大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1324号 判決

一、訴外会社(編者注、株式会社広文館)が控訴人に宛て昭和四〇年一一月一二日、金額八〇万円、満期昭和四一年一月二一日、振出地および支払地東京都千代田区、支払場所東京相互銀行神田支店とした約束手形一通を振出し、控訴人が現に所持人であることは当事者間に争いがない。

控訴人は被控訴人(編者注、有限会社広文館書店)が訴外会社から営業の譲渡を受け、かつ、訴外会社の商号の重要部分である「広文館」の名称をそのまま使用しているから、商法第二六条第一項により、訴外会社の右手形金支払債務について弁済の責に任ずべきであると主張する。そして、被控訴人が昭和四一年一月二九日訴外会社と同じ図書雑誌の販売を目的として設立され、訴外会社の取締役である丸岡喜久子、同丸岡義行、訴外会社の取締役丸岡信夫の養子で丸岡喜久子の実子である丸岡義博、丸岡才一郎、訴外会社に三〇年近く勤務した溝畑幸三を取締役とし、訴外会社の仕入先の店主柳沢盛平を監査役として、本店をそれまで訴外会社の本店のあつた被控訴人肩書地と定め、訴外会社が使用していた店舗で訴外会社の「広文館」の看板もそのままに営業をしていること、および被控訴人が右店舗において訴外会社の使用していた什器備品を使用し、図書雑誌の仕入先も同じであることは、いずれも被控訴人の認めるところである。しかしながら、成立に争いのない乙第五ないし第七号証、原本の存在と成立に争いのない同第八号証に原審における証人丸岡信夫、同丸岡義行、同溝畑幸三、同柳沢盛平、および原審と当審における証人丸岡喜久子の各証言を総合すると、訴外会社は昭和四〇年一二月頃訴外聖橋学園に対する貸付金の回収ができなくなつたことから、取次店に対する支払いが不能となり、取次店から委託品である図書雑誌のほとんどを引き上げられ、他方債権者から什器備品の一切を差押えられ、競売に付されたため事実上倒産したこと、しかし、訴外会社の取締役であつた丸岡信夫、丸岡喜久子夫婦は図書雑誌の販売以外に生活手段をもたなかつたため、取次店と交渉し、新会社を設立して再起を図ろうとしたが、丸岡信夫の書店経営に不信をもつていた債権者らの容れるところとならなかつたため、同人は新会社に関係することなく、丸岡喜久子の実弟で広島市において同名の書店「広文館」を経営している丸岡才一郎が新会社の構成に加わり、同人の支払保証によつて取次店から図書雑誌の販売委託を受ける了解ができ、訴外会社の代表者丸岡信夫において、訴外会社が丸岡義博から転借中の本店の所在場所である店舗を同人に返還し、昭和四一年一月二五日本店を渋谷区代々木一丁目一八番地に移転し、丸岡喜久子において訴外会社の従前の本店所在地と同一場所である肩書地に被控訴人を設立し、ここを店舗として営業を開始したこと(訴外会社の本店移転と被控訴人の設立については当事者間に争いがない。)、右店舗内にあつた訴外会社の什器備品の一切は競売によつて訴外神谷清次に競落されたが、同人から訴外会社の従業員南沢花雄がこれを買受け、さらに、被控訴人に売渡し、被控訴人においてそのまま使用している(什器、備品を被控訴人が使用していることは当事者間に争いがない。)、および、図書雑誌の販売は主として振りの客を相手とするため、商号、のれんが営業の実績に影響することは少なく、対仕入先との関係では訴外会社と同じ「広文館」の名称の入つた被控訴人の商号は信用上必ずしも好ましいものでないことをそれぞれ認めることができ、以上の事実と右の被控訴人の認めて争わない事実を彼此対照して考えると、右の被控訴人の認める事実のみでは、被控訴人が訴外会社の営業の譲渡を受けた事実を推認することができないばかりでなく、かえつて、右認定の事実から考えると営業の譲渡がなかつたものと判断せざるをえない。そして他に営業の譲渡のあつたことを認めるに足りる証拠はない。商法第二六条第一項は営業の譲渡があることを前提に、営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合に、譲渡人の債務について譲受人もまた弁済の責に任ずることを定めたもので、営業の譲渡のない場合においても同一商号の使用によつて債務弁済の責任を認めたものではないから、控訴人のこの点の主張は理由がない。

二、次に、控訴人は被控訴人が訴外会社の債務の支払いを回避する目的で設立されたものであり、その営業目的、営業場所、取締役、得意先、仕入先、従業員に至るまで訴外会社と同一であり「広文館」の商号まで同じであるから、いわゆる法人格否認の法理によつて被控訴人は訴外会社の債務の支払いを免れない旨主張する。しかしながら、被控訴人が右のような不法の目的をもつて設立されたことを認めるに足りる証拠は全くないし、また営業目的、営業場所、大部分の取締役、仕入先、商号の一部の同一の点は前記認定のとおりであるが、この事実をもつて被控訴人が訴外会社の債務の支払いを回避する目的で設立されたものということもできない。そればかりでなく、いわゆる法人格否認の法理をもつて、控訴人の主張する新会社である被控訴人に対し、倒産した訴外会社の債務の支払責任を認める根拠となし難いから、控訴人のこの点の主張も理由がない。

(青木 高津 浜)

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