東京高等裁判所 昭和44年(ツ)80号 決定
所論は、上告人がなした延滞賃料の催告は、適正な賃料額をこえる過大な催告であつたにしても、上告人において催告をした金額でなければ受領しないというような事情がなかつたものであるから、適正な延滞賃料の範囲内で有効であると主張する。ところで、原審が確定した事実によれば、適正な延滞賃料が五万二五二二円(昭和二七年三月から昭和三二年三月分までの分)であるのに、上告人が当時の賃借人である訴外亡羽柴きよ、被上告人羽柴トヨ両名側に対してなした催告は八万四三七二円(同上期間内の分)を請求したというのであるから、右催告は約一・六倍にあたる過大な催告ということができる。しかしながら、適正額を超える過大な催告であつても、これを以て直ちに無効とすべきではなく、前記訴外亡羽柴きよ、被上告人羽柴トヨ両名において催告全額の提供をするのでなければ上告人はその受領を拒絶する意思を有するものと認められる場合でないかぎり適正な延滞賃料額の範囲内でなお有効な催告であると解するのが相当であり、原判示の過大の程度では未だ上告人の拒絶の意思を推認することはできないに拘らず、原審は他に上告人の拒絶の意思を推認すべき事情の存することにつき何らの説明を加えることなく前記催告を無効と判断し上告人の契約解除の主張を排斥したのであつて、原判決にはこの点につき理由不備の違法があり破棄を免れない。そして、前記催告の効力の有無については、なお前記の点について審理をする必要があるから、その余の所論に対する判断を省略し、右の点について審理をするため、本件を原審に差し戻すのを相当と認める。
(岸上 横地恒 平田)