東京高等裁判所 昭和44年(ネ)433号 判決
一、控訴人は右賃貸借契約は当時施行されていた宗教法人令第一一条第一項の手続を経ていなかつたから同条第二項により無効であると主張する。
成立に争いのない甲第二五ないし第二七号証及び当審証人菅野亀治の証言によると、控訴人は本派浄土宗に所属していたこと及び本件賃貸借契約の締結につき総代の同意を得ず所属宗派の主管者の承認を受けなかつたことが認められるところ、当時効力を有した宗教法人令第一一条によれば寺院(代表役員)が所有不動産を処分するには、総代の同意を得、かつ所属宗派の主管者の承認を受けなければならなかつたから、本件賃貸借契約は期間二〇年であり、かつ借地法上期間満了によつても地上に建物の存する限り正当の事由がなければこれを解消せしめえない点で土地所有権に対する重大な制約であること、当該土地の処分と択ぶところがないとの実質に着目する限り同条第二項によつて無効であるとの見解もなりたたないわけではない。しかし、民法第六〇二条が処分の権限を有しない者のする建物所有のための土地の賃貸借は、五年を超えることができない旨規定していることと、借地人の保護を図る観点にたつて考えると、右のような賃貸借契約を直ちに不動産の処分と同視し、これを全部無効とするのは相当でなく、五年を超えない部分に限り有効であると解すべきであるから、本件賃貸借契約は、契約結約の日である昭和二一年一一月一五日から向う五年間存続しその後さらに更新されたことになる。
二、進んで被控訴人らの契約の追認ないし新契約締結の主張について判断する。
前記甲第二七号証によれば、控訴人は宗教法人法に基づき、昭和二八年五月四日宗教法人として設立登記を経由したことが認められるが、なるほど従前の本件土地の賃貸借契約は短期賃貸借としてのみ有効であつたものというべきところ、控訴人が右のように組織変更したからといつて、直ちに当然に右契約が長期賃貸借として有効となるものではないとしても、宗教法人法によつて寺有の境外地について処分の権限を取得した控訴人の代表役員は右組織変更後も小野喜市や被控訴人小野昌利との従前の賃貸借につき何らの異議を述べないばかりか、何回かにわたり賃料を値上げして現在にいたつていることが、当事者間に争いないので、右事実から推認する限り、控訴人は少くとも組織変更後はじめて賃料を値上げした時点において、暗黙のうちに本件土地に関する従前の賃貸借契約を追認したものと解するのが相当であり、右追認により本件土地の賃貸借契約は昭和二一年一一月一五日の契約締結の当初にさかのぼつて、すでに経過した期間をも含めて期間二〇年の長期賃貸借として有効となつたものと解するのが相当である(仮りに右宗教法人令当時控訴寺院代表役員のした本件賃貸借は長期にわたり重大な制約を所有権に課する点で寺有不動産の処分と同視するとすれば、これは無権代理人のした行為として無効であるものと解する余地があり、これをその後その権限を取得した控訴人の代表者が追認したものであるから、これは無権代理人の行為に対する本人の追認と同視しうべく、結局において上記判示の結論と同一に帰着する)。
(浅沼 浅賀 田畑)