東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2461号 判決 1970年5月29日
理由
一 被控訴人が控訴人および訴外日双建設株式会社の共同振出名義の原判決てん付手形目録表示のような記載のある約束手形一通を現に所持していることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、被控訴人は、右約束手形は、控訴人が前記訴外会社と共同して振り出したものであると主張し、控訴人は、これを否定するので、この点について判断する。
原審における証人坂井章は、本件約束手形は、前記訴外会社の代表取締役であつた控訴人より同訴外会社の運営全般を委任されていた坂井章が、昭和四三年一月下旬ないし同年二月上旬ころ、電話を使つて控訴人に対し、同約束手形を振り出す事情を説明したうえ、同約束手形金債務について振出人である前記訴外会社のために控訴人個人において保証をしてもらいたい旨頼んでその了承を得たので、この控訴人の意思にもとずいて、前記手形債務を保証する趣旨のもとに、控訴人個人の記名、押印をして前記訴外会社と共同して振り出したものである旨供述し、また、原審における証人渡辺正は、右証人坂井の供述を補強するような供述をし、さらに、甲第二号証には、右の各供述と同旨の記載があり、いずれも被控訴人の前記主張にそうところがあるけれども、右各証拠は後記各証拠に対比してたやすく信用しがたく、その他本件にあらわれた全証拠をし細に検討しても被控訴人の前記主張事実を確認することができない。
かえつて《証拠》を総合すると、控訴人は、昭和四二年四月ころ、坂井章にこん願されて前記訴外会社の代表取締役に就任したが、同会社の運営は、専務取締役である右坂井の要請もあつたため、ほとんど同人に任かせていた。ところが、控訴人は、同四三年二月はじめころから、自己の本業であるフジ技術コンサルタントの設計仕事が多忙となり、それまで同訴外会社の経営内容をみるために週に一―二回ほど出社していたものの、これも不可能となつたばかりでなく、すでにそのころには、同訴外会社の運営を任かせていた前記坂井に対して何かと不信の念をいだくようになつていたため、同年三月一日前記訴外会社の代表取締役を辞任することとし、その旨の辞職届(乙第四号証)を同会社の取締役会あてに提出した。ところが、これよりさき同年二月ころ、右坂井は、前記訴外会社が被控訴人より買い入れた木材代金を支払うために被控訴人あてに本件約束手形を振り出すこととなつたが、その際、被控訴人より右訴外会社の振り出す約束手形については、控訴人個人の保証をしてもらいたい旨要求されたので、右訴外会社の振出名義の本件約束手形を作成すると同時に、控訴人には何んの断わりもなく、勝手に、右の約束手形債務を保証する趣旨のもとに、同約束手形の振出人らんにさらに控訴人個人の住所、氏名を記入し、その名下にかねてから同訴外会社で物品等を購入するのに必要であるとして控訴人には無断で作成使用していた控訴人名義の印鑑を押捺し、もつて、右訴外会社と控訴人個人の共同振出名義の本件約束手形を作成し、これを被控訴人に交付するにいたつたものであることが認められる。
三 そうだとすると、控訴人は、本件約束手形について共同振出人としての責任がないものといわざるを得ないから、控訴人に対し共同振出人として本件約束手形金の支払を求める被控訴人の本訴請求は、これ以上判断を加えるまでもなく、失当として棄却を免れない。
四 よつて、右と異なる原判決は不当であつて、本件控訴は理由がある