東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)42号 判決
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〔判決理由〕(本件審決の違法性の有無)
二 本件審決は、つぎに述べるとおり、判断を誤つた違法があり、取り消されるべきものである。
(一) 本願実用新案の全文訂正明細書および……本件口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、継電器には一般に磁路として導磁率の高い磁性材料が使用されるため、履歴現象により継電器を励磁する捲線電流が消滅しても、残留磁気が継電器の接極子を動作状態に保持するように作用してその復旧動作を遅らせるので、従来、接極子と鉄心との間または接極子と継鉄との間に導電体である燐青銅等の金属材料よりなる非磁化板(間隔子)を置いて、磁路に非磁性体による一定の空隙を作り残留磁気を少なくして接極子の復旧動作に対する妨害をできるだけ少なくしていたが、非磁化板が導電体であるため、継電器の捲線電流が消滅した場合に非磁化板に渦流が発生して、これが接極子の復旧作用を妨げていたものであるところ、本願実用新案は、前記本願実用新案の要旨にみられるとおりの構成をとり、非磁化板として、導電体である金属材料に代えて、絶縁材料であるプラスチックを使用したもので、このため、少なくとも
右の渦流を生ぜず、非磁化板が金属材料である場合に比して復旧動作が良好である、
という作用効果を有するものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
被告は、右の作用効果は理論上考えられるだけで、本願実用新案の当初の説明書中には右作用効果の記載もないから、実用上評価しうる程の復旧特性の違いがあるとは考えられないと主張するが、継電器には、その種類・大きさ等において多種多様なものがあることは顕著な事実であるから、非磁化板をプラスチックにすることにより復旧特性に相当の相違を生ずるもののあるべきことは、前項冒頭掲記の資料から推認するに難くないところであり、被告の右主張は理由がない。
(二) 本件審決は、引用例における公知のリアクトルと本件実用新案のものとは、物品は異なるが、「磁路中にギャップを設けるために非磁性材料である絶縁材料からなる型成体を挿入したことにおいては同じであ」るとしているが、前認定の事実に、引用例である公報および……本件口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、引用例に記載のリアクトルにおいて磁路中に非磁性体を挿入するのは、リアクトルの鉄心が磁気飽和するのを避けることにより、リアクトルの有効性を増すためであるが、これに対し、本願実用新案において磁路中に非磁性体であるプラスチックを挿入するのは、前認定のとおり残留磁気を少なくするためであり、それは引用例の場合と同様に磁気飽和の現象が避けられることによつて達成されるものであることが認められる。してみれば、本件審決の前記説示は、その表現の正確さはともかく、それ自体誤つているとはいえない。
(三) しかしながら、本件審決は、ついで、「継電器において磁路に近接して磁束と鎖交するようにスラグ銅環を設けコイルに流れる励磁電流による磁束によつて誘導電流をスラグ銅環に流し継電器に遅延動作を生ぜしめること」が周知であり、したがつて、「磁路に対して磁束と鎖交するようにスラグ銅環を配置すれば、そこに流れる誘導電流によつて継電器の動作は遅延する。」という事実が周知であるから、これと引用例にみられる前記公知事実とから、周知の金属材料の非磁化板(間隔子)に代えて動作遅延の作用をなくすため絶縁材料の非磁化板を用いることは、容易に推考できるとしているが、本件審決が右周知事実の参考資料として例示する「継電器及継電器回路」の第七〇〜七二頁をも参照して考えれば、本件審決のいう右周知事実は、要するに、前記のような位置に、内部に誘導電流が流れるように設計されたスラグ銅環を設ければ、継電器の動作は遅延するものであり、その遅延動作を利用した遅延継電器が存在するということを示すにすぎないものであると認められるところ、このことからただちに、前認定のように残留磁気による復旧動作への妨害を防ぐために設けられた金属製非磁化板の内部にも誘導電流(渦流)が生じこれが復旧動作に影響を及ぼすということに想到し、それを避けるために非磁化板として絶縁材料を用いることを容易に推考できるとは到底考えられないところである。したがつて、本件審決は、右の点において判断を誤つたものといわざるをえない。
(四) なお、一般にプラスチックが他の材料に代えて多くの分野に広く利用されていることは、明らかなところであるけれども、本願実用新案は、プラスチックを非磁化板として使用することにより、従来の金属性磁化板を使用した継電器に比し、前認定のような作用効果を有するものである以上、他に適切なプラスチックの具体的利用例が引用される等のことがあれば格別、本願実用新案におけるプラスチックよりなる非磁化板の採用を単なる材料の変換とみるのは相当でなく、この点から本件実用新案を推考容易なものとすることはできない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その理由があるものというべきである。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)