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東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)89号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 本願実用新案の要旨は、別紙図面<略>に示すとおり、「側壁(1)上に発条(5)、保持片(4)、支え(2)、取手(3)により構成される一組のクリップを装着し、電流導体(6)を絶縁資料をもつて形成した支え(2)の軸と保持片(4)の間に装着して電源電圧を導き、取手(3)の操作により、電気機器に通ずる電線(7)の露出された先端線条と接触させる複式電線接続用開閉取手式クリップ付ソケットの構造」にあることが、右争いのない事実によつて明らかであるところ、<証拠>(本願実用新案の最終訂正にかかる図面および説明書)によれば、本願実用新案の説明書には「実用新案の性質、作用および効果の要領」として、別紙図面<略>に示すとおり「発条(5)つき電線保持片(4)二個を、支え(2)に取りつけ、その支え(2)をソケットの側面(1)に固着させたものである。取手(3)を支え(2)へ指先で圧着すれば、保持片(4)は支え(2)から離れる。電線(7)をその一端から適当の長さだけ単線に分離して、その先端の金属線条束を二本とも適当の長さだけ露出し、一本の電線の露出された金属線条束を電流導体(6)の一つに触れるごとく保ちつつ、取手(3)への指圧を去れば、保持片(4)は旧位置に復して、電線(7)の単線の被覆部を圧し、これを保持する。電流導体(6)は、弾性金属で作つてあり、保持片(4)が旧位置に復すると同時に保持片(4)との間に電線の露出された金属線条束を挾持して電気的接続を完成する。ゆえに、電線(7)の先端にはキャップの取りつけを必要とせず、したがつて、キャップ差し込みのための場所も不要となるとともに、幾組の電線でも、まとめて分岐しうる。本ソケットを使用する場合は、電線にキャップをねじ止めする手数がいらず、プラグやキャップの入手困難な事情のもとでも不都合がない。将来分岐がいくついることになるか予想できないのが通常であるゆえ、使用者に購入、使用の際を通じて常に安心を与える」と記載されていることが認められる。

三 本件審決が、本願実用新案をもつて、電線の保持力が弱く、電線が外れたり、その充電部分が露出されたりするため、感電や過熱の危険性が多く実用的ということができず、したがつて、実用ある工業的考案とは認められないとするのに対し、原告は、本願実用新案について、電気機器に通ずる電線を保持する発条(5)の弾発力がきわめて強力であり、その強度は、たとえば、針金をペンチで切断する直前におけるような挾持力に近いとか、線条束の電流導体(6)に接触する部分を圧しつぶし平らにして一本残らず確実に保持するに十分なだけの大きさの弾発力を有するとか、二人の成人男子の協力によつてはじめて右電線を挾持させうる程度のものであるなどとし、これを前提として、電線の保持力ないし接続性能が十分であり、審決指摘のような危険性がなく、実用的であるとし、審決の判断に誤りがあると極力争つている。

しかしながら、本願実用新案の最終訂正にかかる図面および説明書、ことに前示認定の(実用新案の性質、作用および効果の要領」の項には、本願実用新案における発条(5)の弾発力は、取手(3)を支え(2)へ指先で圧着すれば、保持片(4)を支え(2)から離しうる程度のものであることが、その実施の一態様として示されており、それ以上に、その発条(5)と電流導体(6)との弾発力が、原告主張のようにある範囲の特に強力なものにのみ限定されることをうかがわせるに足りる特別の構成についての図示または記載はまつたく存しない。したがつて、本願実用新案における発条の弾発力が原告の主張のように特に強力なものに限定されることを前提としてはじめて肯認しうるごとき主張は、採用できない。

なお、原告は、本願実用新案は、線条挾着当初の保持力がねじ止めの場合の保持力に比し多少劣つていても、実用上要求される保持力は挾着当初の最大の値が最後まで維持できるなどの利点と合わせてみるとき、実用的であると主張する。しかしながら、指先で圧着しうる程度の発条の弾発力をもつてしては、ことに、本願実用新案がその作用効果において幾組もの電線をまとめて挾着し分岐する場合を含めんとするものであることを考え合わせるときは、その保持は、とうてい電線をねじ止めする場合の保持の確実さに比すべくもないことは明らかであり、また、その保持力が挾着当初の最大値を最後まで維持しうるとの効果を奏すべき特別の構成は、その図面および説明書のどこにも示されていないから、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、本願実用新案においては、線条束の各線条が完全に平らに並べられるにいたり、発条と電流導体の弾発力は線条に均等に加えられるから、ねじ止めの場合に比し、線条が断線し難く、保持が確実であるし、保持片が十分肉厚な絶縁資料で作られているから、線条がぬけ出さないと主張するが、前示のとおりの要旨の本願実用新案において、線条束の線条が常に必らずしも原告の主張のように完全に平らに並べられ、均等の弾発力を受けるにいたるものとも認められず、保持が不確実になりうることも当然予想しうるところであり、その場合には、過熱や線条束の抜出による感電の危険も生ずるから、右主張も採用できない。

さらに、原告は、本願実用新案においては、軟質金属の線条と硬質金属の構造部分とが接するため、相互の接触面積が大となるし、線条束をハンダ固めした場合には、それは線条束と同じ方向以外の力に対しては外れにくく、ハンダ固めしない場合でも使用者の簡単な常識的配慮で実用上何ら不都合を生じないようにできるから、審決のいうように本願実用新案が実用的でないということはできない旨主張する。しかしながら、本願実用新案は、多数の線条から成る線条束が、電流導体(6)と、原告主張のように接触面積大きくかつ確実に接続されるとの特段の作用効果を常に確実に収めるに足りるものでないことは、すでに、発条(5)の弾発力の強さその他につき判断したところから明らかであり、また、本願実用新案のクリップ付ソケットを使用するにあたり、挾着すべき電線の線条束をねじつてまとめ先端を固い突起状とし、その部分を電流導体(6)とソケットの側壁(1)との間に位置させることにより、電線または電気機器の動揺、移動のあつた場合あるいはその他の力が加わつた場合などに電線が外れるのを防ぎうるよう配慮することが可能であるとしても、本願実用新案のクリップ付ソケットの使用にあたり、常に必ずしもそのような方法による配慮がされるとは限らず、しかも、本願実用新案がその安全性確保のため必然的に右のような方法による配慮をしなければ、これを使用しえないような構成とされているわけでもないから、原告の右主張も採用できない。

結局、本願実用新案の構造のものにおいては、本件審決もその理由において示しているとおり、接続しようとする電線の保持ないし接続性能が十分でなく、接触不良による過熱を生じあるいは電線が滑り出して外れその露出された充電部分が感電を起こす危険性の多いことが、その通常の使用の態様においてもきわめて容易に予期しうるところである。

ところで、通常当然に予期しえられる安全性の欠除ないし危険性を包含する考案については、これを未然に回避しあるいは防止しうる方途を、その考案の具体的構成のうえであわせ具有すべきものであり、このことは、実用新案制度が、実用ある新規の考案の保護および利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与し人類の福祉を増進することを目的とするものであることに徴し、きわめて明らかである。そして、その考案がこの方途を具有しない場合には、実用ある工業的考案として保護を受けるに足りないものというのほかはない。本願実用新案は、原告の種々なる主張にもかかわらず、右事項を具有しているものとは認められず、ひいて、実用的なものと認めえないといわなければならない。

四 右のとおりであつて、本件審決にはその主張のような違法があり取り消されるべきものであるとする原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却する。(小沢文雄 荒木秀一 石沢健)

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