大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)3114号 判決

代物弁済の予約が消費貸借契約に基づき、抵当権設定契約とともに締結せられ、とくに債権担保のため締結されたことが明らかな場合においては、右予約締結時における物件の価額が弁済期における元利金と比較して必ずしも合理的な均衡を缺くものとはいえないとしても、債権者において特に債権確保の手段をはなれて特に自ら物件の所有権を取得すべき格別の事情があるため、事のついでに代物弁済の予約をあわせ規定したというような事情のない限り、それは本来の代物弁済の予約ではなく、その実質は担保権と同視すべきであるところ、成立に争いない甲第二号証の記載によれば、本件代物弁済の予約も消費貸借契約に基づき抵当権設定契約とともに締結せられ、債権者に両者いずれの方法をもつてするかの自由を保障するとともに、債権者は三井物産株式会社傘下の商事会社で担保目的以外に特に本件物件を必要とせず、代物弁済によつてもなお債務の不足金を生じたときは債務者は現金をもつて弁済すべき旨約定していることが認められるのであつて、これによれば本件代物弁済の予約もまたその実質債権担保のため締結されたものであり、しかも、いわゆる清算型すなわち予約完結時を基準としてそのさいの物件の価額と債務額とを比較し、その差額あるときはこれについて請求又は返還の清算をなすべき類型に属するものというべきである。従つて債権者が、このような代物弁済の予約を原因としこれが物件を処分して債権の満足を得る前提として所有権を取得し、かつ当該物件についてした所有権移転請求権保全の仮登記に基づいて、本登記手続及び引渡の請求をするには、当然右予約完結時の物件価額を評価し、もしその価額が債務額を超過するときは、その差額を担保提供者に返還すべき清算を伴うこととなる。債権者は代物弁済予約完結によつて所有権を取得した以上、爾後いずれの時期においてこれを換価処分するか、もしくは処分せずに自らこれが所有権を行使するかは、全く債権者の自由にまかされているから、右清算の基準時を現実の換価処分時とするのは相当でない。この場合、担保提供者の有する差額返還請求権は、物件の所有権が債権者に移転し、登記ないし引渡を了した後においては、必ずしも確保せられがたいことを考えれば、右差額の返還と物件の登記引渡とは債権者が物件の換価処分による売却代金を取得した後においてのみ差額金を支払えば足りるとする特段の事情のある場合を除いては、同時履行の関係にあるものと解するのが、最も公平にかなうゆえんである。

これを本件についてみるに、被控訴人はまず右予約完結時の本件土地建物の時価は前記の金一八七五万八、六〇〇円と評価したものであるから、返還すべき差額はないという。前顕甲第二号証(抵当権設定証書)の第四条中には物件の評価は債権者に一任する旨の文言があるが、これはもとより債権者の恣意を許す意味ではなく、債権者が客観的合理的方法によつてすることを前提とするものと解すべきであるところ、予約完結の意思表示をした昭和四三年六月二〇日ころにおける本件土地建物の時価が被控訴人主張の価額であるとする客観的合理的資料はないから、この点の被控訴人の主張は失当である。しかして弁論の全趣旨により成立を認める甲第一八号証(日本不動産研究所の鑑定書)によると、昭和四三年六月二〇日ころの本件土地建物の時価は金二一七二万円であることが認められる。従つて右金額から、被控訴人の自認する本件債務元本内金一八〇〇万円及びこれに対する貸付の日から昭和四三年四月二六日までの間の日歩金二銭六厘の約定利息の未払分金二六万三六〇〇円ならびに同月二七日から同年六月二〇日までの間の日歩金五銭の遅延損害金四九万五〇〇〇円合計金一八七五万八六〇〇円を差引いた金二九六万一四〇〇円が、控訴人が被控訴人から支払を受けるべき差額金であり、控訴人は、被控訴人から右金二九六万一四〇〇円(この予約完結時から支払ずみまで法定利率による遅延損害金の支払をもあわせ求めうるものと解するのが、本件のように現在物件が値上りしていること前記甲第一八号証により明らかな場合、予約完結時を清算の基準とすることの当然の帰結といいうるが、本件では控訴人はあえてこれを主張しないので遅延損害金の点は不問にする)の支払を受けるのと引換にのみ、本件土地建物について前記仮登記に基づく本登記手続をし、かつその引渡をすべき義務があるものというべきである。

(浅沼 岡本 田畑)

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