東京高等裁判所 昭和44年(ネ)51号・昭44年(ネ)52号 判決
主文
(一) 原判決を取消す。
(二) 浦和地方裁判所熊谷支部が同庁昭和三四年(ヨ)第六七号不動産仮差押事件につき同年五月八日なした仮差押決定(不動産物件目録の一ないし五の各(2) の各不動産に関する部分は除く)はこれを取消す。
(三) 同裁判所熊谷支部が同庁同年(ヨ)第五六号有体動産仮差押事件につき同年四月二七日なした仮差押決定はこれを取消す。
(四) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人に主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は次に付加するほか原判決事実欄記載のとおりであるからこれを引用する。
(控訴人の陳述)
(一) 千葉倉庫株式会社が被控訴人との間で昭和三四年四月一日政府貨物に関して締結した寄託契約上の債務を不履行した場合に生ずべき損害賠償債務につき、控訴人が被控訴人に対し連帯保証したとの被控訴人主張事実は控訴人が一審以来争うところである。
(二) 本件各仮差押事件の本案である浦和地方裁判所熊谷支部昭和三五年(ワ)第一三九号事件(第一審)において同裁判所は、控訴人の右連帯保証責任を否定し、千葉倉庫株式会社の代表取締役であつた控訴人に対し商法第二六六条ノ三に基づく損害賠償責任を認め、同事件の控訴審である東京高等裁判所もまた(同庁昭和三九年(ネ)第六〇二号事件)第一審判決と同旨の判断をして控訴人の被控訴人に対する右連帯保証責任を否定し、本件仮差押の被保全権利と異なる商法第二六六条ノ三に基づき被控訴人に対し損害賠償責任を認めたものにすぎない。そして同事件の上告審である最高裁判所昭和四二年(オ)第五八八号事件において同裁判所第一小法廷は同四五年三月二八日上告棄却の判決を言渡し、前記本案判決は確定したから、本件各仮差押事件の被保全権利である控訴人の被控訴人に対する連帯保証に基づく損害賠償義務は否定されたもので、前記のとおり商法第二六六条ノ三に基づき控訴人が被控訴人に対し損害賠償債務ありとしても、全く別個の事実関係に基づくから、本件各仮差押の効力はこれには及ばず、事情変更ある場合に当るから、本件各差押は取消さるべきものである。
<証拠省略>
理由
(一) 被控訴人は控訴人を債務者として、被控訴人主張のとおりの被保全権利に基づき(但し、控訴人が被控訴人に対しその主張のような連帯保証をしたことは争がある)本件各仮差押申請をなし、各仮差押決定のなされたこと、昭和三五年一月二八日浦和簡
易裁判所において被控訴人と千葉倉庫株式会社ほか四名の間で控訴人主張のような即決和解が成立したこと(控訴人はその当事者となつていない)、右即決和解において、千葉倉庫株式会社、矢島芳雄、矢島広次、齋藤登、八洲化学工業株式会社(以上五名を「千葉倉庫ら五名」と略称)は連帯して被控訴人に対し昭和三五年三月末日限り金二〇〇万円の割賦金を支払うこと(和解条項三、(1) )を約し、右同日被控訴人は、「千葉倉庫ら五名」と控訴人との間で右即決和解に附帯し、覚書(原判決添付「別紙第三」)を以て「千葉倉庫ら五名」及び控訴人が右即決和解条項三、1に基づく金二〇〇万円の割賦金の支払を了したとき、被控訴人は直ちに、控訴人所有の不動産(全部)及び有体動産(全部)に対する仮差押の解放手続をすることを約したこと、「千葉倉庫ら五名」控訴人が被に対し右和解条項三、1所定の割賦金二〇〇万円を超える金二五一万一三一四円を支払つたこと原判決(原審昭和四三年(モ)第一三八号事件)別紙第一不動産物件目録記載一ないし五の各(2) の不動産に対する仮差押の執行が取消されたこと(原裁判所昭和四一年(モ)第三〇号)は当事者間に争がない。
(二) 被控訴人は、右覚書により「千葉倉庫ら五名」及び控訴人が前記和解条項三、1所定の割賦金二〇〇万円は同人らにおいて昭和三五年三月末日限り支払を了した場合、被控訴人は控訴人所有の右不動産及び有体動産に対する仮差押執行の解放手続をすることを約したもので、右期限経過後はたとえその支払があつても、被控訴人に右仮差押執行の解放手続をする義務はないと主張し、「千葉倉庫ら五名」から被控訴人に対し前記和解条項に基づく金二〇〇万円に該当する金二五一万一三一四円が支払われたのは、約定の支払期限である昭和三五年三月末日を遙に経過した後である同年九月五日ごろであつたことは当事者間に争いがない。しかし<証拠省略>を総合すれば、「千葉倉庫ら五名」は千葉倉庫株式会社の被控訴人に対する本件寄託契約上の債務不履行に基づく損害賠償債務のため昭和三五年一月二八日被控訴人との間で、控訴人主張のような即決和解をなし、被控訴人に対し同和解条項記載のとおりの債務を負担することを約し、控訴人は「千葉倉庫ら五名」と共に同日被控訴人との間で右和解条項に附帯して、右覚書に記載のような契約を締結し、「千葉倉庫ら五名」及び控訴人において被控訴人に対し「右和解条項三、1所定の金二〇〇万円を同年三月末日限り支払つたときは、被控訴人は控訴人所有の本件各不動産及び有体動産に対する仮差押執行の解放手続をすること」を約したものであつて、右金二〇〇万円の支払期限である同年三月末日限りという期限は、単なる形式的な文言にすぎないものではなく、確定期限であることは控訴人においても充分これを了知していたものであつたことが疎明される。これに反する原審並びに当審<証拠省略>もたやすく措信するに足らず、右即決和解及び覚書による契約が成立するまでの過程に、当審における右証人の証言、当審における控訴本人の供述に見られるような経緯があり且つ、右覚書の文言中に、右金二〇〇万円の支払期限が明示されていないとしても右覚書による契約は本件即決和解に附帯するものであることが明記されていることに照らして、前記認定を左右するに足りない。従つて右金二〇〇万円の支払期限である同年三月末日を徒過した後にその支払があつたとしても、特段の事情の窺えない本件では、被控訴人は控訴人に対して本件仮差押執行の解放手続をする義務を負うものではないというべきである。
(三) そこで控訴人の当審における主張(二)について検討する。
<証拠省略>並びに前示当事者間に争いない事実によれば、被控訴人は同人を債権者とし、控訴人を債務者として、控訴人の被控訴人に対する本件損害賠償に関する連帯保証債務を被保全権利として控訴人所有の不動産及び有体動産に対し本件各仮差押をなし、ついで被控訴人は控訴人を相手方として控訴人の右連帯保証債務を第一次的請求原因とし、千葉倉庫株式会社の代表取締役であつた控訴人に対する商法第二六六条ノ三に基づく損害賠償責任を第二次的請求原因として浦和地方裁判所熊谷支部に右仮差押事件の本案訴訟を提起し(同庁昭和三五年(ワ)第一三九号事件)たところ、同裁判所は同三九年二月三〇日控訴人の右連帯保証責任は否定し、同請求原因に基づく被控訴人の請求を排斥(尤も同裁判所は、控訴人の商法第二六六条ノ三に基づく損害賠償義務を肯定して被控訴人の請求を認容)する判決をなし、同事件の控訴審である東京高等裁判所もまた(同庁同三九年(ネ)第六〇二号事件)同四一年一一月一五日第一審判決と同趣旨の判断をして、控訴人の右連帯保証責任を否定(但し商法第二六六条ノ三に基づく控訴人の損害賠償義務を認容)して控訴棄却の判決をなし、同事件の上告審として最高裁判所は(同庁同四二年(オ)第五八八号事件)同四五年三月二六日第一小法廷において上告棄却の判決をしたので、右第一審判決は確定したことが疎明される。従つて、右各仮差押事件の本案事件では、控訴人の右連帯保証責任は否定せられたものであつて、同訴訟事件において被控訴人が予備的請求原因として控訴人に対し右商法第二六六条ノ三に基づく損害賠償請求を附加して訴求し、勝訴したとしても被控訴人が取得した右確定判決は、商法第二六六条ノ三に基づく控訴人の損害賠償義務を認容したにすぎない以上、被控訴人において本件各仮差押事件の本案で勝訴判決を取得した場合には該当せず、むしろ右各仮差押事件の本案にあたる請求すなわち控訴人の右連帯保証に基づく損害賠償請求においては敗訴判決が確定したものと認むべきであるから、(被控訴人に対する商法第二六六条に基づく請求と右連帯保証に基づく損害賠償請求とが仮りにその請求の基礎において訴の追加的変更が許される程度の同一性を有するとしても、このことからただちに前者が本件各仮差押に対する本案の請求たり得るとする見解は当裁判所のとらないところである。)、本件各仮差押は民事訴訟法第七四七条第一項の「事情ノ変更シタルトキ」に該当し取消を免れないものと解すべきであつて、控訴人の本件申立は理由があるといわなければならない。
(四) よつて控訴人の本件申立を棄却した原判決は取消し、本判決主文(二)(三)のとおり控訴人の本件取消申立を認容し(本件各仮差押取消の裁判が直ちに効力を生ずべきことはいうまでもない。)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 川添利起 長利正己 田尾桃二)
別紙不動産物件目録<省略>