東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)90号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
一 本件における唯一の事実上の争点が、本件審決が本件登録商標を他人が商品菓子、パンに使用した場合に原告の製造販売するものであるかのように出所の混同を生ぜしめるおそれがあるものといえないとしたことが誤りであるかどうかにあることは、原告の主張自体に徴し明らかなところである(他の点は、すべて本件においては争いがない。)。よつて、この点について審究するに、本件に現われたすべての証拠資料によるも、原告主張のように、本件審決の右認定判断が誤りであると断ずることはできない。すなわち、<書証>によれば、本件登録商標は、遅くとも昭和三十年末頃には、原告がその製造する商品口紅、香水について使用する商標として、取引者、需要者間に広く認識せられるに至つたことを認めうべく、また、最近わが国における各種企業の経営が多角化する傾向にあることは顕著な事実ではあるが、他面、本件登録商標は、口紅、香水の商標といえば誰もが(取引者はもち論需要者もが)たやすく本件登録商標を想起するとか、あるいは、少なくとも、本件登録商標に接する大多数の者が(商品菓子、パンの取引者及び需要者を含めて)、直ちに商品「口紅、香水」又はその業者たる原告を直感するまでに高度に著名なものとはいえないこと、「エリザベス」、「Elizabeth」の文字は、もともと欧米における女性名として、わが国にも比較的なじみの多いものであること、及び口紅、香水と菓子、パンとは、われわれの日常生活において、物品としての種類、性質、用途を全く異にし、それぞれの製造販売も一般的には全く別個であるを通例とすることは、本件弁論の全趣旨に徴し明らかなところであるから、これらを考量すると、原告が主張するように、化粧品としてのパンケーキと食品としてのパンケーキを混同する商品取引の事例があり、また、菓子等を口にした直後、口紅を塗り直すのが口紅を使用する女性の例であるという事実(香水については、これに類するものは推測しがたい。)を考え合せるとしても、なお、他人が商品菓子、パンに本件登録商標を使用した場合、当該商品が原告の製造販売するものであるかのように一般需要者及び取引者が直感するであろうことを肯認しがたく、他にこれを肯認せしむべき適確な証拠はない<書証>には、本件登録商標が化粧品につき著名となつたことを理由に、これを菓子、パン等に使用する場合、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあると思う旨の証明依頼に対し、これを証明する旨の記載があるが、本件登録商標が化粧品につき著名となつたからといつて、直ちに他人がこれを菓子、パンに使用した場合出所の混同を生ずるものといいえないことはいうまでもなく、しかも、前掲各証明は、「証明す」という文言を使用してはいるが、所詮は証明を依頼された者の推測の表明に他ならないのであるから、たとえ誠実に証明しようとしたとしても、事実の証明としては、ほとんど何らの価値をもちえないものであることは、あえて多くの説示を要しないところである。)。
(三宅正雄 杉山克彦 楠賢二)