東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2616号 判決
以上認定の事実関係を綜合して考えれば、「相模商事株式会社」「安藤商店」または「有限会社安藤商店」は名称を異にしながら、その実体はそれぞれ別個のものではなく、しかもその実質は安藤誠之助の個人企業と殆んど選ぶところがない状態であつたところ、控訴人両会社においては取引の相手方を「安藤商店」として取引をはじめ、以来数年間これを継続してきたものであつて、控訴人両会社においては、取引の相手方を安藤誠之助個人として信じていたものであり、またかく信じたことについて過失があつたとすべき特段の事情もない。されば、控訴人両会社が第三債務者として「安藤商店」こと安藤誠之助の債権者であるレインボー商事から債権差押、転付命令を受けた以上右レインボー商事に対し債務の弁済をしたこともまた当然であつて、控訴人両会社が右の弁済をしたことについて過失があつたとすべき特段の事情もこれを認めることができない。
これを要するに、本件の取引にあたり、安藤誠之助は相模商事株式会社の代表者の資格を用いたのではなく、「安藤商店」の名称を用いたのであり、また控訴人両会社も安藤誠之助個人を相手方として取引を継続したのである。この取引の効果が安藤誠之助個人に帰属し、同人が取引にもとづく債権を取得することは当然であり、控訴人両会社が安藤の転付債権者に対し弁済をすることによつて免責を得ることもまた理の当然というべきであつて、債権の準占有者に対する弁済の法理または民法第一〇〇条本文、商法第五〇四条但書の規定の趣旨を援用するまでもないことである。被控訴人の本訴請求は、取引の効果としての債権の帰属の関係では安藤誠之助は相模商事の代表者であるとし、控訴人両会社が安藤の転付債権者に対してした債務の弁済の関係では安藤は個人であるとし、かく安藤の有する二つの資格の使い分けをすることによつて善意の控訴人両会社に対し債務の二重払を強いるものというべく、かかる請求が取引の安全を害し、信義にもとるものであることは多言を要しないところである。
(平賀 石田実 麻上)