東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2375号 判決
前認定の事実によって考えれば、本件書換前の手形(1)は前記の趣旨における「各社保証手形」であるから、三井銀行振出の「銀行保証手形」が三井銀行に返還され、三井銀行自身がその求償権を行使しない以上、その担保としての本件書換前の手形(1)も振出人としてはその支払義務がないもののように見え、被控訴人は右事由を本件書換前の手形(1)を取得した控訴人に対抗しうべき人的抗弁として主張しうるもののように見える。しかし本件においては中部貿易が全日青に支払うべき運賃等諸経費は、中部貿易が支払ったのでなく、控訴人が支払ったのであり、その点で控訴人は、元来中部貿易が全日青に支払わなければ三井銀行が「銀行保証手形」の振出人としてその手形の支払をすべきところを、三井銀行に代って同銀行の債務を弁済したものと同様の立場に立つ。そうだとすれば控訴人は、実質上全日青に代位し、全日青の有した三井銀行の「銀行保証手形」を行使しうべき立場にあり、その意味においてさらに三井銀行が自らその保証義務を尽したときに有する求償権と同一のものを行使しうるものというべきであり、その担保として差入れられた本件書換前の手形(1)その他の「各社保証手形」も系路としては三井銀行から返還されて取得したが、実質上は右の趣旨において請求しうべきものであって、反対に振出人たる被控訴人は、単に「銀行保証手形」が三井銀行に返還されたとの一事をもってその支払義務を免れえないものといわなければならない。しかし「各社保証手形」の金額は、輸入予定のバナナ一全房につき金一、〇〇〇円を限度として計上されていること「銀行保証手形」の場合と同様であって、現実に輸入され、割当てられたバナナの本数が申込より少ないときは、その現実に輸入され、割当てられた本数に相応する金額についてのみ支払義務あるものとなるべきことは前記のとおりである。従って被控訴人は、本件書換前の手形(1)については現実に入荷した一九八本分の金額についてのみ支払義務あるものというべく、これをもって手形債務者を害することを知って手形を取得した者に対抗しうるものというべきである。控訴人が実質上代位により「各社保証手形」の一なる本件書換前の手形(1)につき、これを行使しうべき権利を有するものというべきことは前記のとおりであるが、この場合これは本件書換前の手形(1)を取得した原因関係というべきである。しかして控訴人は被控訴人と同業者であり、中部貿易傘下グループ中の有力業者であるのみならず、とくに中部貿易との前記約定の一方当事者でもあって、「各社保証手形」の前記性格、従ってその一である本件書換前の手形(1)の前記性格についてはその取得にあたって知悉していたものと認めるのが相当である。もっとも控訴人は、いったん中部貿易の裏書によって本件書換前の手形(1)を取得した上、これをさらに三井銀行に差入れたのち、三井銀行から前記のとおり返還を受けることによって再度これを取得したものであるが、手形のいわゆる人的抗弁を所持人に対抗するには、戻裏書その他によって再度取得した者についてはその当初の取得の時点を基準として考えるべきであるから、本件においては控訴人の当初の取得時たる昭和三九年一月三一日当時について検討すべきである。しかし右の時点においても控訴人は本件書換前の手形(1)が前記のように銀行の将来の求償権の範囲でそれを現実に入荷するバナナの本数に応じ一全房金一、〇〇〇円の限度で担保するものであることを熟知していたものと推認すべきことは前同様であり、この時点においては銀行が求償権を行使すべきかどうか、してもいくらの範囲ですべきか、従って被控訴人の現実に担保すべき部分がいくらになるかは未知数であったとしても、それは少くとも満期までに取引の状況における事の経過によって当然に定まるべきものであるから、かかるものとしての「各社保証手形」の一なる本件書換前の手形(1)を、そのことを知悉して取得した控訴人は取引の状況における事の経過によって定まるべき結果を甘受することを予期しているものといわなければならない。そうだとすれば控訴人は他に特段の事由の認められない本件においては手形債務者を害することを知って本件書替前の手形(1)を取得したものというべきであり、被控訴人は控訴人に対してはその現実に輸入され、被控訴人の引取りえた一九八本分について、一全房金一、〇〇〇円の限度である金一九万八、〇〇〇円につきその支払義務があるが、その余の部分については支払義務がなく、右事由をもって控訴人に対抗しえたものといわなければならない。
(浅沼 加藤 園部逸)