大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)133号 判決 1967年12月15日

原告 東京高等検察庁検察官 検事 福山忠義

被告 馬場益弥

訴訟代理人 山田至

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、原告は、「昭和四二年四月二八日施行の東京都南多摩郡多摩町議会議員選挙における被告の当選はこれを無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として、

「(一) 被告は昭和四二年四月二八日施行の東京都南多摩郡多摩町議会議員選拳に立候補して当選し、四月二九日付でその旨同町選挙管理委員会より公職選挙法第一〇一条第二項により告示され現に同町議会議員として在職中のものである。

(二) 右選挙において訴外佐伯信行は昭和四二年四月二一日被告の選任届出によりその出納責任者となつた者であるが、同人は右選挙に際し被告の当選を得しめる目的をもつて選挙運動者訴外馬場清吉と共謀のうえ、昭和四二年四月二三日頃東京都南多摩郡多摩町乞田九二四番地有山清方蚕室前において右選挙の選挙人である訴外有山喜蔵に対し右被告のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動を依頼し、その報酬として現金一万円の供与の申込みをして公職選挙法第二二一条第三項第三号、同条第一項第一号の罪を犯し、昭和四二年八月一四日八王子簡易裁判所において罰金三万円に処する旨の略式命令を受け、右命令は同年一〇月一〇日確定した。

(三) よつて被告の当選は、公職選挙法第二五一条の二第一項第二号により無効であるから、同法第二二一条第一項に基づき、本訴に及ぶ。」

と陳述し、被告の後記主張事実並びに乙第一号証の成立を認めると述べた。

二、被告訴訟代理人は原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張の請求原因事実は被告が現に多摩町議会議員であるとの点を除き、すべて認める、被告は昭和四二年一〇月三〇日付で多摩町議会議長の許可を得て同町議会議員を辞職したと述べ、立証として乙第一号証を提出した。

理由

被告が現に多摩町議会議員であるとの点を除く原告主張の請求原因事実並びに被告が昭和四二年一〇月三〇日付をもつて東京都南多摩郡多摩町議会議員の職を辞したことは当時者間に争いがないところ、当裁判所は以下の理由によつて原告の本件訴は訴の利益を欠く不適法のものと判断する。

即ち公職の候補者が選任してその届出をした出納責任者が特定の犯罪を犯し刑に処せられたときに当該当選人の当選を無効とする公職選挙法第二五一条の二第一項の規定は、出納責任者の特定の犯罪行為が候補者の当選に相当の影響を与えたものと推測されるだけでなく、その得票も必ずしも選挙人の自由な意思によるものといい難く、当該当選人の当選は公正な選挙の結果とはいえないところから、自由かつ公正に行なわれるべき選挙の理念に照らしその当選を無効とし、当選人たるの資格を剥奪する趣旨の規定であつて、当該当選人は公職選挙法第二一一条の訴訟における当選無効の判決の確定により将来に向つて当選人たるの資格を喪失するものである(地方自治法第一二八条)ところ、前示のとおり当選人たる被告は本訴が当審に係属中の昭和四二年一〇月三〇日付の多摩町議会議長による辞職許可により同日右町議会議員の地位を喪失しておるばかりでなく、被告が辞職によつて議員たるの地位を喪失した場合の事後の選挙についての準拠規定である公職選挙法第一一三条の補欠選挙に関する規定と本件訴訟における当選無効の判決によつて被告が議員たるの資格を喪失した場合の事後の選挙についての準拠規定である同法第一一〇条の再選挙に関する規定を比照すれば、その要件は全く同じであつて、被告の町議会議員の地位喪失後における選挙の実施という観点からするも、既に辞職している被告に対し判決をもつて被告の当選の無効を宣言する必要性を認め難いから、結局被告の当選を無効とする旨の裁判を求める本訴は訴の利益を欠く不適法のものといわなければならない。

よつて、原告の本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九〇条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 小山俊彦 裁判官 右田堯雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例