大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)31号 判決

一、原告の主張する請求の原因のうち、第一項から第三項までの事実は当事者間に争いがない。

二、そこで審決取消事由について検討すると、原告の主張する事実のうち、本願発明の特徴とする構成は高純度珪素からなる細長い保持体の指定温度を保つために、その動作点が全析出工程中その電流電圧特性曲線の下降領域にあるように操作することであること、および審決の引用刊行物のうちこの構成に関係のあるものは引用例のみであることは、当事者間に争いがない。したがつて、本件における争点は、被告の主張するように引用例の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の記載内容、特に(イ)(ロ)(ハ)の事実が本願発明と同様に保持体を指定温度に保つための動作点が電流電圧特性曲線の下降領域にあることを示しているかどうかであることになる。

まず、(イ)について

通電加熱した珪素保持体上に珪素混合ガスを用いて珪素を析出させる場合、保持体の不純物の濃度如何によつて保持体を指定温度に保つための動作点が電流電圧特性曲線の上昇領域にも下降領域にもあり得ることは、被告の認めるところである。引用例には、シリコンフイラメントを一一〇〇度Cないし一三五〇度Cに加熱し、その上に水素とシリコン化合物を用いてシリコンを析出する方法が記載されているのみであつて、シリコンフイラメントの不純物の濃度については何らの記載もない。これに対して成立に争いのない甲第八号証によれば、本願発明の場合は、比抵抗五〇〇~一〇〇〇オームcmの高純度の珪素保持体を用いることを前提とするものであつて、その高純度の故に七〇〇度Cから八〇〇度Cでその動作点はすでに電流電圧特性曲線の下降領域に入り最良の指定温度一一二五度Cではもちろん下降領域にあることが認められる。したがつて、単に指定温度が一致しているからといつてその場合直ちに引用例における動作点も本願発明の動作点と同様に全析出工程中電流電圧特性曲線の下降領域にあるものと断定することはできない。

(ロ)について

シリコンのような負の抵抗温度特性をもつて物質に通電する場合には、高温で電流が増大し、暴走するものを防ぎ、その安全性を確保するために直列に抵抗を挿入する必要があることは技術常識であるといつてよい。したがつて、引用例にかような記載があるからといつて、保持体の指定温度を保つための動作点が全析出工程中、電流電圧特性曲線の下降領域にあるということはできない。

(ハ)について

電流や電圧を制御調整して指定温度を保つ装置である以上、引用例においても本願発明と同様に可変変圧器、可変抵抗器及び電流計を直列に接続する必要のあることは当然のことであるから、引用例にこのような技術手段の記載があるからといつて、シリコンフイラメントの動作点が全析出工程中、電流電圧特性曲線の下降領域にあるとはいえない。

(ニ)について

引用例における効果の記載によつては、またこれに前記(イ)(ロ)(ハ)の技術手段をあわせ考えても、引用例の指定温度を保つための動作点が全析出工程中電流電圧特性曲線の下降領域にあると推認することはできない。

以上のとおり、被告の主張する引用例の記載は、保持体を指定温度に保つための動作点が全析出工程中、電流電圧特性曲線の下降領域にあることを示すものとはいえず、また本願発明の特徴とする構成を示唆するものともいえない。

三、したがつて、本件審決には原告の主張する違法があるからその取消を求める原告の本訴請求は正当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!