東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)174号 判決
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〔判決理由〕(審決を取り消すべき事由の有無)
二 本願考案と第一引用例記載のものとを比較した場合、両者は本件審決の指摘する(1)ないし(4)の四点において相違すること(他の点は一致)は、原告の認めて争わないところである。原告は、本願考案は仮撚りおよびクリンプ加工装置の糸巻取換え装置に関し、作業速度の増大に伴う新らしい技術課題の触決を目的とするから、これと異なるドッフィング用である第一引用例記載のものと本件審決の挙示する公知または慣用の技術とから、本願考案をきわめて容易に推考しうるものであることとすることはできない旨主張するが、この主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、
手続補正書によれば、本願実用新案登録請求の範囲として、原告主張の請求原因第二項記載のとおりの記載があり、「糸処理部材」について、これを限定する記載はなく、また、実用新案登録願の明細書の考案の詳細な説明の項には、「この考案は連続的に移行する織糸に作動する機械に関するものであり、その目的はそのような機械に於て一杯になつたボビンを前記機械の運動を止めないで空のボビンと取換えることとを可能にする装置を提供することである。」、「この考案は、本質的にそうであるわけではないけれども、特に熱可塑性連続織糸より成る連続的に走行する織糸に作動する機械に関するものである。この種の機械は、例えば熱する糸を引き伸し、または短縮させることができ、また糸が加熱室を通過する途中糸に仮撚りしぼ(Crimp)を与えることができるものである。」と記載されており、これによれば、本願考案は、仮撚りおよびびクリンプ加工装置の糸巻取換え装置に使用できるものではあるが、これに限定されるものではなく、その目的は、広く「連続的に移行する織糸に作業する機械」において「一杯になつたボビンを前記機械の運動を止めないで空のボビンと取換えることを可能にする装置を提供する」にあるものと認められるから、これを原告の主張するように限定的に解することができないばかりでなく、本件審決の指摘する両者の相違点(1)についても、第二引用例および第三引用例にはそれぞれ「取入口に空気抽出装置を接続しその吸気作用により取入口に吸引作用を与えるようにすると共に、取入口を蓋で開閉することによりその吸引作用の発現停止をなすようにした糸吸込装置」及び「その取入口を開閉する蓋をスリーブ部材で構成した糸吸込装置」が記載されていることは、当事者間に争いがなく、<書証>によれば、前者は紡績機等、後者は糸巻、撚絲等の機械に関するものであることが明らかであるから、本願考案と同一または近似の技術分野に属するものというべく、したがつて、これらの公知技術に基づいて、本願考案のように、相違点(1)の技術を第一引用例のそれに結合することは、当業者の、きわめて容易に推考しうるものということができる。また、相違点(2)についてみるに第四引用例に、「容器と吸込扇風機とフィルタを備えた糸切断端吸引用の空気抽出装置」が記載されていることは、当事者間に争いがなく、右公報によれば、右は紡機のニューマチック・フィルターに関するもので、本件考案に近似の技術分野のものであることが認められ、同じく(3)および(4)の点についてみるに、糸巻取装置において被巻取糸を供給糸巻から供給すること、および糸処理部材(または糸処理装置)中を通過させることにより糸に所要の加工処理を施すことは必要に応じてなしうる周知の慣用手段であることは当事者間に争いのないところであるから、本件審決指摘の(1)から(4)の相違点は、それぞれ公知の技術手段から当業者のきわめて容易に考案することができる程度のものとみるを相当とし、これを左右するに足る証拠資料はない。
原告は、本願考案の独特の作用幼果として、(1)従来のものより遙かに高速度な織糸処理機上の糸巻の交換が可能であること、(2)糸の加熱温度の激変防止、(3)糸の汚染等の防止を挙げるが、これらの作用幼果は、いずれも本願考案に特有のものということはできない。すなわち、(1)の点は、<書証>に、「糸巻機における糸の走行速度は一分間に一五〇メートルが可能である」と記載されているところからも明らかなように、第一引用例のものにおいても高速度で運転される織糸処理機上の糸巻交換ができるのであり(2)の点は、第一引用例の糸巻装置を糸加熱装置を有する糸処理装置に用いた場合にも当然得られる幼果であることは、きわめて明白であり、また、(3)の点は、前掲明細書の記載によれば、加熱帯の上部に扇風機容器25に接結する吸入管を設け、加熱器の上端より連続的に蒸気を除去するようにすることにすれば、原告主張のような幼果を挙げうることが判明したというにすぎないから、これをもつて、本願考案の特有の効果とみることはできないから、これらの効果が本願考案に特有のものであることを前提とする原告の主張は、採用することはできない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断の誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)
(編注1二 本願考案の要旨
別紙図面に示すように、供給糸巻11と、巻取糸巻20と、それらの間に配置された糸処理部材19と、前記両糸巻間を連続的に移行する糸12の通路を横切り、かつ、これらの通路に対応する取入口22と、これらの取入口を開閉する摺動自在に配置されたスリーブ部材とを有する吸込装置18とから成り、前記吸込装置が容器25と吸込扇風機23とフイルタ26とから成る空気抽出装置に接続され、それでもしも糸が吸込装置18で、もしくはその先で切られたならば、供給されつつある糸の自由端が取入口22を経て、取り除かれ、かつ、糸が供給されるに従つて受取装置25の中に連続的に吸込まれる織糸用糸巻取換え装置。
三 本件審決理由の要点
本願考案の要旨は前項記載のとおり認められるところ、その登録出願前公知の刊行物である米国特許第二、七〇六、〇八九号明細書(以下「第一引用例」という。)には、「パッケージ(巻取糸巻)と被巻取糸の通路に対応しそして圧縮空気の吹込みにより必要時に吸引作用を付与される取入口と、該取入口に連通し取入口内に吸引される糸を引取収納する屑糸貯槽とからなり、巻取糸巻交換時に被巻取糸の切断端を取入口に吸引引取らせるようにした、連続的に給送される糸の巻取装置」が記載されており、これを本願考案のものと比較すると、両者の一致点は、「巻取糸巻と、被巻取糸の通路に対応しそして必要時に吸引作用を付与される取入口と、該取入口に連通し該取入口内に吸引される糸を吸引収納する屑糸貯槽とからなり、そして巻取糸巻交換時に被巻取糸の切断端を取入口に吸引引取らせるようにした、連続供給糸の巻取装置」その相違点は、(1)圧縮空気の吹込みにより取入口に吸引作用を与える代わりに、取入口に空気抽出装置を接続し、その吸気作用により取入口に吸引作用を与えるようにし、そして、取入口の吸引作用の発現停止を圧縮空気の吹込みの有無によらず、スリーブ部材による取入口の開閉によつてなすようにした点、(2)空気抽出装置を容器と吸込扇風機とフイルタとで構成した点、(3)供給糸巻を有する点および(4)糸処理部材を有する点である。しかしながら、(1)の点については、取入口に空気抽出装置を接続し、その吸気作用により取入口に吸引作用を与えるとともに、取入口を蓋で開閉することにより、その吸引作用の発現停止をするようにした糸吸込装置およびその取入口を開閉する蓋をスリーブ部材で構成した糸吸込装置は、本願出願前公知の刊行物である英国特許第四〇六、〇六三号明細表抜萃(以下「第二引用例」という。)と西独特許第八一九、三七四号明細書(以下「第三引用例」という。)に、それぞれ記載されているので、これらの記載からきわめて容易に考案することができるものと認められ、(2)の点については、容器と吸込扇風機とフイルタを備えた糸切断端吸引用の空気抽出装置は、本願出願前公知の刊行物である実公昭二八―一一、二三六号公報(以下「第四引用例」という。)に記載されているので、この記載からきわめて容易に考案することができたものと認められ、(3)(4)の点については、糸巻取装置において被巻取糸を供給糸巻から供給することおよび糸処理部材(または糸処理装置)中を通過させることにより、糸に所要の加工処理を施すことは必要に応じてなす本願出願前周知の慣用手段であるから、本願の考案は、前記各引用例記載の発明、考案および前記慣用手段から、当業者のきわめて容易に考案することができたものと認められる。したがつて、実用新案法第三条第二項の規定により、実用新案登録を受けることができない。)