東京高等裁判所 昭和44年(ネ)3017号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕<前略> 一 控訴人らの権利
(一) 控訴人Yは昭和三二年四月一日から昭和三五年一一月二三日まで、控訴人株式会社Y穀機発明所は同年同月二四日から昭和三六年三月三一日まで、登録実用新案第四一四、七一九号(昭和二七年四月五日出願、昭和二九年六月二四日設定登録、考案の名称「除糠機」。)の各権利者であつた。
(二) 本件考案の実用新案出願公告公報における登録請求の範囲の記載は、「外覆9内に架設した多孔筒1内に廻転軸4に対し傾斜した数個の翼片5を各別個に腕子6を介して軸4の一方に固定した該軸の他方に移送螺旋8を装備してなる除糠機の構造」である。<後略>
〔判決理由〕二 本件考案において、「廻転軸に対し傾斜した数個の翼片」というのは、本件考案の実用新案出願公告公報によると、その実用新案の性質、作用及び効果の要領の項の記載及び図面の記載に徴し、数個の翼片が廻転軸の中心線に対して移送方向に傾斜している構造を意味するものと認めるのが相当である。
三 そこで、次に、被控訴人会社の製作販売したクリスタル号細川式精米機が果して控訴人主張の(イ)号物件のとおりのものであつたかどうか、換言すれば、その腕子の腕先端に形成してある翼片およびそれに取り付けられている研穀羽根の面が前叙のような趣旨において廻転軸に対して傾斜している構造のものであつたかどうかについて検討する。
(1) <書証>によると、現実に精米に使用されていた被控訴会社の製作販売にかかるクリスタル号細川式精米機で、その研穀羽根板の翼片(研穀翼)がいずれも軸線に対し移送螺旋と同方向(移送進行方向)に若干の傾斜をしていると認められるものがあつたことを認めることができる。
(2) しかし、他方において、原審における検証の結果(第一、二、三回)によれば、同様のクリスタル号細川式精米機において、その研穀羽根板の翼片(研穀翼)は必ずしもすべて軸線に対し移送螺旋方向と同方向(移送進行方向)に傾斜しているとはいえず、むしろその逆方向に傾斜しまたは軸線に平行なものが少なくないことを認定することができる。
(3) <書証>および本件口頭弁論の全趣旨によると、被控訴人会社は、名称「横型研穀装置」なる登録実用新案第四八三、八八二号実用新案(昭和三二年四月四日出願、昭和三三年一〇月二九日設定登録)の権利者であること、右登録実用新案においては、回転横軸の周囲に多数放射状に取り付けた研穀羽根板(本件考案の研穀翼に相応する。)およびその羽根面は回転横軸と平行させ、かつ、その一つおきの羽根面をスクリューコンベヤーの移送方向と同方向の一螺旋上に配置し、他の一つおきの羽根面をそれより後退した一螺旋上に配置した構造のもので、スクリューコンベヤーから送られて来た穀粒は右のように各螺旋上に配置された研穀羽根面によつて衝撃を与えられながらスクリューコンベヤーの押送力によつて移送され、その間に研穀、除糠が行なわれたものであることならびに本件で問題とされているクリスタル号細川式精米機は被控訴人会社の有する右登録実用新案の考案をそのまま実施したものということはできない(右クリスタル号細川式精米機は、右登録実用新案における「一つおきの羽根面を一螺旋上に配置し、他の羽根面をそれぞれ前述の羽根面より後退した螺旋上に配置して成る」ものといえないことは、(イ)号物件の図面および説明書と前掲乙第二号証の二とを対比することにより明らかである。)が、右登録実用新案の考案における「回転横軸の周りに多数放射状に取り付けた研穀羽根板およびその羽根面を回転横軸に平行させ、かつ、羽根面を一螺旋上に配置する」という構造を実施に移したものであると推認すべきふしもないではないことがうかがわれる。
叙上(2)および(3)の認定事実を参酌して考えると、叙上(1)の事実は、直ちに、被控訴人会社が製作販売したことを自白しているクリスタル号細川式精米機が控訴人主張の(イ)号物件どおりのものであること、換言すれば腕子の腕先端に形成してある研穀翼およびこれに取り付けられた研穀羽根の羽根面が回転軸の軸心に対してコンベヤーのリード方向に若干傾斜した構造を備えるものであつたことを断定すべき資料とすることができない。また、<書証>記載の鑑定結果および原審における控訴人Y本人尋問の結果は、叙上(2)および(3)の事実と対照するときは、当裁判所の採用しえないところである。そして、他に、被控訴人会社が控訴人主張どおりの構造を備えた(イ)号物件を製作販売したことを肯認するに足りる確証はない。
この点に関連して、控訴人らは、クリスタル号細川式精米機は使用によつてたやすく変形するような素材を用いて結果的に本件考案と同じ構成要件を保持しようと企図したものに外ならない旨主張し、原審における控訴人米山金次郎本人尋問の結果中にはこの趣旨の供述部分があるが、前叙(2)および(3)の認定事実と対比して採用しがたく、他に右主張事実を確認すべき証拠はない。
四 以上検討したところによると、結局、被控訴人会社が控訴人主張のような構造を具備した(イ)号物件を製作販売したとの控訴人らの主張は認容しがたいこととなるから、この主張を前提とする控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。よつて、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を理由なしとして棄却……する。
(服部高顕 石沢健 滝川叡一)