東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)97号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取消すべき事由の有無)
二、原告は、その主張の二点において、本件審決に認定判断を誤つた違法がある旨主張するが、いずれも理由がない。これを詳説すれば、次のとおりである。
(一) 引用例に、紙帯の一方の側を湿潤させ、これを乾燥ロールに導き、ゴムロールで圧着して表面を平滑にする方法の記載があることは、原告の認めて争わないところであり、<書証>を総合検討すると、引用例記載の方法は、両面平滑な紙の製造法に関するものであり、右方法においても、紙帯(本願発明におけるウエブ材料)の一面を湿潤させて、これを乾燥ロール(本願発明における仕上げロール)とゴムロール(本願発明における加圧ロール)との間で圧着して、表面を平滑にし、紙の艶出しを行なうものであるが、紙の圧着を行なう乾燥ロールとゴムロールとの間において、本願発明にいわゆる巾の狭いニップを形成しているものにほかならないこと、引用例記載の方法は、紙の両面を平滑にするため、右の方法により一方の側を平滑にしたのち、さらに他の側を平滑にするため、これを湿潤する必要があるが、その際、すでに平滑にされた一方の側の光沢を減じないようにするため、紙帯をいつたん完全に乾燥することを要するとして、前記ニップを出た紙帯を乾燥ロールに沿わせて移行させたうえ、さらに別の乾燥ロールに送つて乾燥するものであることを認めることができ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
右認定の事実によると、引用例記載の方法においても、本願発明におけると同様に、紙帯(ウエブ材料)の一方の面の艶出し仕上げのための加圧と乾燥の工程は、乾燥ロールとゴムロールとの間に形成される巾の狭いニップの間で行なわれるものであることが明らかであり、単に引用例記載の方法にあつては、紙帯がニップを通過し終つたのちも、なお乾燥ロールに沿わせて移行させている点で差異があるにすぎないものである。
ところで、<書証>によれば、紙の表面を平滑にし艶出しするためめの温度条件は、水または用いられるサイズ剤の沸点以上の温度とするのが通常であり、ニップ内の圧力条件は、ウエブ材料の繊維の粉砕点以下とすべきものであつて、前掲本願発明の要旨中、「仕上げ表面と接触しているウエブ材料の表面を乾燥しかつ仕上げるに十分な温度及び圧力条件」も、右の温度および圧力の範囲をこえるものではなく、引用例におけるニップ間の温度および圧力も同様のものと認めることができる。他に右認定を動かすべき証拠はない。そして、前掲甲第一号証の一、就中その添附図面第二図によれば、本願発明において、ウエブ材料をニップ通過後「直ちに」仕上げロール表面から離すというのは、必ずしもニップを通過し終つた瞬間に仕上げロールから引離すことを意味するものではなく、ウエブ材料が多少は仕上げロールに沿つて走行することを許容する概念であることを認めることができる。他方、引用例記載の方法において、ニップを出た紙帯をなお乾燥ロールに沿わせて移行させたうえ、さに他の乾燥ロールに送つて完全に乾燥させるのは、紙帯の他の面をさらに平滑にするための必要に出たものであることは、前記認定の事実から明らかである。
以上の認定事実を総合検討すれば、引用例記載の方法も本願発明のものも、ニップ間の温度および圧力条件の点で格別の差異はないものというべきであるから、引用例記載の方法においても、紙帯の一方の面のみを平滑にする工程を取り出してみるかぎり、その艶出し仕上げのための技術的構成の点において、本願発明と本質的な差異はないものというべく、本願発明のように、仕上げロール表面と接触しているウエブ材料の表面を乾燥しかつ仕上げるに十分な程度にニップ間の温度および圧力条件を維持することにより、ニップを通過したウエブ材料を仕上げロール表面から前記認定の意味で「直ちに」離すようにする程度のことは、ニップ間において加圧と乾燥とを行なう引用例記載の方法が先行技術として存在するかぎり、当業者にとつて格別困難なことではないと認めるのが相当である。他に、この認定を左右すべき証拠は本件にあらわれていない。
したがつて、本願発明は、引用例記載のものに比し、ニップを通過したウエブ材料を仕上げロール表面から「直ちに」引き離す点において、本質的な差異があるとする原告の主張は、理由がないものというべく、本願発明をもつて、引用例記載の方法から容易に推考しうるとした本件審決の認定判断は正当であるといわざるをえない。
(二) 前項説示のとおり、本願発明も引用例記載の方法もその技術的構成において本質的な差異のないものである以上、本願発明において、ニップ通過後にウエブ材料を仕上げロール表面から「直ちに」離すようにしたことにより奏すべき特段の効果として原告の主張するところは、いずれも、引用例記載の方法に比し、格別顕著なものということはできない。すなわち、本願発明において、仕上げロールとウエブ材料との接触時間が短かくてすむようになるため、仕上げロールの回転速度を高め、高速生産を可能とし、また、仕上げロールの直径を小さくし、装置全体をコンパクトにし、その加熱に要する経費を少なくしうるようなことは、いずれも、前記のとおり、引用例の記載にもとづいて容易に推考しうべき構成に由来し、常識上、予測可能の範囲に属することがらであるばかりでなく、仕上げロールの大きさや回転速度をどの程度のものとするかは、当業者が実施に際し、適宜選択決定すべき条件にすぎないものである。また、原告の主張によつても、本願発明の方法による製品の艶出し効果は、従来法に比し、遜色がないというにとどまり、特段に優れたものであるというわけでもないのであるから、紙のウエブ材料表面に艶出し仕上げを施こす方法としての本願発明に、見るべき特段の効果ありとすべき筋合いのものはないといわざるをえない。したがつて、本件審決が、本願発明の奏すべき特段の作用効果を看過誤認し、その進歩性の判断を誤つたとする原告の主張もまた、理由のないものである。
(むすび)
三、以上説示のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由のないものとして棄却する。
(服部高顕 石沢健 滝川叡一)