大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 昭和43年(う)4号 判決 1968年4月17日

主文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮六月に処する。

原審および当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

本件公訴事実中昭和四一年九月二〇日午前二時四〇分頃神奈川県茅ケ崎市浜須賀交差点附近における無免許運転の点については、被告人を免訴する。

理由

<前略>まず、職権をもつて調査するに、記録ならびに当審における事実取調の結果およびその他の公判手続に徴すると

(一)  本件起訴状には、公訴事実一として「被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四一年九月二〇日午前二時頃より午前三時一〇分頃までの間藤沢市内から神奈川県中郡大磯町東小磯二八五番地先道路に至る間普通貨物自動車を運転したものである」と記載されていたこと

(二)  一方、被告人は略式命令をもつて「被告人は公安委員会の運転免許を受けないで昭和四一年九月二〇日午前二時四〇分頃茅ケ崎市浜須賀交差点附近において普通貨物自動車を運転したものである。」という事実(以下甲事実と略称する。)により昭和四二年四月二八日藤沢簡易裁判所において道路交通法違反罪として罰金一万五千円に処せられ、右裁判は同年六月二四日確定したこと

(三)  被告人は右甲事実を犯してその場で警察官に発覚取調を受けた際、同警察官からその後の運転を禁ぜられたこと

(四)  然るに、被告人は同警察官がその職務執行のためその場から立ち去つたのに乗じ、更にその場から同夜引き続き無免許運転を行つているうちに同日午前三時一〇分頃原判示業務上過失致傷の事故を惹起し、昭和四二年九月三〇日道路交通法違反(無免許運転)罪(公訴事実一)と業務上過失傷害罪(公訴事実二)とにより起訴されたこと

(五)  ところが、右(四)の起訴状記載の無免許運転の公訴事実としては、前記(一)に掲げたとおり摘示されていたのであり、これは前記甲事実とその後の無免許運転の事実とを包含しているのであるが、右公訴事実の摘示内容に徴すると、検察官は右両事実が包括一罪の関係に立つものという見解をとつていたものと認められること

(六)  しかし、無免許運転に関する右甲事実とその後の事実とは、前記(三)、(四)に掲げたとおりの事情に鑑ると、併合罪の関係に立つものと認めるべきであつたこと

(七)  検察官は右の起訴を行つた後になつて、右甲事実につき前記(二)のとおり既に確定判決を経ていることおよび右甲事実とその後の無免許運転の事実とは包括一罪ではなく併合罪の関係に立つものであることが判明したため、昭和四二年一一月九日の原審第二回公判期日において、無免許運転の点につき、訴因を「被告人は公安委員会の運転免許を受けないで昭和四一年九月二〇日午前三時一〇分頃神奈川県中郡大磯町東小磯二八五番地先路上において普通貨物自動車を運転したものである。」(以下乙事実と略称する。)というように変更することを請求し、弁護人もこれに対し異議はないと述べ、原裁判所は右訴因変更を許可したこと

(八)  そして、原判決においては、無免許運転の点に関しては右乙の事実のみを認定し、更に公訴事実二の業務上過失傷害の事実をも認定し、以上を併合罪として法令の適用をしたうえ、被告人を禁錮八月に処したが、無免許運転に関する前記甲事実についてはなんら判断を示さなかつたこと

(九)  当審において、検察官は起訴状記載の公訴事実一の無免許運転の点に関し、訴因を併合罪の関係に立つ前記甲事実と乙事実とに分けて特定摘示するように変更することを請求し、弁護人もこれに異議はないと述べ、当裁判所は右訴因変更を許可したこと

が明らかである。

しかし、前記甲事実と乙事実とが併合罪の関係に立つものである以上、原審において、検察官は、まず前記本件起訴状記載の公訴事実一の無免許運転の点につき、訴因を変更して、併合罪の関係に立つ甲、乙各事実を個別に特定摘示することを請求し、原裁判所はこれを許可すべきであつたのである。また、原審において検察官が、若し甲事実の実体上の審判請求を撤回する意図であつたとすれば、甲事実についての公訴の取消という方法によるべきであつたのであり、前記(七)のように訴因を変更するという方法によるのは許されなかつたものと解すべきである。そして、甲事実につき、若し検察官が公訴の取消を行つた場合は、原裁判所は、刑事訴訟法第三三九条第一項第三号によりその点につき公訴棄却の決定を行うべく、若し、検察官が公訴の取消を行わなかつた場合は、原裁判所は、甲事実については、既に前記(二)のとおり確定判決を経ているものであるから、同法第三三七条第一号により免許の判決を言い渡すべきであつたのである。

一方、原裁判所が本件公訴事実の一部ではなく、本件公訴事実の全部に対する判決という趣旨で被告人を禁錮八月に処したものであることは、記録上明らかであるから、同判決に対し申し立てられた本件控訴は、たとえそれが被告人のみから申し立てられた控訴であるにせよ、本件公訴事実全部につき移審させる効力があるものと認められる。そして本件公訴事実の範囲につき検討するに、前記(五)のとおり、当初起訴状に無免許運転に関する公訴事実として甲事実と乙事実との双方を含む範囲のものが記載され、しかも前説示のとおり原審において審判範囲を減縮すべき適法な措置がとられていなかつたことに鑑みると、本件控訴による移審の効力は右甲事実にも及び、従つて当裁判所は右甲事実についても審判すべきものであると解するのを相当とする。よつて右甲事実につき審究するに、原審における右甲事実に関する措置が前記(八)説示のとおりであつた以上、原審は、右甲事実に関する限り、刑事訴訟法第三七八条第三号にいわゆる「審判の請求を受けた事件について判決を」しなかつた違法をおかしているものといわなければならないから、原判決は、この点において破棄を免れない。

よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七八条第三号により原判決を破棄し、本件は当裁判所において直ちに判決することができる場合であると認められるから、同法第四〇〇条但書により、本件につき、更に次のとおり判決をする。

原判決が確定した罪となるべき事実および適用した法令に従いその処断刑の範囲内で、弁護人の控訴趣意書において指摘された事項その他諸般の事情を参酌のうえ、被告人を禁錮六月に処し、原審および当審における訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとする。

なお、本件公訴事実中、「被告人は公安委員会の運転免許を受けないで昭和四一年九月二〇日午前二時四〇分頃神奈県茅ケ崎市浜須賀交差点附近において普通貨物自動車を運転したものである。」という点については、前記(二)説示のとおり、既に確定判決を経たものであるから、刑事訴訟法第四〇四条、第三三七条第一号により被告人を免訴することとする。

よつて主文のとおり判決する。(飯田一郎 吉川由己夫 酒井雄介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例