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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)202号 決定 1974年9月03日

抗告人 岩崎恵一 外一名

相手方 山手興業株式会社

主文

一、原決定を次のとおり変更する。

二、(1)  相手方が抗告人らに対し、本裁判確定の日から四箇月以内に金五千八百参拾万円を支払うことを条件として、別紙目録記載の借地契約を堅固な建物の所有を目的とする契約に変更する。

(2)  前記契約目的変更の効力が生じたときは、借地契約の存続期間を右変更の効力が生じた日から五拾年とし、賃料を右の日から壱箇月金弐拾六万六千円とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。相手方の本件申立を却下する。」との旨の裁判を求める、というのであり、抗告理由の要旨は、抗告人らと相手方との間の本件借地契約は、一時使用の為に設定したものであるから、相手方の本件借地条件変更の申立は却下さるべきものであり、仮に然らずとするも、原決定が相手方に命じた財産給付額は不当に低額であるというのである。

二、そこで審案するに、当裁判所は、原審で提出された資料に当審において新たに提出された準備書面及び証拠資料を総合して検討するも、抗告人らと相手方との間において別紙目録記載のとおりの堅固ではない建物の所有を目的とする借地契約が成立し、かつ、現在本件土地は防火地域に指定され、近隣には高層堅固な建物が立並ぶなど、土地の利用状況に変化を生じたため、右契約の目的を堅固な建物を所有することに変更するのを相当とするに至つたと判断するものであつて、この点に関する原決定の認定、判断は正当というべく、右借地契約が一時使用のための契約であつて、相手方の本件申立は却下さるべきである旨の抗告理由は失当たるを免れない。

三、次に、原決定中借地条件の変更に伴う財産上の給付及びその他の付随の処分の当否について検討する。

本件記録及び当審の審理の経過に徴すれば、本件に関連して昭和四四年以降抗告人より相手方に対する建物収去、土地明渡請求訴訟事件及び相手方より抗告人らに対する借地権確認請求反訴事件が東京地方裁判所に係属し、本件借地契約の存否及びその内容について当事者間に紛争が生じていたため、当裁判所において本件の審理を事実上延期していたところ、東京地方裁判所において昭和四九年五月一三日右訴訟事件及び反訴事件につき相手方勝訴の判決が言渡されるに至つたことが明らかである。

ところで、借地非訟事件における借地条件変更の裁判は、借地契約成立後土地の利用をめぐる諸般の事情の変化により、契約内容を変更することが合理的となつたにもかかわらず、当事者間において合意が成立しない場合、裁判所が、当事者間の紛争を予防し、かつ、土地の高度な利用をはかる公益的見地から、当事者間の合意にかえて契約内容を変更せしめ、あわせて財産上の給付その他の付随処分によつて契約内容の変更に伴う当事者間の利害を調整し、衡平をはかるものであつて、右裁判の効力は形成的であるから、財産上の給付その他の付随処分の内容を定めるに当つては、形式的効力が生ずる時点に最も接近した裁判時を基準とすべきものであり、このことは抗告審の裁判においてもかわりはないものというべきである。而して、本件は、前記の事情により原決定時より既に五年有余を過ぎ、その間経済事情が変動し、特に都会の土地価格が著しく高騰したことは当裁判所に顕著な事実であるので、原決定中、財産上の給付及びその他の付随処分に関しては、現在では当事者間の利害を調整し、衡平をはかる処分として相当でなくなつたものといわざるを得ず、原決定はこの点において変更を免れない。本件抗告理由は右の限度において正当である。

四、そこで、当裁判所においては、新たに鑑定委員会の意見を徴し、当事者双方を審問し、更にこれ迄の借地契約の内容及び本件借地条件変更の申立以後における審理の経過等一切の事情を総合斟酌し、本件借地契約の目的を堅固な建物を所有することに変更するための条件として、相手方は抗告人らに対し、この裁判が確定した日から四箇月以内に金五千八百三十万円を支払うべきものとし、かつ、右条件が履行され借地契約の目的変更の効力が生じた日から、借地権の存続期間を五十年とし、賃料の額を一箇月金二十六万六千円とすることが相当であると認める。

よつて、原決定を右のとおり変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 平賀健太 安達昌彦 後藤文彦)

(別紙)目録(借地契約の内容)<省略>

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