東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1277号 判決
一、精神若しくは身体に故障があるか虚弱、老衰、疾病等で業務に堪えられないと認められたとき
二、労働能率甚だしく劣悪であるか、又は勤務成績不良であると認めたとき
三、欠勤多く業務に支障を来すとき
四、懲戒解雇の基準に該当したとき
五、休職期間が満了するも復職を命ぜられないとき
六、停年に達したとき
七、採用の場合の誓約に反する行為のあつたとき
八、止むを得ない業務上の都合に依るとき
九、組合の除名処分を受け会社が認めたとき
一〇、その他前各号に準ずる理由があるとき
以上、一〇個の解雇事由を定め、同規則三六条一、二項には前条を承けて労基法二〇条と同旨の規定を置いているから、同規則三五条は即時解雇、通常解雇を通じ会社自ら従業員解雇事由を列挙して解雇権を制限したものでこれに違反した解雇は無効であると解するのが相当である。控訴人は、被控訴人が採用の際の誓約に反し会社の就業規則に従うことを将来とも全面的に否定したことが会社就業規則三五条七号に準ずる一〇号および八号にそれぞれ該当すると主張するから、順次判断する。
会社の就業規則三五条七号についてみるのに、同条号には、同条一号のように「業務に堪えられないと認められたとき」とか、同条二号前段のように「甚だしく劣悪」とかのような程度による限定は明規されていないが、同規則三七条によつて明らかなとおり、両条号ともひとしく、三〇日間の予告またはこれに代る平均賃金の支払を伴う使用者の一方的意思表示によつて労働契約を終了させられる通常解雇の要件であることから考えれば、誓約違反が労働契約関係存続の前提である信頼関係を破壊する程度の不誠実と認められるときに限ると解すべきであり、したがつて、これに準ずる同条一〇号も同様に解するのが相当である。ところで、前記1のとおり、被控訴人は会社従業員となるとき就業規則を守ることを会社に誓約したのであるから、前記2、3、6のとおり、被控訴人が昭和四〇年七月一四日会社上司に対し就業規則または誓約を守る意思がない旨言明したことは一見就業規則または誓約に従うことを全面的に否定したように見えないではない。しかし、本件解雇にいたつた経緯を通観して仔細に検討すれば、被控訴人の前記矯激な発言は、青年客気の被控訴人が中年の上司にこもごも問いつめられて、行きがかり上、おおげさに反撥した暴言であつてそれだけで被申請人を三〇日分の平均賃金を提供した通常解雇に値するほど不誠実であるとは断じ難い。次に前記一、二5のとおり、事務員として既に五年余格別の非行なく会社に勤務した事績を併せ考えると会社内で五名の同僚に対し数か月間隠密にアカハタを無許可で配布し、会社用紙六枚(時価約六円相当)を私用に供したことは前掲就業規則の解雇事由に当るとは認められない。
控訴人は、被控訴人が昭和四一年一〇月一八日控訴人を「死を売る会社」と誹謗し、その製品の製造中止を訴えるビラを会社従業員に配布した事実によつても、会社が控訴人を通常解雇に値する不誠実な従業員であるとしたのは裁量権の範囲を超えるものではないと抗争する。控訴人が、会社はすでに昭和四一年二頃ジヤングル・シユーズの製造をやめているのに、同年一〇月一八日会社足利工場から隔たつた会社本社玄関前で、「会社は不当解雇を撤回せよ!!ジヤングル・シユーズをつくるな。」と題し、会社を「死を売る会社」と誹謗し、「興国化学の経営者よ。……労働者を……搾取して作つたジヤングル・シユーズを侵略者に売つて儲うけ、罪もないベトナム人民が殺されることを蔭でよろこぶ経営者よ。……ただちに、ジヤングル・シユーズの製造をやめよ。」と記載されたビラを会社の従業員に配布したことは、前記一、二7のとおりである。しかし、その三か月前被控訴人に対してなされた本件解雇が不当であることは前記のとおりであるから被控訴人の右所為は控訴人の不当処分に対する反撃に出たものであることは諒察するに余りがある。してみれば控訴人が自己の非に目を蔽い誘発された被控訴人の不当の行為を責めるのは失当といわざるを得ない。
控訴人は、さらに、被控訴人が採用の際の誓約に反し会社の就業規則に従うことを否定したのは、会社の就業規則三五条八号に該当すると主張するが、前記認定事実に照らし被控訴人が採用の際の誓約に反し会社の就業規則に従う必要もこれに従う意思もないと上司に放言した趣旨は控訴人側の就業規則の解釈適用の不当であることを非難したものであつて、真実就業規則を守らない意図を表明したものでないことが認められるので、これをもつて解雇に当るということはできない。被控訴人が昭和四一年一〇月一八日会社を誹謗するビラを会社従業員に配布した事実を考慮しても右の結論に変りのないことは、さきに説示したとおりである。
してみれば、会社が被控訴人の採用の際の誓約に反し会社の就業規則に従うことを否定した行為を理由に、同人に対し解雇の意思表示をしたのは、就業規則の適用を誤つたものであつて、その他の点について判断するまでもなく、本件解雇の意思表示はその効力を生じないといわなければならない。
(西川 園部 森)