大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1653号 判決

被控訴人保は、前記認定の葬儀関係費以外に、いわゆる香奠返しとして、金一万一、四四〇円を支出していることが認められるが、香奠返しのごとき費用は本来喪主等において任意負担すべきものであつて、加害者等に賠償させるべき筋合いのものではないから(なんとなれば、香奠は元来損失補償の趣旨をもつて供与されるものではなく、従つて損益相殺にいう益の概念に該当せず、香奠返しは香奠に対応する概念として、香奠に対する返礼の意味をもち、香奠の額を超えない範囲内において香奠供与者に提供されるのが常例であて、およそ損益の観念をもつて律すべき性格のものではないといえるからである。)右支出をもつて被控訴人保の損害とすることはできず、さらに前記差額中、右以外の金額についてはこれを認めるに足る証拠はない。

とすれば、被控訴人保の治療費等を支出したことに基づく損害は前記金一一万八〇五円の限度において認容することができる。

(二) 文子の失つた得べかりし利益

本件事故により死亡した文子が死亡当時満六才の女児であつたことは当事者間に争いがなく、厚生省発表の生命表によれば、同女は統計上本件事故後なお六〇年余の余命年数を有するものと認められる。そこで、同女が本件事故によつて生命を侵害されなかつたならば、将来成長して稼働可能年令に達したのち収入を得たであろうと解すべきか否か、仮りに収入を得たであろうとしてその額をいかに算定すべきかにつき按ずるに、原審における被控訴人山川保本人尋問の結果によれば、文子の父被控訴人保は名城大学を卒業して鉄工業を経営しており、純益として一カ月約三〇万円を得ていること、文子の母被控訴人山川純江(以下被控訴人純江という)は高校を卒業していること、被控訴人両名は健康で親族には長命者もあること、被控訴人ら夫妻の子は、本件事故当時は文子とその弟一名で、本件事故後さらに男子一名が出生していること、文子は、生前、その身体になんらの障害がなかつたもので、将来ピアノ奏者となる希望を表明し、被控訴人らは文子に短大卒業程度の教育を施し音楽教師にさせる意向であつたこと、以上の諸事実が認められるが、文子が死亡当時満六才に過ぎなかつたことに徴すると、右認定の諸事実のうち、同女がその身体になんらの障害のなかつた女児であること以外は、同女の将来を予測するに役立つ資料たり得ないものといわなければならない。しかし、かように将来における収入の有無、収入源の種類、収入の額等の具体的予測が不可能である故をもつて、得べかりし利益を算定不能とすることは一般人の素朴な法感情に反し、損失の公平な負担を窮極の目的とする損害賠償制度の理念にも合致しないというべきであり、一方女子の労働力人口比率(一五才以上の女子人口に対する女子労働力人口の割合)は昭和四一年度において五〇・九パーセント(総理府統計局編・日本統計月報による。)、また、同年度における女子就業者中有配偶者の占める割合は五七・三パーセントであること(労働省婦人少年局編・婦人労働の実情一九六六年版による。)、しかも右の各比率は年々増大しつつあり、将来ますます増大はしても減少はしないものと予想される趨勢にあることに鑑みると、本件の場合文子が将来稼働可能年齢に達したとき、なんらかの労働に従事してこれによる収入を取得すべかりしものとするのを相当とする。そして、文子の就労期間及び収入額を左右することを予測させるに足る特段の事情が認められない以上、同女の労働可能期間は少くとも満二〇歳から五五歳までとするのを相当とすべく、またその取得すべかりし収入は、わが国の女子労働者の平均月間給与額によつて算定するのが相当である。

しかして、総理府統計局編の統計表として当裁判所がその成立の真正を認める甲第二二号証の二によれば、昭和三九年度におけるわが国の企業規模一〇人以上の事業所における女子労働者の平均月間給与額は被控訴人ら主張のとおりであると認められる。そして、収入の増大に伴い収入を得るのに必要な経費も増大するのを通例とするから、労働可能期間を通じ、文子が収入を得るに必要な生活費として支出する割合は全収入の六割とみるのが相当である。

(古山 川添万 秋元)

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