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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)163号 判決 1973年4月11日

原告 株式会社 小倉屋昆布店 外二名

被告 特許庁長官

主文

特許庁が、昭和四十三年九月二十一日、同庁昭和四二年審判第七、〇九一号事件についてした審決中、本件特許明細書第四頁第十八行ないし第十九行目の「最高一八〇℃」を「ダクト内最高一八〇℃」と訂正する旨の請求に関する部分は、取り消す。

原告らのその余の請求は、棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告ら訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四十三年九月二十一日、同庁昭和四二年審判第七、〇九一号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は「原告らの請求は、棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告らは、特許第二七八、七五三号「乾燥昆布の加工法」(昭和三十四年六月二十日特許出願、昭和三十六年六月二十六日登録)の特許権者であるところ、昭和四十二年十月六日、本件特許明細書の「発明の詳細な説明」の項中(1)「最高180℃」なる記載(本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第十九行目)を「ダクト内最高180℃」と、(2)「35℃」なる記載(本件特許明細書第四頁第十九行目)を「60℃」と、また、(3)「まぶし含浸させ」なる記載(本件特許明細書第五頁第四行目)を「まぶしひきつづき加熱して含浸乾燥し」とそれぞれ訂正することを内容とする訂正審判を請求し、昭和四二年審判第七、〇九一号事件として審理されたが、昭和四十三年九月二十一日、本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年十一月六日、原告らに粉達された。

二  本件審決理由の要点

(一)  前記訂正箇所(1)の点については、本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第十九行目の「最高一八〇℃最低一〇〇℃、炉内温度三五℃内外(熱風交換一分間三回)で乾燥する」という記述からみると、炉内に熱風を間歇的に送風することが知られ、なるほど送風のためのダクトが炉に附属している点はこれを推認するに足りる。しかし、乾燥装置と炉が同一物であるか否かは、本件特許明細書の記載から知ることはできず、仮に炉と乾燥装置が同一であり、これに熱風送入のダクトが附属していることが本件特許明細書から推認できるとしても、ダクトの温度は場所により区々であるから、最高最低温度を計測場所との関連において示すのでなければ、科学的に無意味であり、不明瞭である。しかして、計測場所を併記しないような非科学的な温度表示が慣行されているとは、とうてい考えられず、むしろ熱媒体を外部より導入して炉(乾燥装置)を加熱するような場合、炉温(平均温度)のほか炉に関し、熱媒体の入口と出口の温度を表示することが慣行である。してみれば、本訂正は仮に恣意的な釈明ではないとしても、これにより依然として不明瞭であることを免れないから、明瞭でない記載の釈明に該当しない。

(二)  前記訂正箇所(2)の点について、訂正拒絶理由通知書において、「三五℃」が不適当であることは首肯できると説示したがこれは「三五℃」が普通の室温に近く減圧を併用しないかぎり乾燥の能率が悪いと認められるからであり、調味煮熟した昆布の低温乾燥温度として「六〇℃」が適当であると認めたものではない。しかして、乾布の香味を温存するための低温乾燥の温度として「六〇℃」が適当であるという暗示は、本件特許明細書中にはなく、「三五℃」は同明細書が炉温につき示す唯一のものであり、「三五℃」が「六〇℃」の誤記であるとは認められない。仮に、その低温乾燥温度として「六〇℃」が自明であつて「三五℃」が六〇℃」の誤記であることが、当業者にとつてなんの抵抗もなしに首肯しえられるならば、かような誤記は権利解釈上何ら実害はなく、あえて訂正を要しないであろう。訂正審判は、原則上、かような誤記の訂正はこれを認めていないのである。

(三)  前記訂正箇所(3)の点については、「含浸粉燥」が、微粉末をまぶし「ひきつづき低温乾燥する」ことにより、微粉末を昆布の組織内に浸入させることであるという点を首肯させるに足る記載事実は、本件特許明細書を精査検討してもこれを発見することができない。すなわち、「含浸乾燥」が「低温加熱」または「低温乾燥」との関連において説明されていないのである。したがつて、「含浸乾燥」が本発明の新規性と進歩性とを宿す重要な技術思想であつて、「微粉末をまぶしひきつづき低温乾燥することにより微粉末を昆布の組織内に浸入させる」というような概念を、これに内包させることを意図するならば、明細書中で定義すべきであり、かかる定義が存在しない本件特許明細書よりすれば、本件審判請求人ら(原告ら)には、「含浸乾燥」に対し、特段の意味を含ませる意図がなかつたものと推断することができるであろう。このような観点からすれば、唯一の実施例における前記訂正は、とりも直さず、特許請求の範囲の項における「含浸乾燥」にも「ひきつづき低温加熱乾燥する」という新規な技術思想を附加することに帰するものというべく、実質上特許請求の範囲を変更するに至るものと認められる。そして、かかる訂正を許さないことは、特許法第百二十六条第二項が明定しているとおりである。

以上の説示により明瞭なように、前記(1)、(2)および(3)の訂正事項は、特許法第百二十六条第一項の各号のいずれにも該当せず、なかんずく(3)については、同条第二項に違反するものと認めざるをえない。

三  本件審決を取り消すべき事由

(一)  本件審決理由の要点(一)の点について

本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第十九行目の「乾燥装置を用い最高一八〇℃、最低一〇〇℃」なる記載を「乾燥装置を用いダクト内最高一八〇℃最低一〇〇℃」と訂正することは、明瞭でない記載の釈明に該当し、特許法第百二十六条第一項第二項に違背しない。

(二)  本件審決理由の要点(二)の点について

本件特許明細書における「炉内温度三五℃」との記載は、特許請求の範囲の項の「低温にて乾燥し」の記載に対応する実施例の説明として記載されているのであり、本件特許発明の「低温乾燥」に関する技術的意義によりすれば、右「低温」乾燥とは、六〇℃内外の温度を指すことは自明というべく、「三五℃」の記載は明白な誤記である。すなわち、右「低温乾燥」は、昆布を調味液で煮詰め、密閉して蒸し込み、さらに余分調味液を分離した後に、煉瓦積の乾燥装置を用いて「ダクト内最高一八〇℃、最低一〇〇℃」で、加熱による人為的な乾燥を行なうものであり、本件明細書記載の三五℃内外の温度であつては、略々常温による自然乾燥に等しく、乾燥能率の点から乾燥塩昆布の工業生産には到低向かないものであり、したがつて、乾燥能率の見地のみよりすれば、炉内温度はできるだけ高温の方がよいわけであるが、高温に過ぎれば乾燥すべき昆布中に含まれる調味料の香気が散逸し、さらには調味料が変質して味を甚しく劣化せしめるのみならず、昆布内部が必要な程度に乾燥するまでに昆布の表面がかたくなり、そり返つて乾燥昆布として品質劣悪なるものができあがることは、自明であり、結局、本件特許明細書に示された「低温乾燥」という技術思想は、調味料を含んだ昆布を乾燥するにあたつて、昆布の香気と品質をそこなうことなくして工業的に乾燥を行ないうる程度の低温度を意味することは明らかであるから、この意味合いでの低温乾燥温度の例示として「炉内温度六〇℃」が適当であることは、当業者のみならず、調味料を含んだ食料品の乾燥加工に携わる者であれば、その実際の経験に基づく技術常識上容易に首肯しうるところである。

以上のとおり、本件特許発明の「低温乾燥」に関する技術思想を当業者の技術常識に照らして考えるならば、「炉内温度三五℃」なる記載が不適当であるとともに、低温乾燥温度の例示として「炉内温度六〇℃」が適当であることが理解されるのであつて、本訂正は、誤記の訂正として、許されるべきであり、本件審決は、この点において判断を誤つているものというべきである。

また、本件審決は、低温乾燥温度について、「六〇℃が自明であつて、三五℃が六〇℃の誤記であることが当業者にとつてなんの抵抗もなしに首肯しえられるならば、かような誤記は権利解釈上何ら実害はなく、あえて訂正するを要しない」としているが、誤記の訂正として審判により訂正が認められるのは、当業者としての技術常識に照らし、特許明細書の記載に誤記が認められる場合についてであることはいうまでもないのであるから、本件特許明細書に示された「低温乾燥」に関する技術思想よりして、「炉内温度三五℃」なる記載が誤記であり、「炉内温度六〇℃」が適当であることが首肯しえられるならば、そのような誤記を訂正して特許明細書の記載を表現上も明確にすることにより、低温乾燥工程をめぐる権利解釈を安定せしめる必要はあるのであつて、このような場合に訂正が許されないとするいわれはない。

(三)  本件審決理由の要点(三)の点について

本件特許発明において「低温乾燥」方法を用いた技術思想よりすれば、微粉末をまぶした後の含浸「乾燥」工程においても、工業的に「低温乾燥」の方法によることは技術常識上当然であるのみならず、加熱手段(低温乾燥)を採ることが「含浸」という技術思想のうちに含まれていることも、明らかである。したがつて、本訂正個所を「ひきつづき加熱して含浸乾燥し」と訂正することは、不明瞭な実施例の記載を明瞭ならしめるだけであり、何ら新たな技術思想を付加するものではない。すなわち、乾燥昆布加工の工程中に「低温乾燥」の工程が存し、これを受けて微粉末をまぶした後の含浸「乾燥」が行なわれるのであるから、特段の説明がなくても、後の「乾燥」が「低温乾燥」を意味することは明白である。換言すれば、本件特許発明における「低温乾燥」という技術思想が、調味料を含んだ昆布を乾燥するにあたつて、香気と品質をそこなうことなく工業的能率的に乾燥を行ないうる程度の温度による乾燥を意味することは、技術的常識として明らかである。また、「含浸」なる用語は、一般的に慣用されている技術用語であり、液体を固体の組織内に全体的に含ませ浸み込ませることをいう。したがつて、本件特許発明において微粉末をまぶし含浸させるということは、微粉末を液体中に溶解したうえ、その溶液を昆布組織内へ浸みこませ込る意味であることはいうまでもなく、そのためには、含浸工程において加熱手段を必要とすることは自明である。けだし、低温乾燥した昆布に微粉末をまぶした後、ひきつづいて、加熱(低温乾燥)することによつて、布昆組織内の調味液の温度が高まる結果、調味液の溶解度が高くなり、かつ、膨張するため溶解能力の高くなつた調味液を昆布表面に滲み出させることができるのであり、この滲み出た溶解能力の大きい調味液の中に微粉末が溶解し、微粉末は溶液のかたちで昆布組織内へ比較的容易に含浸することとなり、かつ、低温の続行により、乾燥塩昆布として必要な乾燥状態のものが得られるのである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

原告ら主張の事実中、本件に関する特許庁における手段の経緯および本件審決理由の要点ならびに本件審決理由の要点(一)の点についての原告らの主張事実は、いずれも認めるが、その余は争う。

(一)  本件審決理由の要点(二)要点について

炉内温度「三五℃」が本件特許明細書に示された唯一の炉内温度であるから、これが低温に過ぎる温度であるとしても、何度とすべきを誤つて三五℃と記載したのか、本件特許明細書の記載に基づくかぎり、窺知することができない。一方、本件特許明細書の記載の「三五℃」で低温乾燥すれば、乾燥塩昆布の品質の良い製品ができることも事実であるから、「三五℃」は乾燥に不適当な温度ではなく、また、他方、低温乾燥の温度は、食品の種類および製品に要求される品質の程度によつて、それぞれに適した温度が決定されるのであり、本件乾燥昆布の低温乾燥温度として六〇℃の温度が自明な温度であるということはできない。

(二)  本件審決理由の要点(三)の点について

本件特許明細書中の「まぶし含浸乾燥する」の微粉末をまぶした昆布の含有水分の状態は、まぶした微粉末が一度溶解される程の水分ではなく、製品とする場合に加熱乾燥を必要とするものとは考えられないものであり、特許請求の範囲の項および他二個所の「含浸乾燥」の記載についても「加熱乾燥」の工程の記載とは判断できず、本件特許明細書全文の記載からも「ひきつづき加熱して乾燥し」の工程を導きだすことはできない。また、特許請求の範囲の項およびその他の二個所に「含浸乾燥」と記載されていて、訂正希望個所である実施例には「含浸させ」とのみ記載されていることは、本件特許発明の方法が、本問題点に関するかぎり、人為的加乾熱燥を行なわず、「含浸と乾燥」とは、微粉末をまぶすという人為的操作に伴う自然現象を併記したにすぎないものであることを示すものである。以上よりして、唯一の実施例の「まぶし含浸させ」を「まぶしひきつづき加熱して含浸乾燥し」と「ひきつづき加熱乾燥する」という工程を附加する訂正は、ひいては特許請求の範囲の項における含浸乾燥にも「ひきつづき低温加熱乾燥する」という新規な技術思想を附加することに帰し、実質上特許請求の範囲の項を変更するに至るから、特許法第百二十六条第二項に照らし許されない。

第四証拠関係<省略>

理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決理由の要点が、いずれも原告ら主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決理由の要点(一)の点についての原告らの主張事実は、被告の認めて争わないところであり、この事実によれば、本件特許明細書の「発明の詳細な説明」の項中「最高180℃」なる記載(本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第十九行目)を「ダクト内最高180℃」と訂正することは、特許法第百二十六条第一項第三号の明瞭でない記載の釈明に該当すると認めることができる。

さらに、原告らは、本件審決理由の要点(二)および(三)の点については、その主張の点に判断を誤った違法がある旨主張するが、以下に説示するとおり、この主張は理由がないものというほかはない。

(一)  本件審決理由の要点(二)の点について

成立に争いのない甲第二号証(本件特許明細書)によれば、本件訂正審判により、訂正を求めた個所である「発明の詳細な説明」の項の実施例中の「炉内温度35℃内外で乾燥す。」なる記載に対応する部分は、同明細書第二頁第二行目の「・・・低温にて乾燥し」および同明細書第三頁末行目より第四頁一行目までの「・・・低温にて乾燥し」なる文言ならびに同明細書第五頁第十三行目「特許請求の範囲」の項中の「・・・低温にて乾燥し」なる文言以外には、その記載を見出すことができず、したがって、右実施例中の「炉内温度三五℃内外で乾燥す。」なる記載は、本件特許発明にかかる「乾燥昆布の加工法」の段階的加工工程についての構成要件中の一工程である「低温乾燥」の温度条件についての一実施例である「炉内温度三五℃内外」を示したものであると認定することができる。他方、同明細書中には、「低温乾燥」についての温度条件である「低温」なる概念の温度幅については、特別の説明がないから、ここにいう「低温」なる概念も、本件特許発明にかかる工程を経て処理された昆布に、混合微粉末をまぶす工程に移行する中間的乾燥処理として、技術常識上の適度の温度幅を有する「低温」なる概念と理解することができる。果たしてしからば、本件特許発明の構成要件中の一工程を構成する「低温乾燥」の温度条件についての一実施例を示した「炉内温度三五℃内外で乾燥す。」なる記載は、右「低温乾燥」なる概念に矛盾するものとは認められず、右「炉内温度三五℃内外で乾燥す。」なる記載をもって、誤記であるとすることはできない。原告は、「低温乾燥」とは、工業的に乾燥を行ないうる程度の低温度を意味し、この観点から「炉内温度三五℃」は不適当であり、「炉内温度六〇℃」が適当であることは当業者の技術常識から明らかである旨主張するが、右原告主張の技術常識は認めるに足りないのみならず、前段説示の理由に照らすと、原告の右主張は理由がないものといわざるをえない。

(二)  本件審決理由の要点(三)の点について

前掲甲第二号証によれば、本件訂正審判により、訂正を求めた個所である本件特許明細書の「発明の詳細な説明」の項の実施例中の「まぶし含浸させ」なる記載(同明細書第五頁第四行目)に対応する部分は、同明細書第二頁第三行目より第四行目までの「・・・の混合微粉末をまぶし含浸乾燥する・・・」および同明細書第四頁第二行目より第三行目までの「・・・の混合微粉末をまぶして含浸乾燥すれば」なる文言ならびに同明細書第五頁第十四行目から第十五行目までの「特許請求の範囲」の項中の「・・・の微粉末をまぶし含浸乾燥する・・・」なる文言以外には、その記載を見出すことができず、これらの記載よりすれば、「まぶし含浸させ」る工程は「乾燥昆布の加工法」の段階的加工工程についての構成要件中の一工程である「低温乾燥」に引き続いて行なわれる「混合微粉末をまぶし含浸乾燥する」工程であることが認められる。原告らは、本件特許明細書第五頁第三行目より第四行目までの「・・・の混合微粉末を、・・・・まぶし含浸させ」なる個所を、明瞭でない記載の釈明を理由として、「・・・の混合微粉末を・・・・まぶしひきつづき加熱して含浸乾燥し」と訂正することを求めるが、前認定のとおり本件特許発明の構成要件中の一工程である「混合微粉末をまぶし含浸乾燥する」工程中には、『まぶし「ひきつづき加熱して」含浸乾燥』する条件は開示されておらず、また、本件特許明細書の当該実施例自体に徴するも、本件特許発明の「低温乾燥」工程と、これに引き続いて行なわれる「混合微粉末をまぶし含浸乾燥する」工程との関連を示す個所の記載は、「翌日これを・・・・・炉内温度三五℃内外で乾燥す。」と記載された後、行を改めて『斯く処理したものを「選別し」、』と記載され、これに続いて「・・・・・の混合微粉末を、昆布四瓩に対し四〇〇瓦の割合でまぶし含浸させ」と記載されており、叙上の記載態様に徴すれば、「炉内温度三五℃内外での乾燥」工程と「混合微粉末のまぶし含浸」工程との間には、工程間の段落を示す撰別行為が介在し、したがって、「炉内温度三五℃内外での乾燥」工程は、「混合微粉末のまぶし含浸」工程へは直接継続されるものではない意味に解せられるところ、後者の「混合微粉末のまぶし含浸」工程を、「・・・・の混合微粉末を・・・・まぶしひきつづき加熱して含浸乾燥し」と訂正されるとするならば、後者の工程に「加熱」乾燥なる温度条件を附加することになり、単なる釈明以上のものである意味において、特許法第百二十六条第一項第三号にいう「明瞭でない記載の釈明」に該当するものということができない。原告は、含浸工程において加熱手段を必要とすることは自明である旨主張するが、前認定のとおり本件特許明細書全体の記載を通じて、原告主張のように解することができないから、原告の右主張は採用するに由ない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、本件審決理由の要点(一)の点についての原告らの請求は、これを認容し、本件審決理由の要点(二)および(三)の点についての原告らの請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、五事訴訟法第八十九条、第九十二条および第九十三条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅正雄 武居二郎 布井要太郎)

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