制度が、一層、過重の負担を抵当権者に負わす結果となる。かような観点からして、抵当権者が一たん抵当権を実行しようとして第三取得者にその旨の通知をした以上、その後新しく第三取得者を生じても、これに対し改めて抵当権実行の通知をすることは要しないものと解するのが相当である。
本件の場合、債権者は、前記のように、昭和四一年三月一八日当時の所有者(第三取得者)広野に対し抵当権実行の通知をし、同人から法定期間内に滌除の通知がなかったので、所要の手続を整え、同年五月三〇日本件競売の申立をしているのであって、右通知後第三取得者となった抗告人に改めて抵当権実行の通知をしなかったことは、本件競売申立を違法とするものでないというべきである。
以上のとおりで、抗告人主張の抗告理由はすべて採用しがたく、ほかに原決定を取消すべき違法事由もみいだせないので、本件抗告は失当としてこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 福島逸雄 裁判官 武藤英一 岡田潤)
<以下省略>