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東京高等裁判所 昭和44年(う)1484号 判決 1970年5月13日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用中、証人九鬼弥一、同大谷寛次に支給した分は被告人中嶋與の負担とし、証人小川譲に支給した分は被告人能勢剛の負担とし、証人山本政治郎、同佐瀬フサに支給した分は被告人鈴木勝の負担とし、その余はすべて被告人市原正利、同鈴木勝両名の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人中嶋與の弁護人新垣進作成の控訴趣意書、被告人能勢剛の弁護人関之、同子安良平作成の各控訴趣意書、被告人椎名登の弁護人石橋信、同伊藤博文作成の各控訴趣意書、被告人市原正利、同鈴木勝の弁護人関之作成の控訴趣意書、同補充書、同弁護人子安良平作成の控訴趣意書、被告人鈴木勝の弁護人植松正作成の控訴趣意補充書にそれぞれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用し、これらに対し当裁判所は、次のとおり判断する。

被告人中嶋與の弁護人新垣進の控訴趣意第一、二、三点について。所論は、原判決は被告人中嶋が受領した原判示第五の現金二〇万円の趣旨を単に選挙運動の報酬とのみ認定しているが、実際はそのほかに選挙運動の実費をも含んでいたのであるから、原判決には審理不尽による理由不備、理由のくいちがいまたは事実誤認があり、なお、実費を包含していたにかかわらず同被告人から二〇万円全額の追徴をした点において法令適用の誤があると主張する。

よつて案ずるに、原判決が被告人中嶋與の供与を受けた現金二〇万円の趣旨につき、所論のように単に選挙運動の報酬と認定したのではなく、選挙運動の報酬等と認定したものであることは、原判決摘示の罪となるべき事実第五、第一の判文上明らかであり、そしてその報酬等というのは、報酬のほかに実費をも含むという趣旨であることは、原判決挙示の関係各証拠上明らかであるから、原判決には所論のような審理不尽、理由不備、理由のくいちがい、事実誤認のかどはない。なお、原判決挙示の関係各証拠によれば、本件現金二〇万円は、その報酬と費用との割合が明確にされず両者を区別することなく包括して供与されたものと認められるのであるが、かかる場合はその全額が追徴の対象となると解すべきである(最高裁判所昭和二九年七月一四日決定・集八巻七号一、一一四頁参照)から、同被告人からその供与を受けた金二〇万円全額の追徴をした点に、所論のような法令適用の誤はない。それゆえ、各論旨は理由がない。被告人能勢剛の弁護人関之、同子安良平の各控訴趣意について。

各所論は、原判示第三の事実につき、被告人能勢剛が加瀬俊雄とともに同判示日時桜井熊雄方を訪問したことはあるが、加瀬が桜井に本件金員を供与したことは知らず、共謀の事実はないから、能勢被告人は無罪である旨、なお、関弁護人は、仮に能勢被告人が加瀬持参の二〇万を認識していたとしても、共同正犯ではなく、幇助に過ぎない旨、原判決の事実誤認を主張する。

よつて案ずるに、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば(もつとも、そのうち、桜井熊雄の検察官に対する昭和三七年九月五日付供述調書謄本とあるのは、同調書末尾添付の図面一葉を省略したため抄本とすべきところを謄本と誤記したものであると認められるが、その図面部分を除外しても)、能勢被告人の共謀の点をも含めて原判示第三の事実をすべて肯認するに足り、記録を調査し、当審における事実取調の結果に徴しても、右認定が誤であるとは思われない。各所論は、原判決挙示の関係各証拠のうち、一部検察官調書の証拠能力ないし証明力を争うが、記録に徴すると、原判決がこれらの検察官調書に証拠能力および証明力ありとしたことに誤はないものと認められる。それゆえ、各論旨は理由がない。

被告人椎名登の弁護人石橋信の控訴趣意第一点、同弁護人伊藤博文の控訴趣意第一点について。

各所論は、原判示第六の一の事実につき、その金員受領の趣旨を争い、同二の事実につき、その飲食は本件選挙とは無関係であり、かつ、それは椎名被告人が饗応したのではなく各人が会費を支出したものである旨、いずれも原判決の事実誤認を主張する。

よつて案ずるに、原判示第六の一、二の各事実は、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば(もつとも、第六の一の関係各証拠のうち、桜井熊雄の検察官に対する昭和三七年九月四日付供述調書謄本とあるのは、同調書末尾添付の図面二葉を省略したため抄本とすべきところを謄本と誤記したものであり、古川歌子の検察官に対する供述調書謄本とあるのは、同調書末尾添付の図面一葉を省略したため抄本とすべきところを謄本と誤記したものであると認められるが、右各図面部分を除外しても)、これを肯認するに足り、記録を調査し、当審における事実取調の結果に徴しても、右認定が誤であるとは思われない。各所論は、原判決挙示の関係各証拠のうち、一部検察官調書の証拠能力ないし証明力を争うが、記録に徴すると、原判決がこれら検察官調書につき証拠能力および証明力ありとしたことに誤はないものと認められる。それゆ、え各論旨は理由がない。被告人市原正利、同鈴木勝の弁護人関之の控訴趣意(補充控訴趣意をも含む。)、同子安良平の控訴趣意、被告人鈴木勝の弁護人植松正の補充控訴趣意について。

各所論は、原判示第七の事実につき、被告人市原正利、同鈴木勝が現金一万円ずつの供与を受けたことはないから、右被告人両名は無罪である旨、原判決の事実誤認を主張する。

よつて案ずるに、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば(もつとも、そのうち、桜井熊雄の検察官に対する昭和三七年九月四日付供述調書謄本とあるのは、同調書末尾添付の図面二葉を省略したため抄本とすべきところを謄本と誤記したものであると認められるが、右各図面部分を除外しても、また、椎名登の検察官に対する同年八月三一日付供述調書の二枚目は三枚目に、三枚目は二枚目に綴るべきところを誤つて綴つてあるものと認められるが、同供述調書を除外しても)、右被告人両名が昭和三七年四月一二日ころ八鶴館において桜井熊雄から現金一万円ずつの供与を受けたことを含めて、原判示第七の事実をすべて肯認するに足り、記録を調査し、当審における事実取調の結果に徴しても、右認定が誤であるとは思われない。各弁護人は、被告人市原および同鈴木の両名は、服和三七年四月一二日の八鶴館における桜井熊雄の祝賀会に出席しておらず、従つてまた同館二階の会合にも出ておらず、そこで一万円ずつの現金を受け取るわけがない、右被告人両名ともアリバイ証明がある、右被告人両名は、同年五月一二日九十九里町と九十九里消防団が主催で行なつた桜井熊雄の祝賀会に出席し、それぞれ祝辞を述べた事実があり、同じ桜井熊雄の祝賀会に二度も出る筈がなく、また、右両被告人のような地方政界の有力者が僅か一万円の供与を受けたというのも不自然である旨主張し、とくに原判決挙示の関係各証拠のうち、同年四月一二日の桜井熊雄の祝賀会の際に、八鶴館で右被告人両名を見たとする十数名の者の検察官に対する供述調書の証明力を争い、その根拠として、その供述にあいまいなものがあり、右被告人両名の着席場所の指摘が区々であり、また、その供述者に記憶力の減弱した老人が多いこと、同祝賀会出席者五十数名中大部分の者が右被告人両名をその席において見かけなかつたと供述しており、とりわけ、右祝賀会開催の事務的責任者であつた高橋清男、岡田政善が右被告人両名には案内状を送らず、同被告人らは同会に出席もしなかつたと供述していることなどをあげ、さらに、裁判官の証人桜井熊雄に対する尋問調書は、同人の検察官に対する自白的供述直後に検察官立会のもとに尋問作成されたもので、証明力がないと主張する。

よつて検討するに、弁護人らの指摘の各検察官調書、裁判官の証人尋問調書は、いずれも本件犯行の日時とされているときから四ケ月以上経過した後の取調に基き作成されたものである関係上、その供述に正確を期し得ない点の存することは避け難いと認められるが、記録に徴すると、右各調書のうち、少なくとも右被告人両名が昭和三七年四月一二日ころ原判示八鶴館二館の一室において、桜井熊雄から現金一万円ずつの供与を受けたという大綱の事実に副う供述記載については、証拠能力および証明力があるものと認められる。右金員授受が行なわれたと同じ日に八鶴館階下大広間で催された桜井熊雄の祝賀会においては、開始後間もなく酒宴となつて坐が乱れ、出席者に席を移動する者が多くなつたことが関係各証拠により認められ、またその取調が行なわれたのが前記のとおりその日から四ケ月以上経過した後であることなどの事情に徴すると、同祝賀会の状況に関する出席者の各供述に所論のような不一致の諸点が存するからといつて、同日同館二階の一室において右のとおり桜井熊雄と右被告人両名間において金員の授受が行なわれたという事実に副う前記各供述調書の証明力を直ちに否定することはできない。また、被告人市原に関するアリバイ証明は、それが提出された経緯などに照らし、被告人鈴木に関するアリバイ証明は、同被告人がその際いたとされる場所と八鶴館との距離関係などに照らし、いずれも原判示事実認定を覆すに足るものとは認められない。なお、たとえ所論のように右被告人両名が昭和三七年五月一二日の桜井熊雄の祝賀会に出席して祝辞を述べた事実があり、また、地方政界の有力者であつたとしても、右被告人両名が同年四月一二日ころ八鶴館二階の一室において桜井熊雄から原判示のとおりの趣旨のもとに現金一万円ずつの供与を受けたという事実認定を覆すに足る事情とはならない。

それゆえ、各論旨は理由がない。

被告人中嶋與の弁護人新垣進の控訴趣意第四点、被告人椎名登の弁護人石橋信の控訴趣意第二点、同弁護人伊藤博文の控訴趣意第二点について。

各所論は、いずれも原判決の量刑不当を主張するものである。

しかし、本件各犯行の罪質、態様その他諸般の情状を考慮すると、原判決の被告人中嶋與、同椎名登に対する各量刑は相当であると認められる。

それゆえ、各論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却し、当審における訴訟費用については同法第一八一条第一項本文を適用し主文第二項のとおり負担させることとし、主文のとおり判決する。

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