東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)135号 判決
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〔判決理由〕二 (審決取消事由の有無)
(一) 原告の四の(一)の主張について
本願出願前日本国内において領布された刊行物である引用例に、アルカリ金属触媒の存在下で、α―オレフインの一種であるプロピレンを二量重合させる方法が記載され、さらに前記アルカリ金属触媒の中にはナトリウムが包含されるという説明および溶融アルカリ金属を炭酸カリウム粉末上に分散させた形状の触媒を使用した例も記載されていることは、当事者間に争いがない。そして、引用例によると、同引用例中に「本明細書に於て『アルカリ金属触媒』とはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムを包括する。」旨の記載があるが、この記載に引き続いて、「特に後の三者が好ましい。」旨の指摘があることは、被告の自白するところである。しかも、右引用例によると、リチウムおよびナトリウムの使用についてはとくに記載のないことは、原告の主張するとおりである。しかしながら、引用例は、リチウムおよびナトリウムはカリウム、ルビジウムおよびセシウムに比すれば適当性において劣るが、以上五者のアルカリ金属触媒がプロピレンの二量化重合に有効であることを開示しているものであることが認められる。しかも、引用例が溶融カリウムと炭酸カリウムとの組合せにかかる触媒を実施例として開示していることは、すでに判示したとおりである。したがつて、引用例がナトリウムおよびリチウムを排除する趣旨であるとの前提のもとに、本願発明が引用例から容易に推考しうるものとした本件審決の認定を違法とする原告の主張は、これを採用することができない。
もつとも、英国特許第八六八、九四五号明細書によると、同証にはプロピレンを二量重合して四―メチルペンテン―一を生成する際カリウムとナトリウムとではその効果に相違がある旨の記載があることを認めうるが、この記載は本願発明の引用例からの容易推考性の認定には直接関係がないものというべきのみならず、同明細書は、プロピレンを二量重合させて四―メチルペンテン―一を生成するについてのナトリウム触媒の作用を否定しているものとは到底認めがたい。したがつて、右の記載は前述の認定に影響を及ぼすものではない。
(二) 原告の四の(二)の主張について
1 前記引用例、とくに「本発明方法は、プロピレンをアルカリ金属触媒の存在下に約100〜400°F,成可く約250〜350°Fに、少なくともプロピレンの大部分が二量化するに足る時間加熱するのである。若し希望ならば例えばヘプタンの如き反応条件下で実質的に不活性な炭化水素溶媒の存在下に反応せしめてもよい。」および「触媒としては液体状、不活性担体上にフイルムをなせる形状、又は固体状でもよい。液体状の場合、触媒と炭化水素との混合物を激しく攪拌すると良好な接触が得られる。」旨の各記載ならびに本願明細書における「英国特許第八二四、九一七号明細書……においてはアルカリ金属は不活性支持体上にフイルムとして利用し得る旨を記載し粉末炭酸カリウム上におけるカリウムの使用について説明している。」との記載によると、引用例は、その特許請求の範囲においては担体の点につきとくに限定をしているものではないが、不活性担体上にアルカリ金属触媒を担持させたものを用いてα―オレフインの一種であるプロピレンを二量化重合させる方法について技術開示をしているものと認めることができる。
他方、前記本願明細書、とくに、「前記の触媒製造状態のもとでは金属カリウムはナトリウム金属の存在において高度の分散状態において遊離され、これによつてカリウム金属の支持体上における直接分散によつて生成され得るよりも大なる重合活性の触媒が得られる。」との記載によると、本願発明は、無水カリウム化合物が担体としてアルカリ金属触媒の金属ナトリウム(またはリチウム)に交換反応する能力を有すること、換言すれば無水カリウム化合物が金属ナトリウム(またはリチウム)との関連において反応にあずかる性質のものであることに着目している発明であるとみられないわけではない。
したがつて、本願発明にあつては担体は活性のものとみられるのに対し、引用例においては必ずしもそのようにみられない点において相違するところがあるようにも認められないことはない。
しかし、前記(一)において判示したように、溶融カリウムを炭酸カリウム粉末上に分散させて成る触媒が引用例の実施例5および6において開示されており、しかもアルカリ金属触媒としてナトリウムがカリウムとともに例示されている以上、溶融カリウムにかえてナトリウムを用いてみることは、たとえそのために担体が活性のものとなる結果を生ずるとしても、かような置換を阻止するごとき技術常識その他特別の事情の存在を認めるべき確証の存しない本件においては、本願発明の属する技術分野における通常の知識を有する者において容易に想到しえないものとすることはできない。したがつて、本願発明を、引用例の記載内容に基いて当業者が容易に発明することができたものとした審決の認定を違法ということはできないものといわなければならない。
2 のみならず、本願発明が引用例に比し格段の作用効果を有するかどうかの点についても、以下に判示するとおりである。
すなわち、原告の昭和四〇年九月四日付審判請求書記載の実験条件のもとにおいて、ナトリウムと炭酸カリウムとを組み合わせた触媒とカリウムと炭酸カリウムとを組み合わせた触媒との間に、触媒活性度、プロピレン転化率および半減期の点において、原告主張のような相違(換言すればナトリウムを組み合わせた触媒のすぐれている点)があることは、被告の認めるところである。
しかしながら、本願発明は、「無水カリウム化合物上に元素ナトリウムあるいはリチウムを含有するα―オレフインの重合用触媒混合物」および「無水カリウム化合物と溶融ナトリウムあるいはリチウムを混合することより成るα―オレフインの重合用触媒の製造方法」にかかるものである(このことは、当事者間に争いがない。)ところ、叙上の原告主張の結果は、本願発明のうち、炭酸カリウムとナトリウムとを組み合わせた触媒を特定の実験条件のもとにおいて使用した場合における作用効果を引用例の炭酸カリウムとカリウムとを組み合わせた触媒特定の条件のもとに使用した場合における作用効果と比較したものであるにとどまり、この事実から全体を推断することはできない。叙上の触媒を他の条件のもとに使用した場合またはナトリウムと他の無水カリウム化合物との組合せ触媒もしくはリチウムと無水カリウム化合物との組合せ触媒を使用する場合においても、等しくすぐれた作用効果を示すことは、本訴にあらわれた全証拠をもつてしても、当裁判所の確認しがたいところである。すなわち、前記本願明細書、引用例ならびに原告の昭和三九年一一月二日付意見書および原告の昭和四〇年九月四日付審判請求書を総合すると、つぎに述べる事実を認めることができ、この認定をくつがえす証拠はない。
すなわち、本願発明において、原料たるα―オレフインとしてプロピレンを用いる場合における主生成物は四―メチルペンテン―一であつて、引用例もこれと相違するところはないところ、本願発明および引用例記載の発明についての実施例および実験例におけるプロピレンの(ヘキセンへの)転化率、四―メチルペンテン―一の選択率、ひいてその生成率(プロピレンから主生成物たる四―メチルペンテン―一をうる率、すなわち、ヘキセン生成率にヘキセン中の四―メチルペンテン―一の百分率を乗じた数値)は、それぞれ末尾添付の別表第一および別表第二に表示するとおりである。これらの表を考察すると、
(1) 別表第一の3、4および5はナトリウムと炭酸カリウム以外のカリウム化合物(硫酸カリウム、無水珪酸カリウムおよび水酸化カリウム)との組合せ触媒についての、また別紙第一の6はリチウムと炭酸カリウムとの組合せ触媒についての効果を示してはいるが、単に選択率が示されているのみで、プロピレンの(ヘキセンへの)転化率、ひいて生成率は不明であり、したがつて、作用効果は十分に示されていない。
(2) 原告のいわゆるナトリウム触媒(ナトリウムと炭酸カリウムとの組合せ)を使用した場合における生成率は70.3%(選択率は七四%)、54.9%、選択率は八二%)であるのに対し、原告のいわゆる引用例のカリウム触媒(カリウムと炭酸カリウムとの組合せ)使用の場合におけるそれは46.1%(選択率は八七%)、59.2%(選択率は七四%)、二四%(選択率は八〇%)である。これによつてみても、生成率はいわゆるナトリウム触媒の場合が常にすぐれていると断定することができない。
以上のように認めることができる。
これらの点を考慮すると、たまたま前示のように触媒の半減期において原告のいわゆるナトリウム触媒がいちじるしくすぐれた効果を示した事例があつたとしても、本願発明にかかる触媒が、引用例の場合に比し、格段にすぐれた作用効果を有する旨の原告の主張は、本件にあらわれた証拠の限りにおいては、当裁判所はこれを確認することができない。
また、リチウムについてみるのに、なるほどリチウムはナトリウムと同じくアルカリ金属触媒であつて、性質が似ていることは当事者間に争いがないが、かかる事実のみでリチウムが本願発明の方法でナトリウムと同等の効果をあげるとの確証とすることができないのみならず、かりにナトリウムと同等の効果をあげるとしても、いまだ格段の作用効果があると認定することのできないことは、すでに判示したとおりである。<中略>
三(むすび)
叙上判示したとおりで、本件審決に原告主張の違法事由のあることを理由にその取消を求める本訴請求は理由がないというほかはない。よつて、これを棄却する。(服部高顕 石澤健 奈良次郎)