東京高等裁判所 昭和44年(ネ)569号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一 控訴人らがそれぞれの主張のとおり本件考案の権利者であつたこと、本件考案の登録請求の範囲の<注>記載、その構成要件及び作用効果がいずれも控訴人ら主張のとおりであること、被控人が別紙第二記載のような転軸部の構造を有する(ただし、精白筒のボスの部位及びボスの厚みと精白筒の凸部の厚みが同一であるか否かについては争いがある。)(イ)号物件を製造販売したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 本件における第一の主要な争点は、(イ)号物件の転軸部の構造につき、精白筒のボスとはどの部分を指称するものであるが、右ボスの厚みとスクリュウコンベヤーとの係合接続のため精白筒に設けられた凸部部の厚さとがほぼ同一であるか否かの点にあるので、まずこの点について検討する。
<証拠>によれば、機械用語として、ボスとは、普通、「ハンドル、各種の車そのほか車輪状の鋳物などで軸のはまる孔の縁に補強のためにつけた突起した肉厚の部分」をいうものであることが認められ、これによると、一般に、(イ)軸のはまる孔の縁に設けられたものであること、(ロ)孔の縁の補強の機能を有すること、(ハ)突起した肉厚の部分であること、以上の三要件を具備するものをボスと呼ぶものであることが明らかである。
ところで、<書証>を対照して、別紙第二(イ)号物件説明書及び添付図面第一図ないし第四図を検討すると、(イ)号物件の精白筒とスクリュウコンベャーの転軸部の構造について、次のとおり認めることができる。すなわち、スクリュウコンベャーに設けられた凹部の厚みは、二山螺旋を除いた円筒状部の厚みと一致しており、精白筒に設けられた凸部は、スクリュウコンベャー寄りの側端面に、廻転軸の貫通する孔の周縁から一定の厚みを有し、かつ若干の高さを有する環状突起(BA―四旧型では厚さ約八粍、高さ約二粍)があるが、この環状突起とほぼ同一の厚みを有して突設されている。右環状突起は、廻転軸のはまる孔の縁に設けられた突起した肉厚の部分であり、これの無いものに比べて、孔の縁の補強の機能を奏するものであることは否定しえない。したがつて、前記認定に徴し、右環状突起は精白筒のボスに該当し、精白筒の凸部の厚みは右ボスの厚みとほぼ同一のものである。以上のように認めることができる。
被控訴人主張のように、(イ)号物件の精白筒においてボスと呼ぶべき部分は、廻転軸貫通孔の周縁から精白翼片の下底周縁までの間の部分を指すものとみることは、当裁判所の採用しえないところである。すなわち、右被控訴人指摘の部分は、孔の周縁における突起した部分を形成するものとはいえず、また、右部分は精白筒内部において左右に偏心した渦巻形の孔として貫通孔より大きい風室を形成した精白筒の側端部であつて、この部分の肉厚は、偏心孔の側端部であることの当然の結果として、周縁の位置によつてそれぞれ異なるものであるから、孔の周縁を補強するというボスの本来有すべき機能にかんがみ、このような部分をボスと解することは当をえたものとはいえないと考えられるからである。<証拠排斥>
三 そして、本件考案の構成要件が控訴人主張の(A)ないし(C)のとおりであることおよび(b)のうち精白筒の凸部の厚みがボスの厚みとほぼ同一である点を除いて(イ)号物件の転軸部の構造が控訴人主張の(a)ないし(c)のとおりであることは当事者間に争いがなく、かつ、(イ)号物件の精白筒の凸部の厚みとほぼ同一であると認めるべきことが叙上判示のとおりである以上、(イ)号物件の構成は本件考案の構成要件と一致するものといわなければならない。もつとも、本件考案が精麦機における転軸部の構造であるに対し、(イ)号物件は精米機であるから、精白の対象を異にするものであるが、それぞれの転軸部の構成において同一のものであるから、(イ)号物件の転軸部の構造において、精米固有の機能を営むべき他の手段構成を付加したもののあることを認めるべき証拠がない以上(イ)号物件の転軸部の構造を精米に供しても、精麦に供しても、転軸部として奏すべき作用効果に差異はないものといわなければならない。したがつて、(イ)号物件の転軸部の構造は、本件考案のものに比し、その構成に由来する作用効果においても異なるところはないというべく、(イ)号物件は、転軸部の構造において、本件考案の技術的範囲に属するといわざるをえない。
四 (イ)号物件の転軸部の構造が本件考案の技術的範囲に属する以上、被控訴人が(イ)号物件を製造販売したことは、他に特段の事情がない限り、控訴人らの権利を違法に侵害したものというべきであり、右特段の事情のあることは被控訴人の主張立証しないところであるから、被控訴人はこれによつて控訴人らに与えた損害を賠償すべき義務がある。
五 そこで、進んで、損害額について検討する。
控訴人らが被控訴人に対し、本件考案の権利者として、その実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額、すなわち実施料相当額の金銭を損害の賠償として請求しうることは明らかである。そして、控訴人らは、本件考案の実施料相当額を一台につき少なくとも一、五〇〇円である旨主張する。しかし、被控訴人において、右実施料相当額を一台につき二〇〇円の限度で認めるほか、他に実施料相当額が一台につき一、五〇〇円であることを認めるべき的確な証拠がない。したがつて、右争いのない限度において、本件考案の実施料相当額を一台につき二〇〇円とみて損害額を算定するほかない。他方、被控訴人が昭和三三年二月以降一カ月三〇〇台を下らない(イ)号物件を製造販売したことは、当事者間に争いがない。したがつて、控訴人らが本訴において請求する損害算定の基準に従つて計算すると、控訴人らの損害額は次のとおりとなる。すなわち、控訴人米山については、本件考案の権利者であつた昭和三四年七月一日から昭和三五年七月一九日までの間、一カ月三〇〇台の割合で計算した範囲内の四、六六六台分につき、一台二〇〇円の割合で計算した合計金九三三、二〇〇円がその損害額であり、控訴人会社については、本件考案の権利者であつた昭和三五年八月一〇日から昭和三六年二月末日までの間、同様割合で計算した合計二、〇〇〇台分につき、前同様の割合で計上した合計金四〇〇、〇〇〇円がその損害額というべきである。
六 したがつて、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求は、控訴人米山につき、損害賠償金九三三、二〇〇円及びこれに対する昭和三六年四月八日(本件訴状送達の日の翌日。記録上明らかである。)から完済まで年五分の民事法定利率による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、控訴人会社については、損害賠償金四〇〇、〇〇〇円及びこれに対する前同日から完済まで前同率による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものというべきである。
よつて、控訴人らの請求をすべて棄却した原判決を失当として取消し、控訴人らの請求を右理由のある限度でそれぞれ認容し、その余をいずれも失当として棄却することとし、……主文のとおり判決する。(服部高顕 石沢健 瀧川叡一)