大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)80号 判決

訴人被(原告) 林一郎

控訴人(被告) 菊島富子 外七名

〔抄 録〕

思うに、共同相続人の一人のみが相続財産につき現実の占有をしているからといつて、その全部につき自主占有をするものではないと解すべきである。この場合、共同相続人の一人がその相続分につき自主占有を有することは疑がなく、相続分は一の観念的分量にすぎないから、占有の観点からは相続財産全部につき自主占有を有するともいえそうであるが、他の共同相続人との関係においてはその権原の性質上その者の相続分につきその者のために占有するものというのほかなく、その限りにおいてその占有は他主占有と認めざるをえないのである。それ故に、共同相続人の一人が相続財産全部につき自主占有をするというがためには、他の共同相続人の相続分についても自主占有をなしうる本権を取得するか(外観上で足り、その取得の有効無効に関係がない)、またはその者に対し自主占有をなすべき旨の意思を表示しなければならないのであつて(民法第一八五条)、この点に関する被控訴人の見解はもとより正当として是認すべきである。しかしながら、翻つて考えるに、相続は占有の態様を変更すべき新権原というをえないにせよ、本権の承継を伴う意味において新権原に近く、しかも、相続が単独相続であるか共同相続であるか明らかでない場合も稀ではなく(被相続人に婚姻外の子があるような場合に考えられよう)、共同相続人の一人が単独相続をしたものと誤信することもありうるから、共同相続人の一人が単独相続をしたものとして相続財産を現実に占有し、その管理、使用を独断専行してその収益を独占し、自己のみの名において公租公課を納付しているような場合には、その相続人は相続財産を単独相続したものとしてこれを自主占有するものとするに妨げないと解すべきである。もとより、共同相続人の一人が相続財産を単独で占有管理し、その収益を収め、自己の名において公租公課を納付している場合でも、通常の場合は他の共同相続人のために事務管理としてしているのであつて、これにより直ちに他の共同相続人の相続分につき自主占有をするものとは認めがたいであろう。しかし、共同相続人の一人が相続財産の使用収益を独断専行してその効果を他の共同相続人に帰せしめず、自己の名において公租公課を納付しながら、他の共同相続人に対してその償還を求めないような場合は、むしろ相続財産を単独相続したものとしてその自主占有を始めたもの、またはその外観上他の共同相続人に対し黙示的に自主占有の意思を表示したものと解するを妥当と考える。

(長谷部 鈴木信 石田実)

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