東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1361号 判決
尤も本件の場合においては、被控訴人が本件和解成立後第三者に対し本件建物につきこれを譲渡したり賃借権その他の使用権を設定したりして、その第三者が本件建物の敷地たる乙区土地を占有するに至つたとしても、控訴人らは、本件和解調書を債務名義とし、右第三者を被控訴人の承継人とする承継執行文を得て、本件建物係争部分の収去又は退去と乙区土地明渡の強制執行をなし得るわけである(最高裁判所昭和二六年四月一三日第三小法廷判決・民集五巻五号二四二頁参照)。しかしながら、控訴人らが右のような債務名義を有しているからといつて、前記のように強制執行停止決定により即時の執行が不可能となつている以上、本件申請の仮処分の必要性を直ちに否定することはできない。すなわち、控訴人らの即時の執行が不可能のまま、本件建物に対する被控訴人による処分や占有の変更を放置するときは、控訴人らが、将来、執行を開始できるようになつて執行をなす際に、本件建物の敷地たる乙区土地に対する占有者を特定し、これにつき被控訴人からの承継の事実を確定することは、必らずしも容易ではないと考えられるし、また、たとい一旦はその特定、確定ができたとしても、そのまま支障なく承継執行文の付与を受けて執行をなし得るとは必ずしも断言できず、以上の結果として、執行に著しい困難を生ずる虞れがあると認められるのである。従つて、控訴人らが本件建物の占有状況を十分把握し、その変更があつたときは、事情により更にこれが排除の措置を講じ得るようにさせるために、本件建物係争部分につきいわゆる占有移転禁止の仮処分をしておく必要があると認められ、また、本件建物係争部分は本件建物の一部であつて、本件建物に対し区分所有権の対象となり得ない関係にあることが前記乙第三号証の一によつて明らかであるから、本件建物全体についていわゆる譲渡禁止の仮処分をなし、これに反する処分を無視して控訴人らが本執行をなし得るようにさせる必要があるものと認められる。
(岸上 田中 平田)