東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1813号 判決
控訴会社の就業規則第二六条の規定は、会社の施設又は構内において従業員が政党の機関紙を配布し、その他の政治活動を行うことを禁止していることが明らかである。ところで憲法第一九条の保障する思想及び良心の自由が侵すべからざるものであることはいうまでもなく、また同法第二一条の保障する言論及び表現の自由も民主政治の基盤をなす重要な基本的権利であってみだりに制限すべきでないことも当然である。しかし、いかなる思想、信条にもとづくにせよ、これが社会生活の規律を乱す行為としてあらわれるときは、右行為に対して制裁を課することは社会秩序を維持するために欠かせない事柄であって、これをもって直ちに思想、信条の自由を侵すものということはできず、また言論及び表現の自由と雖も、私人がその自由な意思にもとづいて締結した契約上の義務を履行するうえに必要な限度において制限を受けることもやむを得ないところである。そして企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生ぜしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべきであり、これをもって従業員の思想や信条の自由を侵し、又は思想、信条を理由として差別的取扱をなしたものといい得ないことは勿論、言論その他の表現の自由に対する不当な制限ということもできないと解される。しかのみならず、更に遡って考えれば思想や信条の自由、言論その他の表現の自由といわれるものには、特定の思想や信条を他から強制されない自由、これを拒否する自由も含まれ、また、これらの思想や信条にもとづく言論その他の表現のための他人の活動を受容しない自由、これを拒絶する自由も含まれていると解すべきであって、私人がその住宅内において特定の政治上の主義主張にもとづく他人の政治活動を受容する自由とともにこれを拒絶し、禁止する自由をももっていると同様に、労働関係においても、使用者は、その管理する工場、事業場の内部における従業員又は外部の第三者による政治活動を許容し、又はこれを拒絶し、禁止する自由をもっているものといわなければならない。また右就業規則第二六条の規定は、控訴会社の従業員に対し労働組合を結成し、或いは正当な組合活動を行うことを禁止、制限したものということはできないのであるから、憲法第二八条の保障する勤労者の団結権を侵すものとも解されず、また右就業規則の規定が個人の尊重と公共の福祉を規定した同法第一三条に違反するとすべきなにらの事由も見出し得ない。
(平賀 安達 後藤文)