東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2004号 判決 1970年2月28日
控訴人 依田辰秋
被控訴人 山梨トヨタ自動車株式会社
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、その陳述したものとみなされた「控訴申立書」中には原判決には不服であるから控訴を申立てる旨の記載がある。被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
被控訴人の主張事実は、原判決記載の請求原因(三)の事実を「本件月賦販売契約においては、控訴人が債務不履行を原因として契約を解除された場合は、被控訴人に対し、本件自動車を返還するほか、その価値減損による損害金を支払う旨の約定があつて、右は控訴人が債務不履行に陥つたため合意解除された場合をも含む趣旨である。しかるところ、控訴人が本件自動車を使用したため、その返還時の価格は二九万八、六九三円に低下したので、控訴人はこれと売買当時の価格との差額三六万一、八六七円を被控訴人に支払う義務がある。しかして、右金員から既に支払を受けた月賦金一一万八、五六〇円を控除するとその残額は二四万三、三〇七円となる。」と訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。証拠として、被控訴代理人は甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証を提出し、原審における証人武田功の証言及び控訴本人尋問の結果を援用した。
被控訴人は受刑中のため、原審及び当審口頭弁論期日に出頭せず、また、答弁書その他の準備書面を提出しなかつた。
理由
一、原審証人武田功の証言により成立を認める甲第一号証、その方式及び趣旨により真正に成立した公文書と推定する同第二号証の一、右武田の証言及び原審における控訴本人尋問の結果を総合すれば、被控訴人は自動車の販売を業とするものであるところ、控訴人との間に昭和四三年二月二七日原判決添付目録記載の自動車一台を、代金を六六万〇、五六〇円と定め、代金支払方法、所有権留保等に関して被控訴人主張の内容の月賦販売契約を締結し、これを控訴人に引渡した事実が認められる。
二、しかして、原審証人武田功の証言により成立を認める甲第三号証、右証人武田の証言及び控訴本人尋問の結果を総合すると、控訴人は右月賦販売契約に基づき昭和四三年四月二八日までの頭金、月賦金一一万八、五六〇円を支払つたのみで、同年五月分以降の支払を怠つたので、被控訴人は同年一〇月一三日控訴人の承諾の下に前記売買契約を解除し、同日前記自動車を控訴人から被控訴人に返還した事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
三、しかして、前掲甲第一号証によれば、本件月賦販売契約には、買主において割賦金の支払を怠つたことを理由として売主から解除されたときは、法令(割賦販売法第六条)に定める限度額の損害金を売主に支払うべき約定がなされた事実が認められるところ、同号証の文言を形式的に解すれば、右は法定解除、約定解除の場合のみを想定したものとみられなくもないが、しかし、買主が割賦金の支払を怠つたため、売主において法定の解除手続をとることなく買主の承諾を得て契約を解除したような合意解除の場合にも、反対の意思表示がなされない限り適用する趣旨と解するのが合理的である。蓋し、法定解除、約定解除は、契約が一方当事者の解除権の行使によつて消滅するのに、合意解除は契約によつて消滅するという差異はあるけれども、契約が遡及的に失効する点においてはなんら差異がない。従つて、これを失効せしめる実質的理由が買主側の債務不履行にある場合には、減損金支払の約定に関する限り、法定解除、約定解除と合意解除との間に結果を別異にすべきなんらの実質的根拠もないから、合意解除においても反対の意思表示がない限り、当事者は約定損害金の授受がなされることを当然の前提としている趣旨とみるべきだからである。
しかるところ、前掲甲第三号証及び右証人武田の証言を総合すると、本件自動車は控訴人が引渡を受けてから使用したため、前記返還の翌日である昭和四三年一〇月一四日における価格は二九万八、六九三円に低下した事実が認められ、前記売買代金額六六万〇、五六〇円と右二九万八六九三円との差額すなわち減損額が三六万一、八六七円であることは計数上明らかである。
四、そうだとすれば、控訴人は被控訴人に対し金三六万一、八六七円から既に支払いを受けた一一万八、五六〇円を控除した残額二四万三、三〇七円及びこれに対する合意解除の翌日である昭和四三年一〇月一四日より完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は結局相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷部茂吉 石田実 麻上正信)