東京高等裁判所 昭和44年(う)1759号 判決 1970年10月29日
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金三万円に処する。
右罰金を完納できないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は検察官高橋正八名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
所論の要旨は、原判決が所得税法二四二条八号の罪が成立するためには、同法二三四条一項による質問等に合理的な必要性が認められるうえに、その不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事情がなければならないとし、本件にはその特段の事情が認められないことを理由に同罪の成立を否定し、従つて同法条の適用をしなかつたことは法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであると主張する。
先づ、記録により認められる事実の大要は、東京国税局荒川税務署所得税第二課所得税第二係長大蔵事務官友井淳一、同第二係勤務大蔵事務官森啓の両名が、被告人に対する昭和四〇年分所得税確定申告調査のため、被告人およびその長男広田真一に対し、右調査に必要と認めた質問、帳簿書類の検査をしようとした際、被告人は右真一と共に右友井らの質問に対し答弁せず、かつ検査を拒んだ、というものであり、原判決も右事実は証拠上肯認しうるとしているのである。
原判決は、右のような質問ないし検査の求めに対する不答弁ないし拒否が、所得税法二四二条八号の罪を構成するためには、さらに厳格な要件が必要であるとして、その質問等について合理的な必要性が認められるばかりでなく、その不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事情が認められる場合にのみ成立するものというべきであるとし、本件の場合そのような特段の事情が認められないから、所得税法二四二条八号の罪を構成しないとして無罪を言い渡したものである。
所得税法二三四条一項は、収税官吏は所得税に関する調査について必要があるときは、納税義務者等に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる、と定め、同法二四二条八号は、納税義務者が右収税官吏の質問に対し答弁をなさず、帳簿書類その他の物件の検査を拒み妨げ又は忌避したとき同条達反罪の成立することを規定している。原判決は、まづ右のような質問ないし検査の求めに対する不答弁ないし拒否が同法二四二条八号の罪を構成するためには、さらに厳格な要件を必要とするとしているのである。
もちろん、同法二三四条一項の収税官吏の質問、検査は、所得税の調査に必要なものであることを要し、適正公平な課税を実現するためにその必要性が合理的に是認される場合でなければならないのであつて、収税官吏の個人的恣意は許されない。またその質問検査が、時と場所と方法において納税義務者等の権益を不当に侵犯したり、侵犯するおそれある不当なものであつてはならない。そのように質問、検査要求が不当である場合を含めて、納税義務者等のこれに対する不答弁ないし拒否が社会通念上やむをえないものとして是認されるような場合、右違反罪の成立を否定すべきことは言うまでもない。原判決は法律の定める犯罪の構成要件以上にさらに厳格な要件を必要とし、それでなければ法二四二条八号の規定は憲法三一条のもとに有効に成立しない、としているのであるが、同法条を前叙の如く正解する限り憲法の法条に背反しいことは、数次にわたる当東京高等裁判所の判決例の明らかにするところである、(昭和四三年五月二四日言渡、昭和四一年(う)第一〇八六号事件判決、昭和四三年八月二三日言渡、昭和四一年(う)第九五九号事件判決)。
原判決は、同法二四二条八号が憲法に違反しないために必要な要件として「その不答弁ないし検査拒否を処罰対象とすることが不合理といえないような特段の事情」の存在をあげている。その「特段の事情」とはどのようなものであるか、具体的にこれを明示していないので、直ちにこれを詳かにしえないのであるが、原判決は、本件事案においてはその特段の事情が存在しないとして無罪を言渡しているので、以下本件の具体的事実関係を検討解明しつつ、原判決の当否を判断しなければならない。
本件公訴の対象となつた事実は、昭和四一年九月一二日午前一〇時五〇分頃から同一一時三五分頃まで、被告人方工場入口附近において、前記友井、森両事務官の質問、検査要求に対し、被告人らが答弁せず、またはこれを拒否したというものであるが、これはその時が初めてではないのである。原判決も認定するとおり、それより以前同年八月一八日と同月二三日の二回にわたつて森事務官が単独で、同年九月七日には友井、森の両事務官が帯同して、同じ目的をもつて調査に赴いているのであつて、本件は、荒川税務署としては四回目の調査である。いずれも被告人らとの押問答に終始して調査の目的に遂げることはできなかつたのである。
被告人の昭和四〇年分確定申告について、荒川税務署が事後調査の必要ありと認定した理由は、(イ)前年分の確定申告と対比して所得金額が約九一%に減少していること、(ロ)前年には被告人の長男真一が事業専従者になつていたのが、当年ははずされていること、(ハ)家族が九名で、それによつて推測される生活費との対比から、申告所得金額が過少とみられること、(ニ)家族の住居が二ケ所に分れていること、(ホ)外観調査による事業規模や生活状況からみて申告所得金額が過少と疑われること等の諸点を綜合したものであることは記録上明らかである。
原判決は右(イ)ないし(ホ)の諸点を綜合して過少申告の疑いを持つたことが合理的であるとしても、それだけの事由で、刑罰の威嚇のもとに、包括的に帳簿書類一切を見せることを要求し、包括的に得意先、仕入先全部の住所氏名を告げることを要求し、さらに工場内を見せることを求めることが合理的に許されるものとは到底いい難く、税務署の係官としては、すくなくとも、やはり(イ)ないし(ホ)の諸点を述べて、これに対する被告人の応答を聞くという方法を選ぶべきであり、そのような方法をとれば、その過程で、いわゆる刑罰の背景のもとに、刑罰を警告したうえで、特定の帳簿等の呈示や、特定の得意先等の告知を求めることが、あえて相当性をもつものとして許されるような特段の事情が生れることもありえないわけではない。それをしないで、ただ調査の必要があるからというだけで、その理由は被告人から再三きかれても、一切意識的にこれを説明していない。このような状況では、被告人の所為を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事情が認められない、と判断している。
そこで前後四回を通じての、友井、森両事務官の調査要求と、これに対する被告人とその長男真一の応答の内容を記録に基づいて摘録すれば、
(一) 八月一八日森事務官が「所得税の調査にきた。帳簿など、どうなつているか。」と質問したのに対し、被告人は「このような経済状態では食べる方が先だから、記帳はしていない。」と答えたので同事務官が「記帳していなくては仕方がないので、工場の中でも見せてくれ。」といい、一、二歩工場の中へ入ろうとしたところで、中から長男真一が出てきて、これを拒んだので同事務官は帳簿がないというから「請求書、納品書、領収書など、関係書類を見せてくれ。」と要求すると、真一は、「自主申告をしてある。何が疑問があるか。」というので、同時務官が、「確定申告は出されているが、その申告がどういうふうに計算されたか、収支計算を検討したい。」と求めると、真一は、「出鱈目ではない。一応は計算した。」と答えたので、同事務官は、「出鱈目でないのなら、帳簿などあるだろう。それを見せてくれ。」「現在ある分で結構だから関係の書類など見せてくれ。」と要求すると、真一は、「現在の税法では専従者控除が一ケ月一万円程度だ。扶養控除にしても一ケ月じゃ低すぎる。生活できない。だから税法は憲法違反だ。自主申告をして納税もすんでいる。納税義務は完了している。調査される理由がない。」と答えた。
(二) 八月二三日第二回目は、森事務官が「収支計算やその関係書類を呈示してくれ。」と前回同様の求めをしたのに対し、被告人は、「自主申告をしている。それを第一に考えてほしい。自分達が生活した残りを計算して所得金額を出し、それを申告したのだ。税法と異る点があるかも知れないが、吾々が正しいと思うところを申告した。だから収支計算はない。その外の書類もない。」と答えた。森事務官は八月一八日の第一回目の時「売上げについてはほぼ記録がある。」ときいていたし、経費について資料がない分があつても、その点はお互に話合つて同業者なども調べて計算できるのではないか、という趣旨の説明をすると、真一は、「税法は憲法違反だ。違法な税法による調査はさせない。」と言い、同事務官が所得税法二三四条の質問検査権に言及すると、同人は「そんなことは始めからわかつている。罰せられても戦わねば自分達の生活は守つてゆけない。やむを得ない。」と言つた。
(三) 九月七日および同月一二日の両日は友井、森両事務官が前同様の調査に赴き主として友井事務官より「工場の中を見せてくれ。売上げ仕入等に関する記録を見せてくれ。」と要求したところ、被告人および真一よりその根拠をきかれたので、主として友井事務官が、所得税法二三四条の質問検査権に基づくものであると説明すると、被告人らは、「それではわからない。特別の根拠を示せ。」と要求し、友井事務官が「所得税法上の解釈として、必要があれば調査ができるのだ。」と答え、さらに被告人らは、「必要があるといつても総体的な必要があるというんでは駄目だ。何故調査されるのか。どこが悪いのか。」と質問し、同事務官は「課税の公平を期するため必要と認めた場合は調査ができるのだ。」と答え、押問答を繰り返えし、
(四) 右押問答に前後して、被告人らは「どこどこの取引においてどの売上が漏れているから、それに関する書類を示せ、というように具体的に個々の取引について不備な点を指摘して調査を求めるのでなければこれに応じられない。」と言い、同事務官は、「確定申告には所得金額と扶養家族とが書いてあるだけで、どこどこの売上げがいくらというようなことは書いてないから、それを具体的に指摘しろといわれても帳簿書類など見せてもらわない限りできない。」と答え押問答を繰り返えし、
(五) 九月七日前記押問答の後友井事務官より「得意先、仕入先を言つてくれ」と要求し、最後に九月一二日同事務官は、確認のため所得税法上の制裁のあることを告げて改めて、「帳簿書類を見せてくれ。」「得意先、仕入先、外注先の住所氏名を言つてくれ。」と調査要求を繰り返した。
以上前後四回にわたる友井、森両事務官の検査要求と、これに対する被告人らの応答の内容を仔細に検討すると、
(一) 友井、森両事務官が、前記(イ)ないし(ホ)の諸事由についてその理由を説明、開示しなかつたことは明らかである。そして被告人らより「調査の根拠は何か」と問われ、所得税法二三四条の法的根拠を示すにとどまり、「税務署として必要あると認める以上調査はできるのだ。」として、その具体的必要性についての説明をしなかつた事実はこれを否定しえない。
(二) しかしながら、九月七日と一二日に繰り返えされた押問答の内容は専ら被告人らが「どこどこの売上げが漏れているから、それに関する書類を示せ、というように、個々の取引に特定して調査を求めるのでなければこれに応じられない、」とするのに対し、両事務官は、「確定申告にはそのような個々の売上げがいくらということは書いてないから、それを指摘しろと言われても、帳簿書類など見せてもらわない限りできない。」としてこれを拒んだのである。この点について被告人自身検察官の取調べに対し、「どの家、どの取引かわからないから調べさせてくれというふうに、せいぜい一つか二つの疑問点をあげて調べるのなら、これに応ずるつもりだつたが、全面的調査には応ずる意思はなかつた。」趣旨の供述をし、右供述の内容は当公判廷においても必ずしもこれを否定しないのである。すなわち被告人らの主張は「個々の売上げ個々の取引に特定して確定申告の不備を指摘し、これに関する特定の書類などの調査要求には応ずるが、一般的包括的な調査要求には応じられない。」としたものである。被告人らのこの主張は九月七日と一二日の両日にわたり繰り返えされているが、この主張は前記(イ)ないし(ホ)の諸事由についての理由を開示せよという主張でないことは自ら明らかである。原判決が「被告人らから再三きかれても意識的に一切答えなかつた。」と判示しているのが、この点についてのことならば、それは事実の誤認である。
原判決は、友井事務官等が前記(イ)ないし(ホ)の諸事由についてその理由を述べてこれに対する被告人の応答をきくという方法を選べば、その過程で特定の帳簿、特定の得意先についての調査を求めることも相当性をもつようになつたかも知れない旨判断している。
友井事務官らが「調査の根拠」をきかれ、法的根拠を説明するだけで、「必要があると認めれば、調査ができるのだ。」として、その具体的必要性について説明しなかつた点において、行政調査に臨む係官の態度として、いささかかたくなにすぎたとの非難は免れえないかも知れない。
しかしながら被告人らは「税法は憲法違反である」と主張して「違法な税法に基づく調査を拒否する」旨を明らかにし、「これを拒否することにより刑事処罰を受けても生活を守るためには戦わねばならぬ。」といい、また「生活の残りを計算して所得金額を申告した。それは税法と異るかも知れないが、それが正しいと思う。そのような自主申告により既に納税義務を果しているのだから、調査される必要がない。」と主張している。すなわち被告人らは税法を憲法違反であると主張し、確定申告の事後調査そのものを根本的に否定し、これを拒否しているのである。そして、これを拒否することにより刑罰に処せられても戦わねばならぬとしているのである。これが被告人らの本件調査拒否の基本的考え方、基本的態度であつたと認められるのである。調査に当る収税官吏が、事後調査の必要性について、これを説明、開示することが調査を要求する上に必要であり、少なくとも、これを説明、開示することが調査を円滑に進めるために適切・妥当であると判断される場合には、その途を選ぶべきであることは言うまでもないが、本件の場合、被告人らは前記の態度を固執して全面的に調査を拒否しているのであつて、右の説明、開示を必要とする雰囲気に至らなかつたことは前記摘出の両事務官と被告人らとの応答顛末を仔細に検討すれば自ら明らかである。「調査の根拠はなにか」「どこが悪いのか」と問われ、友井事務官が法的根拠を示すだけで「必要があると認めれば調査できるのだ。」とかたくなな態度に終始したことを、あながち強く責め咎めることはできない。前記(イ)ないし(ホ)の諸事由のうち、長男真一が事業専従者から外されたことや、被告人方の家族構成、その住所、世帯の関係などは、被告人らが調査に応ずる態度を示し、調査がある程度進渉した段階において必要に応じこの点について質問回答のなさるべき事柄に属し、本件調査を必要と判断した一事由として調査要求に先立つてこれを開示すべき事由とも解されない。前年度に比較して所得金額が九一パーセントに減少したことや、外観調査による事業規模や生活状態からみて過少申告と疑われた事由のごとき、被告人らが基本的に本件調査を拒否する態度をとり、その意思を明らかにしている場合、これを開示説明してみたところで、さらにその反撥を招き事態を紛糾に陥れるにすぎないこと明瞭であり、これを告げることにより、調査を円滑に進めるものでなかつたことも明らかである。また、被告人らよりも「調査の根拠は何か」「総体的な必要があるというんでは駄目だ。どこが悪いのか」という質問がなされ、「個々の取引について確定申告上の不備欠陥を指摘」するよう要求が繰り返えされたため、両事務官らは確定申告についてそのような個々的な指摘をなし得ないことを告げ、荒川税務署として被告人の昭和四〇年分確定申告について事後調査を必要と判断した事由については、未だこれを説明、開示する必要を認めなかつたもので、右判断は特に正鵠を失したものとは認められない。右事由を告げなかつたことは被告人らの本件検査拒否を正当化するものではない。
また、原判決は過少申告の疑いをもつたことが合理的であるとしても、それだけの理由で、刑罰の威嚇のもとに、包括的に帳簿書類の一切を見せることを要求し、包括的に得意先、仕入先全部の住所氏名を告げることを要求しさらに工場内を見せることを求めることが合理的に許されるものとは到底いい難いとしている。
しかしながら、先に摘出した、友井、森両事務官の調査要求の内容を検討すれば、両事務官らは、確定申告の資料となつた一切の帳簿書類、取引先等の住所氏名全部を網羅して調査を求めたものではない。被告人の場合帳簿がないというから請求書等の関係書類、それもあるものだけでいいからと断つてその呈示を求めているのである。帳簿書類の調査を拒否するため、やむをえず取引先等の住所氏名を告げるよう求め、工場の中を見せてくれと要求したものであることは、前記摘出の友井、森両事務官の調査要求と、これに対する被告人らの応答拒否の状況を仔細に検討すれば自ら明らかである。また、両事務官が被告人の要求するように、個々の取引を特定し、これに関する関係書類に限局して調査要求をなしえないことも、右応答の内容により明らかであり、両事務官の調査要求が、概括的なものに終始したこともやむをえない。両事務官の調査要求が合理的に許されるものとは到底いい難い、とする原判決は首肯し得ない。
被告人は、検察官の取調べに当つて、検察官より「正しい所得を申告しているのなら、それを計算した帳簿や伝票を見せても差支えないのではないか。」と質問され、「伝票なんか見せたりすると、私共の気のつかないつけ落ちがあつたり、向うはこつちの欠点を調べ出すのが上手だから、痛いところをつかれ税金が二倍にも三倍にもなる。」と答えているのである。これは、畢竟被告人らの税務当局に対する不信を示すものに外ならないが、被告人らが、税務当局に対しこのような不信を抱くに至つた原因には根深いものがあり、一概に被告人らのみを責めることのできないこと、記録を通しこれを認めうるのである。しかし本件に関する限り、被告人らは税法が憲法違反である、と前提し刑事処罰に甘んじても法律上の検査制度を否定し、これを拒否すべきことを明らかにしているのであつて、それは端的に現行税制度に対する挑戦を意味する。もちろん、現行制度に対する自由なる批判は、国民の権利として当然許容されなければならないが、被告人らの本件検査拒否は明らかに法秩序そのものを無視したものとして、法的制裁を免れないものである。
原判決は、被告人らの本件検査拒否は、これを処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事情が存在しないとしているのであるが、その判断の前提とした事実関係の認定、事案の真相の把握に著しく正鵠を失したもののあること既に指摘したとおりである。友井、森両事務官の本件検査要求は所得税法二三四条一項に照し、特に不当違法なものとは認められず、被告人らの検査拒否を正当視すべき何らの事由も見出すことができず、殊に本件においては、原判決のいうこれを処罰の対象としても決して不合理とはいえない特段の事情に相当するかと思われる事情さえこれを認めうるのである。被告人らの所為につき同法二四二条八号の罪の成立を否定した原判決は事実を誤認し法令の解釈適用を誤つた違法があり、判決に影響を及ぼすこと明かであるから破棄を免れない。所論は理由がある。
本件控訴は右説示のとおりその理由があるので、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い被告事件につき自判する。
(罪となるべき事実)
被告人は東京都荒川区町屋四丁目二四番一七号においてプレス加工業の工場を経営し、所得税の納税義務ある者であるが、昭和四一年九月一二日午前一〇時五〇分頃から同一一時三五分頃までの間、同工場入口附近において、東京国税局荒川税務署所得第二課所得税第二係長大蔵事務官友井淳一、同第二係大蔵事務官森啓の両名から、被告人の昭和四〇年分所得税確定申告に関する調査のために質問され、また営業に関する帳簿書類検査のためその呈示等を求められた際、長男真一と共に右両税務署員に対し「何度話しても同じだ。もう帰つてくれ。」「生活の保障がない限り答えられない。」「調査はさせない。」など怒鳴り、身近かにいた森事務官の腰を押すなどして、両税務署員の質問に答弁せず、かつその検査を拒んだものである。
(証拠)<略>
(法令の適用)
被告人の判示所為は所得税法二四二条八号、二三四条一項に該当するので所定の刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内において被告人を罰金三万円に処し、刑法一八条により右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。原審及び当審における訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文に従い、その全部を被告人の負担とする。
以上の理由により主文のとおり判決する。(関谷六郎 寺内冬樹 中島卓児)