大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(う)853号 判決 1970年5月06日

本店所在地

東京都調布市上石原一三七番地

大村興業株式会社

右代表者代表取締役

大村一郎

国籍

韓国慶尚南道昌寧郡南旨面樹斤里三五三番地

住居

東京都調布市上石原一丁目二二番一号

会社役員

大村一郎こと辛容鳳

一九二八年一一月一一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四四年二月二五日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し原審弁護人小田良英から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人小田良英作成の控訴趣意書、控訴趣意補充書(其の一および二)に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事古谷菊次作成の答弁書に、それぞれ記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

控除趣意中事実誤認の主張(補充控訴趣意其の一および二を含む。)について

所論は、原判決には幾多の事実誤認があると主張し、その論旨は後記論点第一ないし第五のとおり多岐にわたる。

よつて案ずるに、原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判示事実のすべてを肯認することができ、記録を調査し、当審における事実取調の結果に徴しても右認定が誤であるとは思われない。弁護人指摘の論点ないし第五につき以下逐次判断する。

第一、昭和三七事業年度分のほ脱所得の内容について

論旨は、要するに、被告人が昭和三七事業年度において、被告会社の売上金等について実際金額を下まわるいわゆる過少申告をした事実は争わないが、これは、被告会社が昭和三七年三月事務所を類焼し売上等経理関係資料を焼失したため、正確な決算が組めず、やむなく大塩建材株式会社等の取引先に対する照会等によつて申告書を作成、提出したところ、取引先の回答が語つていたなどの事情によりいわゆる過少申告をなすにいたつたものであるから、無罪であると主張する。

しかし、被告会社の昭和三七事業年度は、昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの期間であつて、同年五月三一日までに右事業年度の課税標準たる所得金額および当該所得に対する法人税額を記載した申告書を税務署に提出することとなつており、実際に申告したのも昭和三八年五月三一日であるから、昭和三七年三月の出火によつて同年四月以降の経理関係資料の焼失する筈はなく、取引先の誤つた回答によつて申告したとの主張はこれを採用することができない。

なお、論旨は、東京物産株式会社に対する売上脱漏は、同会社からの期中入金六、五〇〇万円から貸付金一、〇〇〇万円を差し引いて公表計上したというのであるが、右貸付金は簿外で処理していたものであるから、被告人の故意に基づく脱漏といわなければならない。

また、所論金本明外三二件三、七二九、〇八五円は、被告会社の入金帳、集金帳に記帳された売上であつて、公表売上に計上されていないものであり、所論林建設株式会社外四一件三、〇〇六、三七六円は、被告会社の当座預金口座に相手方から売上代金として小切手で入金されているのに、これを公表売上に計上しなかつたものであつて、いずれも火災や取引先の回答などと無関係の被告人の責に帰すべき売上脱漏であるといわなければならない。

それ故論旨はいずれも理由がない。

第二、昭和三八事業年度分のほ脱所得の内容について

論旨は、要するに、

一、(1) 大塩組に対する売上脱漏三、四八七、〇三七円は、大塩組、大塩建材株式会社の内部不統一に基因する同会社の誤つた回答に基づく申告もれであるから、被告人の責に帰すべきものではない。

(2) 調布市上石原二一六外山林六二八・七六坪、四、四〇〇万円の売上脱漏は、八幡神社所有の右土地を被告会社が増岡源吾名義で買い受け、後日これを売却した後際も、右増岡名義で売却したため、その売上利益金を右増岡名義で納付した(しかも、会社名義で納付するより数百万も多く納税した。)ものであるから、脱税の事実はない。

(3) 関根組外四件一、四三五、五四五円は、被告会社の売上帳に記載されているから、申告漏となつている筈がない。

(4) 内山組外一、四六四、九四四円は、被告会社の預金に入金されている小切手類をとらえて売上脱漏と認定したものであるが、これらの小切手振出人は会社の取引先ではなく、いわゆる回り手形であつて売上代金ではない。

(5) 国立町関係四四、一三〇、九八五円を売上脱漏としているが、これについては、正確に申告したものであり、ただ、右国立町買収土地の一部に、昭和三七年度に被告会社が大塩建材株式会社から増岡源吾名義で買い取つた土地が含まれていたのを昭和三七年三月の火災で被告会社の経理が不明となり、大塩組からの回答もなかつたので過つて申告しなかつたに過ぎない。

二、当期商品仕入高欄に「吉田庄一に対する除外五〇〇万円計上洩れ」としてある点については、そのような事実はないから原判決は事実を誤認したものである。

三、雑損失欄に、「斉藤良二に対する貸倒損否認四四、七〇〇、四三六円」とある点については、被告会社が斉藤良二に対し合計六、四〇〇万円を貸し付けたところ、同人が担保に供した土地について原所有者などとの間に民事上の係争があり、また、斉藤が逃亡し、右貸付金の取立が事実上困難であつたので、後日右貸付金を回収したときに当該年度の収益として申告する心算で、昭和三九年三月期に五、一〇〇万円の貸倒、すなわち、雑損として申告したものであるから、被告会社としては当然の措置をとつたもので、決して脱税を企図したものではないと主張する。

しかし、

一、(1) 大塩組の売上税漏については、先に第一の項において述べたとおりであり、被告人が大塩組に対する売上金額などを詳細確知していなかつたとしても、本件について、被告人に概括的犯意のあつたことは、原判決に説示するとおり(原判決書七枚目裏四行目から八枚目表七行目まで)明らかである。

(2) 調布市八幡神社所有の土地売却については、被告人が自認しているとおり、右土地は名義上増岡となつていたものの、実質上被告会社の所有に帰属していたものであるから、右売買代金は被告会社の所得として当然計上申告すべきであつたのに、これを怠つたほ脱の責任が被告人らにあること明らかである。

(3) 関根組外四件の売上脱漏については、売上帳に記帳されていながら、税務署に申告されていないことが証拠上明らかである。

(4) 内山組外の売上脱漏についても証拠上明白である。

(5) 国立町関係の売上脱漏四四、一三〇、九八五円も証拠上明らかであるといわなければならない。すなわち、被告会社は国立町谷保上新田の土地を地主から買い受け国立町に売却斡施したもので、被告会社が国立町から受領した売買代金は(未収金一〇六、六二五円を含め)総額一二三、九五一、六二五円であつたから、被告会社は右金額からそのうちに含まれていて後日国立町に還付した農林省所有地代金一、五六一、一四〇円を差し引いた一二二、三九〇、四八五円を申告すべきであつたのに、七八、二五九、五〇〇円しか申告しなかつたものである。

二、吉田庄一に対する除外五〇〇万円も証拠上明らかである。すなわち、被告人は前記国立町谷保の土地を地主から買収して国立町に売却斡施するにあたり、自ら土地の買収にあたつたほか、吉田庄一に取りまとめを依頼し、右吉田が取りまとめた土地代金が一四、二一三、五〇〇円となつたので、右代金額を被告会社が吉田庄一に交付すべきところ、被告人は右土地の買収に関連して中村栄蔵から受け取ることになつていた埋立工事費五〇〇万円を吉田庄一に取立させることとし、右土地代金から五〇〇万円を差し引いて吉田に交付していることが明らかであるからである。

三、「斉藤良二に対する貸倒損否認」についても証拠上明白である。この点に関し原判決が説示するところ(原判決書九枚目裏六行目から一一枚目裏八行目まで)は、相当として是認すべきものとする。

それ故論旨はいずれも理由がない。

第三、その他について

論旨は、被告会社に他人名義の裏預金があつたのは事実であるが、これは、会社設立当時、被告人個人の金数千万円を会社に投入し、個人と会社とがいわゆるドンブリ勘定的経理を行なつていたこと、銀行が預金勧誘に際して架空名義または無記名預金を奨励したことに基因するものであり、起訴事実の内容についても何らの悪意なく、申告脱漏については相当の理由があつたものであるから、租税犯を構成しないと主張する。

しかし、被告人が検察官に対し、「普通預金や通知預金や定期預金に名義をいろいろな架空名義を用いました、それも、私が考えて決めたものです。架空名義を使つたのは、税務署等に知られたくない裏金を作つておきたいと思つたからです。」と述べている(被告人の検察官に対する昭和四一年五月七日付供述調書記録第六四一、六七〇丁裏八行目以下)ところからみでも、悪意がないなどといえる筋合ではなく、他に右主張を裏付ける相当の理由も証拠上見当らないから、論旨は理由がない。

第四、修正申告提出について

論旨は、要するに、被告人は、過つて売上その他の申告もれをしたことは事実であるが、申告後間もなく、税務当局の指示などによつてその申告もれに気付き、直ちに、修正申告書を提出したのに、税務当局が不当にもこれを受理しなかつたので、その後、さらに、起訴金額より相当多額の修正を施して申告をし、納税義務を果したものであるから、脱税はしていないので無罪であると主張する。

しかし、法人税ほ脱罪は、法人税法所定の確定申告書提出後、法定納期の経過により既遂となるものであつて、脱罪成立後に修正申告をしてこれによる増加税額を納付しても、ほ脱罪の成立を妨げるものでないことは、判例(最高裁判所昭和三六年七月六日判決、集一五巻七号一〇五四頁参照)の示すところである。それ故論旨は理由がない。

第五、租税罰について

論旨は、要するに、ほ脱罪は「故意犯」であり、しかも「詐欺その他不正の行為」により所得を脱漏する悪意のあるものでなければ処罰の対象にならないのである、被告人に過失があつたとしても、これを処罰する規定はない。いずれにしても被告人の行為はほ脱罪に該当しないと主張する。

よつて案ずるに、ほ脱罪が「故意犯」であり、かつ、「詐欺その他不正の行為」を構成要件とするものであることは所論のとおりであるが、本件は被告人の故意によるものであること前説示のとおりであり、被告人の犯した過少申告行為は、実際の所得を下まわる虚偽の申告をし、売上を脱漏したほか、貸倒金と認定されないものを貸倒損として計上したものであつて、いずれも「詐欺その他不正の行為」に該当するものというべく、被告人らは本件ほ脱罪の刑事責任を免れない。それ故論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

よつて記録に基づき検討するに、本件犯行の動機、態様、罪質および被告人辛容鳳の年齢、経歴、前科歴、生活態度、本件ほ脱税額が巨額に達していることなどに照らし被告人らの刑事責任は重大であること、その他諸般の情状を考察すると、弁護人指摘の諸点を被告人らの有利に十分参断しても、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは思われない。それ故論旨は理由がない。

以上の理由により、刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

検事 古谷菊次公判出席

(裁判長判事 飯田一郎 判事 吉川由已夫 判事 小川泉)

昭和四四年(う)第八五三号

控訴趣意書

被告人 大村興業株式会社

外一名

本件控訴の趣意左記の通り提出します。

昭和四十四年五月二十九日

弁護人 大田良英

東京高等裁判所

第五刑事部 御中

第一点 原審は重大な事実誤認がある。

本点は別添冒頭陳述書及び仝其の二並に弁論要旨(一)及び第一乃至第五主張の通りであつて、本件は無罪であるのに之を有罪としたのは重大な事実の誤認がある。

第二点 原審は量刑不当である。

本点に就ては別添弁論要旨(二)及び第五情状に就て主張の通りである。

第三点 尚原判決に対する理論(一)及び必要書類並に証拠の申請等は追申しますが、当審に於ては特に職権に於ても充分の御審査を賜りたい。

(一) 原判決が申告期日経過后の修正申告は無効の如き、他人名義の預金が過去にあつたことが后の年度申告の故意悪意のあつた等とする理由等に就ての反駁

昭和四四年(う)第八五三号

控訴趣意補充書(其の一)

被告人 大村興業株式会社

外一名

標記補充左記の通り提出します。

昭和四十四年七月十五日

弁護人 小田良英

東京高等裁判所

第五刑事部 御中

一、検察官冒頭陳述提出ほ脱所得の内容表中、弁論等に関しての必要表別添の通りである(ペン字は弁護人記入のもの故之を除く)。

二、原判決は確定申告期間の経過により租税犯は確定すると云うが

1. 不申告犯は其の通りである。

2. 申告による修正(利益不利益に不拘)は国民の権利である。之は更正決定又は税務官庁の所得額確定の決定をしたとき既遂となるものである。

3. 従つて其の間に修正申告をすることにより未遂の処罰規定のない限り犯罪は成立しないと解すべきである。之は租税犯特有の行政的処理と解すべきである。

三、仮りに前項の判決の通りとするもそれは不正による過少申告のもの丈であつて、其の内容上当初より犯罪とならないものは其の期間経過により犯罪とされる道理はないのである。

四、原判決は被告会社が「ドンブリ」勘定及び簿外預金した云々で悪意があつた(被告も法廷にて述べた)としているが、之を以て直に個々の申告内容に不正があつたとすることは出来ない(注(一))(会社に二重帳簿があつたからとて直に犯意があつたとすることは出来ない趣旨の判例もある通り)。

又被告人は右預金は「事業資金蓄積のため」とは云つていない。又税務署の調査があつた為に云々とあるが之は事実に反するものである。(注1)

五、ほ脱罪の犯意脱税の認識は概括的のものをもつて足りるとするとしても其の申告の内容中の個々のものに対して之は課税対象とならないと処理したものが客観的に其の処理が誤つていたものは其の部分は当然ほ脱額から除かるべきものである。本件中被告人は一般的に前者のほ脱の認識を有したことはない。

特に斉藤良二並びに増岡源吾名義にて買受けた(注(二))調布市神社の土地に就ては之は税対象外として取扱うも可成りと信じて為したもので之は除外さるべきものである。

注(一)

本人は会社設立当初約二千五百万円の私費を会社に投じ、其の後一回の配当丈で自己配当に属する分も会社の資産として運用して来つたので其の一部を家族の将来の為銀行の勧誘等もあり他人名義の預金としたものである。

それも過年度であつて本件年度に何等関係ない、之を以て悪意とするは当らない。

注(二)

国立町土地の件も担当計理士の誤りであるが其の原因は立川税務署の連絡不充分であつた。

昭和四四年(う)第八五三号

控訴趣意補充書(其の二)

被告人 大村興業株式会社外一名

標記補充左記の通り

昭和四十四年七月十八日

弁護人 小田良英

東京高等裁判所

第五刑事部 御中

一、判決中「弁護人の主張に対する判断」に就ての弁護人の意見(補充書其の一等に述べたものに加へて)

1. 「一」中

申告所得額が虚偽過少であつたこと之を概括的認識を有していたことは証拠上明白と云ふが其の様な認識を有していたことはない。

斉藤良二関係の修正申告は税務署の調査に関係ない(注一)

2. 「二」中

(一) に就ては被告会社(以下会社とす)の火災と大塩建材内部の関係(大塩組と取引したことはない)に因るものである。

従つて過少申告の認識等は有していなかつた。

当時の大塩建材との取引は結果的勘定で之を記帳する方法を取つていたものであるがそれが即悪意認識を有したとするは裁判官の予断に基く判断である。

(二) 八幡神社の土地に就ても充分納税して居たもので脱税の悪意はない。

国の期待する租税債権は其の課税対象に就き夫々に相当する納税を期待するもので法人個人と区別すべきでない、この場合は土地購入の手段としたもので経理不慣の者が其の何れかに誤つたからとて其れ自体脱税犯を構成するものでない(虚偽申告したものではない)

3. 「三」雑損失-斉藤氏に対する貸倒損に就て

(一) 其の数字の詳細は別として貸倒れとした本質を云ふのである。

増岡源吾名義に物件の仮登記されたことは明であるが、之は会社に為したものではない。斉藤は尚本件土地を利用して利を計るべく策動してゐる事が認められたので至急会社に其の権利譲渡の手続を為すよう交渉したが之に応ぜず尚も強く之を要求した処己むなく増岡源吾に預けることにして同人の名に所有権移転の登記をした。

(若し会社の為にする意思であつたら直接会社名に登記した筈である)

右の次第で之に基く当事者間の債権譲渡等の手続を為すことなく間もなく其の所在をくらましたのである。其の為め増岡自身が右登記を以て直に地主等第三者に対抗して債権譲り受けを主張することが出来ない。

(以下弁論要旨詳述)

仕組となつていた債権者行方不明の為之を補ふことは不能で貸金の回収は見込みなく止むなく一応之を損失扱ひとして申告したものである。

之に就ては担当計理士土田惇士及斉藤の代理人秋根弁護士が(注二)法廷で証言してゐることで明かである。

若し之を専門的に見て貸倒れとしたことが誤りであるとしても脱税の犯意はなかつたものである。

(注一)税務署の調査は昭和三九年二月であつた其の年度決算は三月末日現在である。

判決の至る処に「虚偽過少の申告を行ふ不正な方法により法人税を免れようと企て」等悪意の文句を並べ被告人が積極的に不正を行つたとしてゐるが重大な誤りである。弁護人は過少申告を認めているのでなく数字の詳細は争はないと云つているのである。

(注二)秋根弁護士の証言を求めたのは当時斉藤の所在不明と増岡の権利行使の不能状態であつたこと之を被告人の依頼により斉藤と連絡に努め其の手続を取つたことに就ての立証の為であつた。

秋根弁護士には其の費用報酬として金弐百萬円(参百萬円を請求されたが)を支払つた、判示の通りであるなら会社は泥棒に追銭的費用を出す筈はない。

4.「二」の(五)に就ての立証として被告人より国立造成工事内訳及資金借入利息明細書」(国立町議会議長宛)提出してある(三)は売上帳に登載されている。之を申告に加算如何は税理士の処理で被告人に故意等はない。

二、判決摘示証拠に就て

1. 会社は査察を受けた直后税専門的中条弁護士(後で当職も之に加わる予定で)に相当の報酬を支払ひ委任し調査を始めた。

処が此の儘行けば起訴されずに済むからとか等の理由を附けて仝弁護士の解任を使嗾した者があつた為に之を断つたのである。

2. 又本件起訴されるや顧問たる当弁護人を避けさす為か軽い罰金位で済むから弁護人は入らない等の言を弄した者があり為に故ら当職は第一回の公判時弁護届を出さず被告人一人出廷した処が検察官から他国で脱税は極悪的行為である等と悪意ありとの言葉を並べられ、懲役刑の求刑までされたので大に憤慨し「人をペテンにかけた」と当職に弁護を依頼したものである。

3. 斯くて税務吏員の不当な取調による証拠書類等もある筈の処手続に無智の被告人は第一回公判に於て全部意見はないと同意の形となつてしまつたものである。

4. 裁判官更迭の際手続の更新に就ては当弁護人に於て為したものは異議なしと答えた筈の処調書には明かでないが何れにせよ斯る状態であるから本件に就ては法廷の立証を優先的に判断し他のものに就ては被告人側の主張と照合して充分検討すべきであるに不拘只形式丈の判断に基く判決は不服である。

三、本件全体は複雑であるが主は斉藤良二の件があつた為に起訴されたと思料する、就ては当審に於て職権を以て特に御調査を求める次第であります。

四、証人申請

東京都小金井市貫井南町一ノ三三

市瀬英男

国立町土地の経理に就て

当弁護人 小田良英

斉藤良二関係を雑損処理をした実情に就て取り敢えず右二名の取調を賜はりたい。

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