大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(う)1318号 判決

被告人 小倉周成

〔抄 録〕

検察官の論旨は、原判決は、医師新井尚賢作成の被告人に対する精神鑑定書(以下新井鑑定という。)を証拠として心神耗弱の事実を認定しているが、新井鑑定の内容は他の証拠によつて認められる本件各行為当時における被告人の行動態度にてらし信用し難いものであり、とくに(1)各犯行直前までの被告人の態度行動には各犯行を予想させるような異常さは認められないこと(2)各犯行後間もなく帰宅した頃の被告人の態度行動は全く正常であること(3)被告人は犯行に好都合な時間と場所を選択して各犯行を行い、かつ犯行後発覚防止についての配慮もかなりとられていることなどにてらすと、被告人は当時いずれも心神耗弱の状態にあつたものとは認められない旨主張し、右(1)ないし(3)の各点は、証拠によりおおむねこれを肯定することができる。しかし原判決挙示の証拠によれば、本件各犯行の態様は、原判示のように、各被害者に対し、その陰部にかみつく(原判示第一)、多数回にわたつて陰毛をつかんで引き抜く(同第二、第三)、陰部にたばこの火を押しつける(同第三)、両乳頭をかみ切る(同第三、第四)、陰部を多数回にわたり手拳で強打し、または革靴ばきのまま足で蹴る(同第四)など兇暴怪奇な暴行を執拗に加えたものであるばかりでなく、犯行時間も約一時間ないし四時間半の長きに及んでいるなど残虐性、異常性が顕著であることのほか、本件はいずれも多量の飲酒による酩酊中の犯行にかかり、犯行自体につき高度の意識障害がみられること、犯行の動機が接客婦に対する潜在的な復讐心などという容易に把握し難いものであることが認められ、かかる事実関係にてらすと、前記(1)ないし(3)の事情にもかかわらずなお被告人は当時正常な精神状態にはなかつたとの疑いを容れる余地があるものといわなければならない。

しかして新井鑑定は、本件犯行当時の被告人の精神状態について、被告人の犯行は全面的に異常な酩酊にもとずくものであり、意識障害、記憶脱失、被害的気分、錯覚などを伴つているものである。被告人の酩酊時の性的行為(異性性器虐待)は潜在的な復讐観念と酩酊による精神運動性興奮の所産による攻撃的行為で、この場合必ずしも性的充足を目的としたものでなく、いわゆるサデイズム(加虐愛)とは断定し難い。被告人は犯行当時異常な酩酊状態にあり、それがために是非の弁別にしたがつて行動する能力が著しく減弱している状態にあつたものと考える、としており、その鑑定結果は、証拠により認められる本件各犯行の事実関係全般にてらして、これを首肯し得るのみならず、当審鑑定人竹山恒寿の精神鑑定書も、被告人は分裂型の性格異常をもち、その性衝動も強烈で残忍傾向を帯びることがある。彼はまた軽度の脳機能不全をもつていて、飲酒に際して病的な酩酊を発することがある。被告人の本件各犯行は、彼が飲酒し、酩酊していた際に発した。その際の精神状態は、明らかな病的酩酊ではなく、行為に指向性があり、意図の構成も不可能ではなかつたが、意識の混濁と刺戟性気分、抑制麻痺などが顕著であつたため、彼の残忍傾向がある性衝動が発揮されたものであり、純理的には深刻な酩酊の常として、弁別や弁別にしたがつて行為する能力に著しい低滅があつたと認められる、となし、その結論においては、これとおおむね一致していると考えられることに徴しても、右新井鑑定の信用性を肯定できるものと認められる。しからば、これによつて被告人の心神耗弱を認定した原審の判断は正当として是認すべきである。検察官の論旨は理由がない。

(遠藤 青柳 菅間)

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