東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1309号 判決
よつてすすんで、F・B・S・ミラー『自動車の先端、ボンネツトの上の中央部に取付けるように考案された、制動燈一箇とバツクミラー二面とを三角形に組合せた装置で、前方に向いた面は制動燈であつて、主制動装置に連動し、主制動装置を働かせると自動的に緑色に点燈し、これを休ませると自動的に滅燈する仕組みとなつており、一方バツクミラー中、一面は斜右後方、他の一面は斜左後方に向いており、運転者は、運転台からこの鏡によつて、首をめぐらすことなく左右両側およびそのやや後方を見ることができるような構造のもの』中の前面制動燈が保安基準に違反するか否かについて検討するに、およそ自動車のごとく運行の安全が極度に要求される交通機関にあつては、信号のために備える燈火は、その伝える意味が他の車両あるいは歩行者にとつて一見明瞭であるように装着部位、色彩、光度等において画一的なものであることが要求され、かつ、これとまぎらわしいような燈火の存在しないことが望ましいことは、いうまでもないところである。しかして、制動燈は主制動装置を操作した場合に点燈する装置であつて、本来追突を避けるため、後続車に減速あるいは停止を伝達する使命を有するものであるから、これを義務的に後面に装着するような基準を定めることは当然であるが、義務的な制動燈以外に、全く基準によつて規制されない任意な制動燈を側面あるいは前面に自由に装着することを許すとすれば、前述の画一性は害され、あるいは方向指示燈と混同され、あるいは他車に眩惑を与えるなど、交通の安全に支障を及ぼす結果に立ち至るおそれがあることは、想像に難くない。さればこのような余分の燈火の装着を禁止することが、道路運送車両法第四一条、第四六条の趣旨とするところであろう。
以上の観点から、保安基準をみるに、第三九条第二項は、同条第一項所定の義務燈火たると否とを問わず、およそ制動燈一般に適用さるべき基準を定めたものと解するのが相当である。このような解釈は、なんらの限定をも付することなく「制動燈は、左の基準に適合するものでなければならない。」と規定している同条第二項の文理解釈からしても自然であるばかりでなく、原審証人北川清の証言によれば、「昭和三四年九月運輸省令第四二号による保安基準第三九条の改正は、その第一項において従前制動燈の備付義務のなかつた軽自動車に対して制動燈の後面備付義務を追加するとともに、幅二メートル以上の大型自動車およびハイヤー、タクシー、バス等旅客自動車運送業用自動車については制動燈を二個後面に備え付けることを義務づけることにしたが、これとは別に義務燈火のほか余分に制動燈を付けた場合に、その余分の燈火がまぎらわしい表示をすると、表示の明瞭画一を期する法の趣旨を没却することになるので、義務燈火はもとより義務燈火以外の制動燈にも通ずる構造基準として、第一項の備付義務と項を改めて、別に第二項を設けおよそ制動燈たるものの具備すべき条件を列挙し、旧規定において曖昧であつた点を明確にしようとする意図をもつて同項の設定がなされたものである。」ことが認められるのであつて、このような観点からみても、右のような解釈は保安基準改正の趣旨に添うものであるということができる。
とすれば保安基準第三九条第二項第一号ないし第七号の規定は制動燈に関する適合基準の制限的列挙というべく、同条第二項第一号および第六号にいう「後方」の意味も前記画一性の観点から「後方のみ」に限定して解すべきである。もつとも制動燈を自動車の後面以外の部分に備付することを禁止する明文規定はないが、本件前面制動燈のように前面に備付されるものは、自動車の後方よりこれを確知するに由ないことはいうまでもないところであるから、結局同条第二項第一号および第六号の要件を充足しないものとして、備付を禁止されたと同様の結果になる。
(古山 川添万 秋元)