東京高等裁判所 昭和44年(ラ)536号 決定
民法三二五条二号の規定によつて不動産の工事を原因として生じた債権につき先取特権を取得する者は、同法三三八条一項の定めるところにより、右工事を始める前に予かじめその費用の予算額を登記することによつてその効力を保存しうるものとされているため(建物を新築する場合の登記手続については不動産登記法一三六条ないし一四〇条に定めるところによる)、たとえ不動産の工事を原因として生じた債権であつても、それが登記されておらず、あるいはすでに工事を始めた後にその登記をしたとしても、第三者との関係においてはもとより、当事者間においてもその効力を有しないと解するのが相当である(大審院大正六年二月九日判決民録二三輯二四四頁、同院昭和九年五月二一日判決法律新聞三七〇三号一〇頁参照)。これを本件についてみるに、本件記録に編綴されている本件家屋の登記簿謄本(記録六一丁ないし六七丁)によると、相手方がその主張にかかる本件家屋の工事を原因として生じた債権につき何らの登記をもしていないことが認められ、他に右登記の存在することを認めるに足る証拠はない。したがつて、相手方はその主張にかかる不動産工事を原因として生じた債権につき先取特権を有することを抗告人に対しても主張することができない。
(多田 上野正 岡垣)