大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)54号 判決

〔判決理由〕

(一) <証拠>によれば、本願商標は、上に「はごろもロケット」の文字を、下にこれより小さく細い「ラーメン」の文字を、前者の長さが後者のそれの約二倍で、両者の中央部がほぼ一致するよう、毛筆により二段に横書きして成るもので、……あることが認められ、また<証拠>によれば、引用商標は、審決の認定するとおり、両翼を有する図案化したロケットの図形を描き、その下にゴチック体で「ROCKET」の欧文字と「ロケット」の片仮名文字とを上下二段に左横書きして成るもので……あることが認められる。

(二) そこで右両商標の類否について検討する。

本願及び引用各商標はそれぞれ前記のとおりの構成から成るものであるから、外観において差異があり、類似しないものというべきであるが、称呼及び観念については次のように考えられる。

(1) 先づ本願商標の称呼観念について考察する。

本願商標は前記のとおり「はごろもロケット」の文字と「ラーメン」の文字とを二段に横書きして成るものであるが、前記認定の文字の大小その他構成の態様から明らかなように、右の前者の部分が顕著にあらわされていて、後者の部分は一見していわゆる附記的部分たるの外観を示しており、また本願商標の指定商品は前記によつて明らかなように、ラーメン、うどん麺、そば麺、中華そば麺であつて、右後者の「ラーメン」の文字は指定商品の一つである商品名を示すに過ぎないから、本願商標の称呼観念を生ずる主要部分は前者の「はごろもロケット」の部分にあると見るのが相当である。

ところで右部分は、「はごろも」の平仮名文字に続けて片仮名文字で「ロケット」と記載して成るものであるから、たとえ原告の主張するように右の平仮名文字に対し片仮名文字が、その大きさ、書体等の態様において格別に異なるものがなく、また「ロケット」の片仮名文字が外来語の日本文字による表現として慣用的なものであるにしても、相異なる両仮名文字の連続記載によつて平仮名の「はごろもの部分と片仮名の「ロケット」の部分とが一般人に異別感を与えることは否めないところというべきである。そしてさらに重要なことは、右の「はごろも」も「ロケット」も、共にわが国においては、それぞれ別個の観念をもつ語として一般世人によく理解され、親しまれた語であり、これを「はごろもロケット」と一連に書いても「はごろも」及び「ロケット」のそれぞれと違つた別個の意味合いをもつた語となるとか、或は全体が一体的なものとして独自の印象を与えるとかいつたようなものではなく、これを見る者または聞く者をして右のような意味で不可分的に結びつけて用いられたものと直観せしめるに足るようなものとはならないということである。原告は、「はごろも」も「ロケット」も天に昇るという点で密接な関連があるというけれども、その程度の類似点ないし共通点があるからといつて、前記のような意味で不可分的に結合したものと直観せしめるに足るものと認めるのは困難であるといわねばならない。また、音数の点からみても右「はごろもロケット」における「はごろも」は四音、「ロケット」は三音に一つの促音が加わつたものであるが、これを「はごろもロケット」と一連に呼称する場合商標名としては長めのものとなることも否定できないところである。原告は商標による取引にあたつては、取引に誤りなからしめるため、商標を正確に名ざし、すなわち本願商標にあつては「はごろもロケット」と称呼表示して行なうべきであるというが、取引の実際においては、必ずしもこの原告の主張のとおりに行なわれないで、文字商標でも、それが複数の構成部分から成り、しかもその各部分が前記のような意味で密接強固に結合したものでない場合、殊に全体としては音数が多い場合には、その一部をもつて略称され、一部だけでも観念を生ずることが少なくないというのが現実であることは顕著な事実であつて、本願商標もその例外をなすものではない。原告がこの点で援用している審決例はいずれもそれぞれの事案に存する諸般の具体的事情を検討してなされたものであるかも知れず、またよしんばそれらの審決が本件審決において判断のよりどころとした基準に反する判断を示したものであるにしても、そうだからといつてそれが直ちに本件審決の判断を誤りとする結論を導く資料となりうるものでないことはいうまでもないことである。したがつて、本願商標は一体不可分のものとしてのみ考察すべく、これを「はごろも」の部分と「ロケット」の部分とに分離して考察し、引用商標と比較した審決の判断は誤りであるとする原告の主張は採用できない。

(2) 次に、本願商標を分離して考察すべきものとした場合、その主要部分は「はごろも」の部分のみであるとの原告の主張について検討する。

商標を二つまたはそれ以上に分離して他の商標との類否を判断する場合、分離した各部分に軽重の差を認めるべきか、認めるとしてどの部分を主要部分とみ、どの部分を従属的ないし附加的部分とみるべきか、それぞれの部分がこれを見る者ないしは聞く者にどのような印象を与え、どのように認識されるかを経験則に従つて考察すべきである。これを本願商標についてみるのに、「はごろも」も「ロケット」も現在世人によく親しまれている語であつて、前者は古くから存する語で、やや古めかしい感じ、何となく優美な感じを与える語であるのに対し、後者は現代につくられた語で、新しい感じ、快速をもつた、いわゆる宇宙時代の象徴といつたような感じを与える語であるという違いはあるが、それぞれが看者ないし聴者に与える印象の強さにおいて格別軽重の差があるとは考えられない。むしろ青少年層に与える印象の強さ、引きつける力の強さという点では後者の方がまさつているとさえ考えられる位である。したがつて、本願商標においては「はごろも」および「ロケット」の各部分は同等のウエイトをもち、共に商標の要部をなすものであつて、本願商標からは、「ハゴロモロケット」の称呼、羽衣とロケットを組合せたものとしての観念のほかに「ハゴロモ」(羽衣)の称呼、観念が生ずるとともに、「ロケット」の称呼、観念もまた生ずるものというべきである。

原告は、本願商標を分離して考察するとすれば「はごろも」の部分を主要部分とし、「ロケット」の部分を附加的部分とするのが相当であると主張し、(イ)片仮名より平仮名の方が青少年に親近感をもたれていること、(ロ)音声学的にみても「はごろも」の発音の方が「ロケット」の発音よりも聴者に強い音としてひびくこと、(ハ)「ロケット」の語が特別顕著性ないし識別力の点で弱いことを挙げているが、次に述べるように、いずれも妥当な見解とはいい難い。

(イ) 戦後に小学校教育を受けた者が片仮名より先に平仮名を習得していることは事実であるが、さればといつて両者に対する親近感に格段の差があるとは考えられない。殊に商標を構成する文字としてそれが看者に与える印象の強さを考える場合、概して簡明で直線的な字体の片仮名の方がまさつていると考えられる場合が少なくないのであつて、少なくとも、本願商標の場合、「はごろも」の方が平仮名であることのために、片仮名の「ロケット」よりも強い印象を与えるとはたやすく断定し難いところである。

(ロ) 発音の点からみても、「はごろも」の方が「ロケット」より強くひびき、そのために格段に強い印象を与えるとは、とうてい考えられない。また、発音の順からいえば、「はごろも」の方が先であるし、全体の音数が商標としては長めであるといえるけれども、そうだからといつて、「ロケット」の方が省略されやすいといえるものでもない(長めの商標名を略称するとき、どの部分を省略するかは、それぞれの部分が看者ないし聴者にどのように受けとられるかを総合したうえでなければ何ともいえないわけである。)。

(ハ) <証拠>によれば、原告主張の登録第五四〇、八九九号商標、登録第五五二、一二〇号商標、登録第六九四、五六五号商標、登録第六九五、五三〇号商標が、それぞれ原告主張のような文字、図形またはその双方から成つているものであることが認められる。そして、これらの登録例と引用商標について、前記……の公報記載の指定商品をも対照すると、これら相互間における商標および指定商品の類否についてかなり微妙なものが存するようにみえるが、仮りにそれらの類似を肯定する見方が成り立つとしても、このような事例が存するからといつて、「ロケット」の語ないしはその図形の有する自他商品識別標識としての機能がきわめて薄弱なものとなつているとみるのは早計であるといわねばならない。したがつて、前記のような登録例が存するからといつて、そのことをもつて本願商標中の「ロケット」の部分を附加的なものにすぎないとする論拠とはなし得ないのであり、他に本願商標中の「はごろも」と「ロケット」の各部分がともに同商標の要部となつているという前記判断に影響を及ぼすような資料はない。

(3) 一方、引用商標の構成は前記認定のとおりであるから、これにより「ロケット」の称呼と観念が生ずることは明らかである。原告は、最近における進歩したロケットの形状に比すれば、引用商標の一部をなすロケットの図形は現在の青少年の頭にえがかれているロケットの形状と相違するというが引用商標の図形部分をその「ROCKET」、「ロケット」の文字部分とともに全体として見た場合、右図形部分は、図案的に簡略化されたものではあるがロケットをえがいたものであり、右商標全体として「ロケット」の称呼と観念を生ずるものであることは否定できないところである。

してみれば、本願商標と引用商標とは「ロケット」の称呼、観念を共通にし、相類似する商標であるというべきである。

(四) そして右両商標の指定商品が相牴触し、また本願商標が引用商標より後願のものであることは、いずれも前記によつて明らかであるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当するものというべく、これと同趣旨のもとにその登録を拒絶すべきものとした審決は相当である。

(多田貞治 古原勇雄 楠賢二)

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