大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)135号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 本件審決は、本願考案の転写マークにおけるマーク層(3)と接着剤層(4)とは、きわめて薄いものであつて、両層面では実質上画然とした境界面が存在しえないものとし、したがつて、右両層を一体的に観察して、これと引用例記載の転写マークにおける構成要件bとは、実質上差異のないものであると認定した点において、事実を誤認し、結局、判断を誤つた違法があるといわざるをえない。

すなわち、本願明細書中には、マーク層(3)と接着剤層(4)とは重積層を形成するものであり、両者は共通の溶剤により溶融軟化しうるものであるから、接着剤層(4)の材料選択に当り、強接着性のものを用いるときは、接着強度の高い転写マークが得られるとともに、単一マーク層のみの転写マークの場合にありがちな、顔料の混在に起因する接着力の低下という欠点も解消される旨の記載があること、また、添付図面中にも、本願考案の実施例として、マーク層(3)と接着剤層(4)との間に明らかな境界面が存在し、右両層が積層構造を成すものの記載があることを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はなない。

右認定に徴すれば、本願考案の転写マークにおいて、接着剤層とマーク層との相接する境界面付近においては、右両層が一体的に接着結合するものであることは明らかであるが、これを全体としてみると、両層の境界とみるべき部分の層が介在して、右両層が積層構造をなしているものとみるのが、経験則上相当である。この点について、本件審決は、本願考案の転写マークは極めて薄いものであるとの前提に立つて、マーク層と接着剤層との間には実質上画然とした境界面は存在しえないものと認定しているが、本願考案の転写マークの厚さを極めて薄いものに限定すべき根拠は存在しないのみならず、厚さの薄いものであつても、マーク層と接着剤層とが、右認定のような積層構造をなすことを全く否定し去るべきことは、これを認めるに足りる証拠がない。あるいは、マーク層をなす基剤および接着剤層をなす接着剤の材料の選択によつて、場合によつては、マーク層と接着層とが全く融け合つて、境界面とみるべき部分が存在しなくなることもありうるかもしれないが、それは、原告の主張するように、実施条件の選択の問題にすぎず、本願考案の転写マークにおけるマーク層と接着剤層との積層構成を否定すべき根拠となりうるものではない。

そして、本願考案の転写マークは、前掲のような積層構成をとることにより、対象物に強力に接着し、外部摩擦力に対しきわめて強くて剥離しがたく、かつ、マークの周辺に接着剤による隈取りを生ずることもないし、周縁や突出部の損傷剥離も少なく、耐久性に富む転写マークがえられるという作用効果のあることを認めうるのに対して、引用例のものにあつては一層中に顔料と接着剤とが混在するものであること叙上のとおりである関係から、転写マークの対象物への接着性の点において全面的に接着剤層を積層したものに比して劣るところがあるとみられることは、常識経験上明らかである。したがつて、本願考案の構成をもつて引用例のものと同一であるとすることはできない。

さらに、被告は、本願考案の転写マークにおける被転写層と引用例記載の転写マークにおけるそれとは層構成において均等であると主張するが、本願考案と引用例との間において層構成に相違があり、その結果として作用効果においても異なるところがあると認めるべきことは前判示のとおりであるから、被告のこの主張も採用することができない。

右のとおりであるから、本件審決は、本願考案の転写マークにおけるマーク層と接着剤層とが積層剤層とが積層構造をなすものであることを看過誤認し、この誤認した構成を前提として、本願考案の転写マークの構成要件B(マーク層)およびC(接着剤層)と引用例記載の転写マークの構成要件b(接着剤と顔料とを混在させたマーク層)とは、実質上差異のないものであるとした点において、判断を誤つた違法があるといわざるをえない。

三 以上のとおり、本件審決は、原告主張の点において違法であるから、その取消を求める原告の本訴請求を認容する。 (服部高顕 石沢健 滝川叡一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!