大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(ツ)35号 判決

上告人は昭和三十七年九月以降昭和四十一年三月分まで(但し、昭和四十一年三月分は未払残金三千円)、統制額を超える約定賃料を支払つて来たが、右約定額が統制額を超えることを知り、催告期間経過後ではあつたが、昭和四十二年四月六日、昭和四十一年四月分から昭和四十二年三月分までの統制額相当の賃料を供託しているので、賃貸借契約の基礎である信頼関係を破壊したものではなく、解除はできないと解すべきものと主張するが、賃貸借契約において、統制額を超える賃料額が賃貸借契約当事者間に約定されている場合が多いという社会事情は、法律上これを是認されないにもせよ、公知の事実である。一般的には借主のみを保護することに傾く説が多いのであるが、地代家賃統制令の存することは、たとへその内容の詳細は知らなくとも、社会一般に通常人の知つているところであり、法的見解より公平に云えば、賃貸人も貸借人も、賃料を約定するに際り右約定が地代家賃統制令に反することのないように均しく注意をなす社会的義務があるものと云わなければならない。統制額を超える賃料額を約定することは、賃貸人に不当な利益をもたらすことは勿論であるが、賃借人も必要已むを得ないものがあるとしても、統制額の範囲を超える賃料支払を約することによつて同じく賃貸借の目的物件の賃借を必要とし統制額の限度で賃借しようとする他人に優先して賃借権を獲得する不当な利益を得るので、統制令に反して一般社会の利益を害することに、賃貸人と協力したものと云わざるを得まい。

本件についてこれを見るに、上告人は昭和三十七年九月以降昭和四十一年三月までの長期に亘り、統制額を無視する約定賃料を異議なく支払つて来たことは、その自陳するところであるから、本件未払分の賃料に限り、統制額違反であることを知つたためであるとの所論が真実であるとしても、右違反を覚知したならば、少くとも統制額の賃料を提供して被上告人にその理由を告げる程度の処置を講ずべきところ、右の如き処置に出なかつたことは原判決の判文上明白であり、右統制額をも催告期間内に提供せずに、催告期間経過後に突如として統制額の賃料を供託するが如きは、これこそ信頼関係に背反しないで何であろうか、この点の論旨は採用の限りではない。

上告理由第三点について、

上告人は統制額の約十倍に相当する賃料を催告して契約を解除するが如きは信義則に反する旨主張するが、論旨の如き賃料を約定した上告人にも統制令違反の責があり、単に違反の責任だけを云えば、上告人も被上告人もその責を負うべきことは上告理由第二点について説示したところである。もとより約定したからとて、統制額を超える部分の賃料約定がその効力を生ずるに由ないことは云うまでもないが、右説示において述べたように約三年七ケ月に亘つて、統制額違反の約定賃料を異議なく支払いながら、突如として約定額が統制令違反であるとするならば、少くとも催告期間内に事由を告げて統制額の賃料の弁済提供(供託までする義務はない。)をなすべきものと解するを相当とする。右の処置もなさないで、単に統制額を超える過大催告だというだけでは、被上告人の解除が信義則違反とは云えず、上告人には不信行為がないと云えないことはすでに判示したとおりであつて、この点に関する論旨も理由がない。

(毛利野 石田哲 加藤)

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