大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ラ)294号 決定 1968年7月05日

抗告人 平山安雄(仮名)

主文

本件抗告を却下する。

理由

抗告人は原審判を取消すとの裁判を求めその理由は別紙記載のとおりである。

職権をもつて本件抗告の適否を検討する。

抗告人提出の抗告申立書には原審判に対し抗告する旨の記載があるが、家事審判法第一四条では「審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる。」旨規定されているのであるから、審判に対しては、同法第七条非訟事件手続法第二〇条の通常抗告はできないというべきで、抗告人の本件抗告は即時抗告と解すべきである。

ところで、民法第八一九条第六項、家事審判法第九条第一項乙類第七号による親権者の変更事件についてなされた審判に対し即時抗告をなし得る者は、家事審判法第一四条、家事審判規則第七二条第一項、第二項、第二七条第二項により、申立を却下された申立人、および親権を行なう者であつて、右の親権を行う者とは、現に親権者として親権を行なつている者を指し、変更審判により将来親権者として親権を行なう者と定められた者を包含しないと解するのが相当である。

記録によると、原審判は、事件本人平山信雄の母で現に親権者として親権を行なつていた申立人松坂サキから、右事件本人の親権者を父である抗告人に変更する旨の申立があつたので、審判手続を行い、右申立人の申立を容れる旨の審判をなしたものであることが認められる。そうすると抗告人は家事審判規則第七二条第一項、第二項、第二七条第二項の申立を却下された申立人または親権を行なう者のいずれにも該当しないことは明らかであり、抗告人には即時抗告の申立権はないものといわなければならない。

よつて抗告人の本件抗告は不適法であるから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福島逸雄 裁判官 武藤英一 裁判官 岡田潤)

参考 抗告審(高松高裁 昭四二・一一・二四決定)

新たに親権を行なう者と定められた者に抗告権があることを前提として実体判断をした事例

抗告人 金山正次(仮名)

相手方 藤田宏子(仮名)

事件本人 金山豊(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

しかしながら、医師矢野実作成の診断書(疎甲第三号証)、同岡説也作成の診断書(疎乙第一号証)、同飛梅薫作成の診断書(疎乙第二号証)に当審における抗告人審尋の結果を綜合すると、事件本人は未熟児である上、兎唇・口蓋破裂・先天性心臓弁膜症・臍ヘルニア・外性器奇型・停留睾丸の症状をもつ多発性奇型で、できるだけ早い機会に前記症状を矯正するために医療監護を要するものであることが認められるところ、これには相当額の治療費を要するが、当審における相手方審尋の結果に疎甲第一、二、四、五、六号証(相手方の日記および手記)を綜合すると、母である相手方は事件本人懐妊中から健康に勝れず離婚以来実兄健一方で世話を受けていたが、事件本人出生後の肥立ちも良好でなく、加えて事件本人が前記のような状態で出生したため精神上深刻な打撃を受け、将来はともかく、さし当つて自己および前記症状の事件本人をかかえての生活の方途もなく、事件本人に不可欠の医療監護を加えることもでき難い状況にあることが認められるから、抗告人指摘の事情を考慮に容れても、事件本人の親権者を抗告人とした原審判は相当である。

よつて、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条に従い、本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させるのを相当と認めて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本茂 裁判官 越智伝 裁判官 奥村正策)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例