大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ツ)57号 判決

所論は、農地売買において許可のないうちに、引渡しをした売主である上告人の土地明渡請求に対し、買主である被上告人の権利濫用の抗弁を認めた原判決は、許可のない引渡しという事実状態を肯定する結果を招くから農地法の精神に反し、民法第一条の解釈を誤り法令違背をおかしたというのである。農地法第三条第四項によれば、許可を受けないでした農地の権利移動の行為は法律上無効であるから上告人は依然本件農地の所有権者であり、他方本件農地の引渡を受けた被上告人は、何ら正当の権原に基づかずして本件農地を占有している者にすぎないことになる。そうすると特段の事情のない限り上告人は被上告人に対し所有権にもとずく物上返還請求権の行使として本件農地の明渡を求めることができることは明らかである。しかしながら、上告人の右権利行使についても民法第一条の権利濫用ないし信義則違反の法理の適用はあると考えるべきである。即ち、元来農地法の目的とするところは、いわば「自作農主義」とも称すべきものであつて、この建前をくずすような農地の権利移転行為を制限することに主眼があるのであるから、その建前と牴触しない限り農地の権利関係につき民法第一条を適用してなんら差し支えない筋合である。原審の適法に確定した事実によれば、本件農地はもともと、上告人の自作地であり、被上告人もまた自ら農業を営む目的で本件農地を買受け、現にその目的に従つて利用していること、上告人が本訴を提起したのは、本件農地を耕作する意図に出たものではなく、地価が高騰したのを奇貨とし、本件農地を取り戻して利益を得る目的に出たものであることが明らかである。してみれば、上告人の本訴請求は権利濫用と目すべきであつて、かつ、そのように判断したからといつて農地法の自作農主義の精神がふみにじられたとも考えられず、論旨は採用できないというほかない。

(近藤 田嶋 稲田)

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