東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)87号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無)
二、本件審決は、その趣旨において、本件考案における原告主張の要件(A)は、第三引用例において回転管体の端部が平板状であるところを第一引用例または第二引用例のもののその部分の構造をもつて置きかえたものに過ぎず、かつ、原告主張の要件(編注 (一) 本件考案は、構成要件として、とくに次のものを含んでいる。
(1) 回転側管体3の端部近くに形成される鍔体4が半球状の形状を有し、鍔体4はその球面25において、カーボン環体8を介してハウジング2の先端開口部5の内底面で支受されること(以下「(A)」の要件という。
(2) フランジ管10のフランジ12の外端面13を軸方向に垂直な平坦面に形成すること(以下「(B)」の要件という。)
(3) フランジ管10には密室21と通ずる連絡口隙28、29を穿設すること(以下「(C)」の要件という。) (B)は第三引用例のその部分の構造とほぼ一致しているから、要件(A)および(B)の点について、本件考案は右各引用例に容易に実施することをうべき程度において記載されたものまたはこれに類似するものであると判断しているが、この判断はこれら引用例の認定を誤り、ひいてこれと本件考案とを比較することにより本件考案の要旨およびその作用効果の認定を誤つた違法があるといわなければならない。その理由を詳記すれば、以下のとおりである。
(一) 本件考案の説明書の「実用新案の説明」の項には、「一般に、この種の回転接手においては、回転側管体に形成された鍔体とこれを支受するために静止側管体に形成された受座面との間にはカーボン環体が介装されるのが普通である。そしてこのカーボン環体は、接触部材の砲金との摺擦によりその間にグラハイト膜が接触面の摩耗を最低限度に止めると共に、流体密効果を奏し、流体のこの接触面を通じての漏洩を阻止するものであることが知られている。ところで、従来行われていたように、回転管に形成される鍔体およびその先端部に軸方向に摺動可能に嵌着されるフランジ管の各外端部をいずれも球面状にして各対応支受面によつて支受させると、互いに傾動してもなお連結効果を有効に保持できる利益があるが、回転管が静止管に固定形成したハウジングに対して傾動すると、当初の位置で形成されたグラハイト膜面と異つた接触面で回転するから、内部の流体は著しい漏洩を来す。これに対し、本実用新案では、フランジ管10のフランジ外端面13を軸方向に垂直な平坦面に形成したから、回転管3の軸の振れが阻止され、鍔体4の球面バルブ25とカーボン環体8の凹球状接触面26は常に当初形成されたグラハイト膜面において回転接触し、グラハイト膜面の変動による漏洩が阻止されるものである。なお、鍔体4の外端接触面を球面25状とすることにより、接触面積を大きくして漏洩を可及的に防止する効果と回転管3の軸芯位置を自働的に常に定位置に設定し、移動(特に平行移動)を防止する効果が得られる。かくして、回転管3の軸芯はハウジング2に関して常に定位置に設定保持されるので、静止側管体1に取付保持されるサイフォンパイプ22も、当然に回転管3の芯に位置せしめられ、シリンダー内における前記サイフォンパイプ22の軸受部において過大な荷がかかることなく、該部の摩耗損傷が可及的に防止される。」との記載があることが認められる。これによつてみると、本件考案は、原告主張の(A)の要件に加えて(B)の要件を組み合わせることにより、回転管側鍔体4の外端面を球面25状とし、接触面積を大きくして漏洩を可及的に防止するとともに、さらに、フランジ管10のフランジ外端面13を軸方向に垂直な平坦面に形成することにより、回転側管体の軸の振れを阻止し、鍔体4の球面バルブ25とカーボン環体8の凹球状接触面26が常に当初形成されたグラハイト膜面において回転接触するようにし、グラハイト膜面の変動による漏洩を防止することにより、流体の漏洩防止をより完全にすると同時に、サイフォンパイプ22の軸受部の摩耗損傷をも可及的に防止するという作用効果を奏することを認めることができる。この認定に反する証拠はない。
(二) もつとも、第一引用例の考案においても、乾燥シリンダーにおける蒸気管自働継手において、乾燥シリンダー1の円筒軸2の端面から、中部に円筒軸2に球面5側を向わせた半球状鍔を設け、その半球面5が密着環10の凹球面と気密的に結合するようにし、これにより蒸気の漏洩を防止するようにした構造を採用していることが認められる。しかしながら、同号証によると、第一引用例は、原告主張の(B)の要件およびこれによる回転管の軸の振れの防止等の作用効果については、何ら示唆するところのないことが明らかである。
(三) また、第二引用例である米国特許第一、九三四、七一七号の明細書には、蒸気接手において、回転側管体の端部近くにおいて原告主張の(A)の要件と同様な構造を設け、これにより、接手部材が角度をもつて、また、相対的に横方向に移動しうるようにした構造が開示されてはいるが、原告主張の(B)の要件およびその作用効果またはこれに類似したものは何ら開示されておらず、いわんや(A)の要件に加えるに(B)の要件をもつてしたことによる作用効果については全く触れるところがないことが認められる。
(四) さらに、第三引用例には、廻転自在接手において、円形金属製座片11(甲第六号証明細書添付の図面をも参酌すると、その外端面は軸方向に垂直な平坦面をなしているこが認められる。)が、接子部体1に接触する填物輪12に、波形内に置かれた捲成針金弾機10’により補強される金属管(波形管)10の弾力により、強く圧着される構造が開示されていることを認めることができる。この構成を先に判示した本件考案の要件と対比してみると、右金属座片は本件考案におけるフランジ12、填物輪は本件考案におけるカーボン環体14に一見対比して考えられないものでもない。しかし、他面、右甲第六号証によると、第三引用例においては、円形金属座片11および填物輪12の作用効果については、単に金属管10の弾力により接子部体1に圧着され、接手の填物を緊密ならしめるということ以外には、格別のべられておらず、本件考案における(B)の要件の作用効果を開示するところは全くないのみならず、第三引用例の特許発明は原告主張の要件(A)を備えておらず、したがつて(B)の要件を(A)の要件を加えたことにより両々相まつて奏される、既に認定した作用効果に至つては、全くこれを示唆するところがないことを認めることができ、この認定に反する証拠はない。
(五) そうすると、本件考案において、(A)の要件に加えて(B)の要件を組み合わせることにより先に判示したとおりの作用効果を生ずるようにした構造は、他に格別の反証のない本件にあつては、叙上の各引用例に容易に実施しうる程度に記載されたものまたはこれに類似するものということはできないものと認めるのが相当である。
(六) 被告は、回転側管体は乾燥機の乾燥シリンダーその他蒸気を導入して加熱されるロール等の一端より突設したものであり、重いシリンダー等はその両側において軸承で振れないように軸装してあるから、原告の傾動防止という作用効果の主張は事実に反することを前提とした主張であると反論する。しかし、いかなる構造、場合にあつても、回転側管体に全く回動ないし傾動がないとは保障しえないところであることは経験上明らかであるといえるから、本件考案が叙上(B)の要件を組み合わせることにより前述したとおりの作用効果を奏するものと認むべきである以上、原告の主張をもつて事実に反することを前提とした主張であるということはできない。
(七) なお、被告は、原告の要件の組み合わせによる作用効果の主張を本訴においてすることは許されないと主張するが、既述のとおり本件審決が本件考案は登録要件を欠き無効であると判断している以上、説明書に記載されている本件考案の要件および作用効果(たとえそれが各要件の組み合わせによる作用効果に属するものであるとしても)を主張して審決の判断を争うことは、もとより、審判段階において審理の対象とされなかつた事実を新しく主張するものとはいえず、被告の叙上主張は到底採用の限りではない。
(八) そうすると、本件審決は、その他の点について判断するまでもなく違法で取消を免れないものというべきである。
(むすび)
三、以上説述したとおりであるから、本件審決に違法があるとして、その取消を求める原告の本訴請求は理由がある。よつて、これを認容する。
(服部高顕 石沢健 奈良次郎)