大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2793号 判決 1970年11月26日

控訴人 野崎仲治

同 新井織造

右両名訴訟代理人弁護士 武田正二

被控訴人 宮島準一

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、控訴人ら代理人が当審証人橋本要次郎の証言を援用したほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一、≪証拠省略≫をあわせると、次の事実が認められ、右証人の証言中これと牴触する部分はこれを信用しない。

すなわち、被控訴人は小林某らから「東京の人で金を借りたい人がいるのだが、土地を買戻す約束で金を貸してもらえないか」と相談を受け、昭和四一年一〇月二一日遠藤邦雄と称する者に金七〇〇万円を貸与することを承諾し、右債権の弁済を確保するため、訴外遠藤邦雄所有の川越市脇田町一六番一宅地八二坪四一(二七二、四二平方メートル)の所有権を被控訴人に移転することを約し、同月二八日右土地につき、同月二一日付売買を原因とする所有権移転登記手続を完了するとともに、同日右遠藤邦雄と称する者に対し売買代金として金七〇〇万円を交付したこと、右登記手続にさいし、右遠藤邦雄と称する者は右土地の登記済権利証を紛失したと称しこれを所持していなかったため、控訴人らが右男と右土地の登記簿上の所有名義人である訴外遠藤邦雄とが同一人である旨の保証書を提出したこと、そこで前記のとおり所有権移転登記を経由することができ、そのため被控訴人は前記土地の所有権を取得することができたものとして、前記金七〇〇万円を交付したこと、ところがその後遠藤邦雄と称していた者は石川義雄で、遠藤邦雄になりすまし被控訴人と前記売買契約を締結したことが判明し、被控訴人は真実の訴外遠藤邦雄から登記抹消の訴えを提起された結果、前記登記の抹消登記手続をするのやむなきにいたったこと、前記のとおり被控訴人は石川義雄に対し売買代金名義で金七〇〇万円を交付したのであるが、同人が逃走中のためその回収が得られないまま今日にいたっていること、控訴人らはかねて熟知の仲である訴外橋本要次郎の依頼を受けて、遠藤邦雄と称する者が果して訴外遠藤邦雄と同一の人物かどうかについて慎重な調査をすることなく、安易に保証書を作成し提出したこと、以上の事実が認められる。

二、ところで右保証書の意味するところは、登記義務者として登記申請をする者が登記簿上の当該名義人と同一人であることにつき、善良な管理者の注意を払って確認し、まちがいのないことを保証するというにあるから、この注意を怠ったためその同一性をあやまり、その結果これを信じて取引した者に損害が生じた場合には、右保証した者は被害者に対し、その損害の賠償責任を負うものと解すべきところ、控訴人らが右注意を怠ったことは右認定のとおりであり、被控訴人は右保証書により石川を真実遠藤と誤認し、これと取引したものであり、特段の主張立証のない本件では被控訴人は前記石川義雄から回収することができない右出捐金七〇〇万円はこれによってこうむった損害というべく、控訴人らは石川その他と共同しているか否かに関係なく、自ら共同不法行為者としてその賠償責任があるものといわなければならない。

ただ不動産登記法第四四条ノ二は、保証書により登記の申請があった場合、その申請に基づき直ちに登記することなく、登記官は登記の申請が登記簿上の名義人の申請であるかどうかを本人に確かめるため、まず右名義人に登記の申請があった旨を通知し、右名義人が自己の申請に間違いないことを登記官に申出たとき、正式にその申請を受理し登記すべき旨規定するから、登記簿上真実の名義人がその申請の間違いないことを登記官に申出た事実があるときは、保証書を提出した者の過失と損害の発生との間に因果関係が中断する余地がないでもない、しかし本件については控訴人らからこの点の主張・立証はない。むしろ≪証拠省略≫の記載と前認定の事実から推して考えれば、右登記の直前遠藤の住所が変更されたものとしてその変更先の所轄町長から印鑑証明がとられているのであって、登記官の前記通知は右変更先になされ、真実の遠藤不知の間に石川らが遠藤名義で間違いなき旨申出た結果、右登記がなされたものと推認する余地が多分に存する。それでなければいやしくも登記官が前記法条の規定する手続をとり、これが真実の登記義務者に到達しているとすれば、本件のような登記が出現するのは稀有のことに属するからであり、そのことの故に控訴人らがたやすく本件保証書を作成した責任にいささかも消長を来たすものではないことは自明である。

従って控訴人らは被控訴人に対し、連帯して前記損害金七〇〇万円中被控訴人の請求にかかる金二〇〇万円及びこれに対する本件損害発生後の昭和四三年四月六日から支払ずみまで年五分の遅延損害金を支払う義務がある。

三、よって、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条第一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅沼武 裁判官 岡本元夫 田畑常彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例