東京高等裁判所 昭和44年(う)1815号 判決
被告人 中沢省一
〔抄 録〕
所論第一点(理由不備の主張)について
所論は、原判決が本件の証拠に挙げた被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書は、被告人の難聴と事故惹起後の精神的混乱により供述の任意性、信用性を欠くもので原審においてこれを証拠とすることにつき同意がなされたとしても相当性を欠き、証拠能力のないものであり、これら各供述調書を除く爾余の証拠では原判示罪となるべき事実を認定するに十分でないから原判決には理由不備の違法があるというのである。
よつて考察すると所論の各自白調書は、原審第一回公判期日において被告人及び弁護人が他の書証とあわせてこれを証拠とすることに同意したものであり、被告人もその運転した自動車の時速が八〇粁は出ていなかつたと思う旨弁疎したほかは公訴事実を認めて争わず、当時既に事故による精神的興奮も収まつており、かつ弁護人の援助を受けていながら何ら所論のような主張をしなかつたことをも考慮すると、所論の各自白調書が任意性、信用性を欠くものと認めることはできず、またこれを証拠とするのが相当でないとも認められない。さればこれを証拠として原判示犯罪事実を認定した原判決には理由不備の違法があるものということはできない。論旨は理由がない。
(遠藤 青柳 菅間)