大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(う)714号 判決

被告人 日暮忠雄

〔抄 録〕

所論は、原判決は、被告人は、第二、(一)、昭和四三年一一月一七日ころ、前記株式会社シブヤ楽器店二階商品置場において、丹羽勝之助管理にかかるLP盤レコード七枚(時価合計一二、九〇〇円相当)を窃取し、(二)、同月二一日ころ、前同所において、同人管理にかかるLP盤レコード八枚(時価合計一四、八〇〇円相当)を窃取したとの事実を認定する証拠として、一、被告人の公判廷における供述、二、被告人の検察官に対する昭和四四年二月四日付、司法警察員に対する同年一月一九日付各供述調書、三、上条祐三の司法警察員に対する同年一月一六日付供述調書、四、同人作成の各被害届((一)、(二))を掲記しており、原判決挙示の被告人の捜査官に対する供述調書や上条祐三作成の被害届二通によれば、本件の犯行場所、被害場所は、原判決の認定しているとおりであるけれども、右二通の被害届の被害の模様欄には、本件の被害品であるレコード盤は、いずれもシブヤ楽器店一階東側レコードラツク内に入れておいたものがなくなつた旨の記載があるほか、上条祐三の司法警察員に対する昭和四四年一月一六日付供述調書中にも、本件レコードは全部在庫品で、店内一階東側レコードラツク内に入れておいたものである旨記載されており、かかる供述内容と前記被害届の被害の模様欄の記載とを対比して考えるときは、被害者が被害にあつたという場所は、店内一階東側レコードラツク内が正当というべく、右被害場所は、当然株式会社シブヤ楽器店一階東側レコードラツク内と補正されなければならない。犯行場所、被害場所の若干の相異は、代替性のない特定の物が被害物件であるときは、さほど異とするに足りないであろうが、本件のように被害者がレコード盤も含めその他楽器類の販売店であつて、本件と同種類、同内容のレコードが多数仕入れられていて、実際二階商品置場と一階東側レコードラツク内の双方に、これらのレコード類が存置されていたことが容易に推知される事情と、本件以外にも、被害者においてレコード類の紛失の事実を認めている状況等を考えるとき、被害者が盗難被害にあつたというレコード盤は、あるいは他の者による犯行であるという疑いも、きわめて濃厚になつてくるのであつて、被告人自身右ラツク内から取つた事実を認めていないのであるから、被害者のいう株式会社シブヤ楽器店一階東側レコードラツク内にあつたLP盤一五枚の盗難被害が、被告人の犯行にかかるものであると断定することは、誤りであるというべきである。されば、被害者の供述内容や被害届記載の形式面のみをとらえて、本件を被告人の犯行と断定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるという旨の主張である。

控訴趣意第二点

所論は、量刑不当を主張するものである。

まず職権をもつて審按するに、原判決が判示第二の(一)、(二)の各事実を認定する証拠として挙示しているものは、一、被告人の公判廷(原審)における供述、二、被告人の検察官に対する昭和四四年二月四日付、司法警察員に対する同年一月一九日(二九日の誤記と認める。)付各供述調書、三、上条祐三の司法警察員に対する同月一六日付供述調書、四、上条祐三作成の各同日付被害届((一)、(二))のみであるが、右一、二の各証拠を見ると、これらは被告人が犯行場所を原判示のとおり「株式会社シブヤ楽器店二階商品置場として本件各窃盗の犯罪事実を自白したものであり、一方、右三の証拠、即ち上条祐三の司法警察員に対する供述調書を見ると、「お示しのレコードは、全部在庫品で、店内一階東側レコードラツク内に入れておいたもので、客の注文があればお売りする商品に間違いありません。この他にも不審な品物やレコードがありますので、日暮をよく調べて下さい。」という供述記載があり、また右四の証拠、即ち上条祐三作成の各被害届((一)、(二))を見ると、各「被害の場所」欄には、いずれも「東京都品川区大井四丁目三番二一号株式会社シブヤ楽器店二階商品置場」(なお、右「二階商品置場」とある部分については、最初は、いずれも「一階東側レコードラツク内」と記載されていたところ、その後一階の「一」に一が付加されて「二」とされ、「東側レコードラツク内とある部分」が削除され、その下に「商品置場」と付加されて、届出人上条の訂正印が右削除部分に押捺されていることが認められる。)と記載されているのに反し、各「被害の模様」欄には、いずれも「当店は午前一〇時より午後一〇時まで営業しており、それ以外は出入口は鍵をかけており、出入は出来ません。一階東側レコードラツク内に他のLP盤と一緒に入れておいたところ、一一月一七日ごろ(右(一)の被害届)、一一月二一日ごろ(右(二)の被害届)左記レコードがなくなつておりましたから、盗まれたものと思います。」と記載されており、右「被害の場所」および「被害の模様」の各記載は、いずれも届出人上条祐三の依頼により警視庁大井警察署司法警察員巡査井上隆彦が代書したものであると記載されているのであつて、各被害届の記載内容自体に矛盾があり、そのいずれの部分を措信すべきであるか明らかでない。ところで、右株式会社シブヤ楽器店においては、本件被害品と同種類、同内容のレコードが多数仕入れられて、その二階商品置場と一階東側レコードラツク内との双方に置かれていたことが記録上認められるうえに、右三の証拠、すなわち上条祐三の司法警察員に対する供述調書には、前記のとおり、店内一階東側レコードラツク内のレコードの盗難の他にも不審なレコードがある旨の供述記載があることに徴すると、右三、四の証拠は、被告人の自白した二階商品置場における窃盗の被害に関するものというよりも、むしろ、これとは別に一階東側レコードラツク内において行われた他の窃盗の被害に関するもので本件には関連性のないものであるかも知れないという疑いが生じ、原審において取り調べられた全証拠によつてもこの疑いを打ち消すに足りないから、右三、四の各証拠書類は、前記一、二の被告人の自白の補強証拠としての価値を有しないものと認められる。それゆえ、判示第二の(一)、(二)に関する部分認定の証拠として右一ないし四しか挙示していない原判決は、結局、右一、二の被告人の自白を唯一の証拠として判示第二の(一)、(二)の事実につき有罪の認定をしたこととなり、刑事訴訟法第三一九条第二項に違反したものであり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において原判決は破棄を免れない。

(飯田 吉川 小川泉)

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